1980年代にアメリカ西海岸のロサンゼルスを発祥として世界を蹂躙した(?)「LAメタル」ムーブメント。
ヴィジュアル・マーケティングという時代の流れにうまいこと乗っかって、次から次へと新たなバンドがメジャーデビューを果たしました。
シーンの盛り上がりと共に、粗製乱造、同質化といった避けては通れない負の要素も顕在化し始めた頃に、ギミックなのか天然なのか不明の「極悪・最凶バンド」として強烈にデビューしたのが「W.A.S.P」。
当時、怖いもの見たさから博打的にレコードを購入し、良い意味で思い切り肩透かしをくらった回想とともにご紹介させて頂きます。
W.A.S.P / W.A.S.P(1st)レビュー
LAメタルでひと際異彩を放った極悪・最凶キャラ
1984年リリースのW.A.S.P.のデビューアルバム(邦題:「魔人伝」)。
当時のヘヴィメタルに関する情報源と言えば、創刊間もない「Burrn !」や深夜TV番組の「PURE ROCK」程度という状態。
そんな「情報に飢えたヘヴィメタル・リスナー」に刺激的過ぎるプロモーションだったのが、W.A.S.P.のデビューに関する取り上げ方でした。
既に「イロモノ」バンドのレギュラーポジションは、KISSやTWISTED SISTERが固めており、一方ではRATTやDOKKENなどと言った女性ファンの目がハート型になってしまうような洗練されたバンドも大きな支持を得つつあったHR/HMシーン。
そんな空気感を一切読まずに、股間に丸ノコギリの歯をつけ、後ろは半ケツ、ステージでは血のりを吐きまくりという過激なパフォーマンスを「売り」にデビューしてきたのがW.A.S.P.でした。
主犯(?)格のブラッキー・ローレスは何と「Burrn !」の創刊2号の表紙を飾り、バンド紹介記事では(記憶が曖昧ですが)「メンバーは全員前科者です」くらいの最凶アピールぶりだったと思います。
(確かドラムスのトニー・リチャーズが一番ヤバイ設定だったような…。)
とにかく、極悪、最凶、過激、お下劣、おバカ(?)を最大の「売り」とする逆張りの発想でひたすらシーンの注目を集めるというマーケティング手法が斬新でした。
果たしてこれは計算されつくした差別化戦略なのか?、はたまた天然の下品集団なのか?、未だにその真偽は不明のままですが。
当時のLPレコード盤には過激で猥雑な歌詞のため収録不可となった楽曲「Animal (Fuck Like A Beast)」もあったほどで、こちらは後発のCD盤で1曲目として収録となりました。
後に、ヘヴィメタル界の大御所「ロニー・ジェイムス・ディオ」のとりまとめによる「アフリカ飢餓救済チャリティ・プロジェクト(Hear ‘n Aid)」に参画し、中央に陣取って積極的に盛り上げているブラッキー・ローレスの姿を目の当たりにし、そのあまりのギャップに驚かされたのを記憶しています。
そりゃそうですよね、ギミックだったんですよね…。
蛇足ですが、そんなW.A.S.P.をトリビュートする日本のバンドが「L.O.V.E. MACHINE TOKYO」。
こちらは当時の温度感をそのまま今も保っておられる貴重なバンドで、もはや大切に後世に継承していきたい「伝統芸能の域」です。
音楽性はいたってまともな王道HR/HMサウンド
LPレコードを購入して帰って、ものものしいジャケットを眺めながら文字通り「恐る恐る」針を落としたW.A.S.P.初体験。
耳に飛び込んできたのは序奏無しでいきなり始まるブラッキー・ローレスのヴォーカル。
声質の第一印象は完全に酒焼けして潰れた喉を酷使するだみ声スタイルで、ジーン・シモンズと被るイメージ。
楽曲タイトルをひたすら勢いのみで連呼するサビは、否が応でも頭にこびりついてしまいます。
そして、しっかりとギターソロなんかもあったりして、良い意味での肩透かしを食らったような状態に。
「何これ、全然まともじゃん…。」
そして、アルバムを聴き進むにつれ急速に薄れていく「イロモノ」感。
時折欧州的なメロディなんかも感じさせながらのキャッチーでシンプルな王道のHR/HM楽曲が次から次へと展開されるではありませんか。
完全に一杯食わされましたね~。
演奏のテクニックに多少の危なっかしさ(特にギター)は感じたものの、それをカバーするに余りある楽曲の良さ、ポップなセンスが抜群に光っています。
ということで、バイト代つぎ込んでレコード買った甲斐がありました…。
メンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: ブラッキー・ローレス(兼ベース)
- ギター : クリス・ホルムス
- ギター : ランディ・パイパー
- ドラムス : トニー・リチャーズ
収録曲
- I Wanna Be Somebody – 3:43
- L.O.V.E. Machine – 3:51
- The Flame – 3:41
- B.A.D. – 3:56
- School Daze – 3:34
- Hellion – 3:39
- Sleeping (In the Fire) – 3:55
- On Your Knees – 3:47
- Tormentor – 4:09
- The Torture Never Stops – 3:55
おすすめ楽曲
I Wanna Be Somebody
怖いもの知らずの新人バンドの良さが分かりやすく表現された、勢いのみで押しまくる楽曲。
PVではヴィジュアル系であることを最大限に活かした最凶ぶりを演出させています。
とにかくサビを連呼して脳に叩き込むヘッドギア戦法は、最後の方は呪いの呪文のようにも聴こえてくる程の徹底ぶり。
よくある自己啓発本で、なりたい自分になるには一日に何回もその理想の姿の自分を声に出して言い続けることだ、みたいな事が言われていますが、本曲はまさしくそれを実践していますね。
「俺は直ぐに成り上がる!」って、ストレート過ぎです…。
L.O.V.E. Machine
一曲目で良い意味で化けの皮が剥がれてしまい、2曲目の本曲で完全にポップでキャッチーな楽曲を軸にした王道のLAメタルバンドであることがあっさりと露呈。
おどろおどろしいどころか、いたって取っつきやすく聴きやすい部類のバンドという印象が脳内を完全占拠します。
「L.O.」~「V.E.」って情感込めて極悪人が歌うサビじゃないですよね~。
その後の曲でも「B.」~「A.」~「D.」ってやってますから、この持っていき方が好きなんでしょうね。
Hellion
個人的に本作でのベストチューンが登場。
滅茶苦茶格好良いの一言につきます。
ヘヴィメタルリスナーであれば曲名だけでもう期待値は青天井でうなぎ上りですよね。
その期待に見事に応えてくれました。
心地よい疾走感、追唱されこれまた脳に焼き付くサビ、ヘタウマ感が逆に生々しく格好良く聴こえるギターソロなど、本作のみならず個人的W.A.S.P.のベストチューンと言ってしまいましょう。
Sleeping (In the Fire)
この辺りまで聴き進んで来ると、完全に「イロモノ」感は皆無ですね。
ギターソロも人間国宝デイヴ・メニケッティ節を想起させるような泣きのフレージングかましてきたり。
良いじゃあーりませんか。
極悪人が情感豊かに、綺麗にハモリながら歌い上げるバラードっていうギャップに思わず笑ってしまいます。