YESTERDAY AND TODAY/STRUCK DOWN レビュー
アメリカン・ハードロックの王道を行く「渋さ」
1978年にリリースの「Yesterday and Today」の2ndアルバム。
1976年にデビューアルバムをリリースしてから2年後、元々のバンド名「Yesterday and Today」名義で残された2枚目の作品です。
唐突ですが、私は「渋い」という形容詞をよく使います。
この「渋い」という言葉は実に便利で、様々なシーンでついつい口にしてしまいます。
- ファッションのセンスなど無意識に滲み出てくるような格好良さを表現したい時
- 旧車などの古き良き時代の物事を懐かしみながら表現したい時
- サッカーなどのスポーツで熟練の技、経験に裏打ちされた先を読んだプレイなど
- 本来、ダサい、格好悪いという印象をもったものの、直接的に貶すのも気が引ける時
- 文字通り、ケチ臭い、心が狭い、期待外れで残念な人、物事を目の当たりにした時
などなど、「渋いなぁー先生」と茶化したり、「やや渋・鬼渋・激渋」と強弱をつけたりしながら楽しんでおります。
話を戻して本作ですが、これが良い意味での「渋さ」が溢れているんです、実に。
バンドメンバーはオリジナルの不動の4人。
1stアルバムのジャケットで短パン1丁で登場したレオナード・ヘイズ先生も健在です。
前作に引き続き、ブリティッシュ・ロックの古参レーベルであるロンドン・レコードからリリースされた本作。
サウンドメイクは当時を感じざるを得ないチープ感はあるものの、アメリカン・ハードロックの王道であるダイナミックさに欧州風の叙情的なエッセンスが交じり合わさった印象で、ストレートに体幹に響いてくるような「渋い」作品です。
このバンドの屋台骨はメニケッティ&ヘイズだと確信
既述の通り、サウンド・プロダクションは基本的に前作と同様ながら、楽曲はますますブリティッシュ・ロックの影響の強さを感じさせる「渋さ」が溢れるラフで荒々しい仕上がりとなっています。
後に「人間国宝」と称されるデイヴ・メニケッティの「泣き」のギターもその片鱗を少しずつではありますが見せ始めています。
次作で突如の覚醒を魅せる「泣きメロ」はまだ封印されてはいるものの、シンプルでストレートなアメリカン・ハードロックの王道を軸としつつも、欧州的な湿り気のある重厚感や叙情性と言ったフレーバーも感じさせるまさに「鬼渋」の楽曲群はさすがです。
その原点となっているのはデイブ・メニケッティの音楽的センスは勿論のこと、屋台骨としてバンドサウンドの根幹を支えるレオナード・ヘイズのドラミングにあるように思います。
とにかくバスドラの刻み方が独特で、手数も多いドラミングが個人的には大好き!。
当時のバンドが標榜した音楽性をここまで力強く具現化することを可能にしたのは、レオナード・ヘイズのグイグイ引っ張るドラミングの貢献度がかなり高かったのではと思えます。
ちょっとだけジャケットいじり
最も愛してやまないバンドですが、その後の作品でもジャケットデザインで何かと物議を醸すことの多いバンドです。
本作でも少しだけいじっておきましょう。
と、言っても本作は「70年代ハードロックのアルバム」としては合格点、上出来ではないでしょうか。
今回は「暴れん坊将軍」レオナード・ヘイズ先生の暴走もなく、無難にまとまっております。
(最後列でやや恨めし気な顔をしておりますが…)
当時はスカーフみたいなのが流行りだったのでしょうか、みんなして首に巻いてますが、ヘイズ先生だけは首が太くて短いのか巻いておりません…。
それにしてもデイブ・メニケッティの真っ赤な上下のスーツに白いスカーフという、グラハム・ボネットもビックリのスタイルも、大きな違和感もなくサマになっているのが凄いですね。
また、後年に頬から顎にかけての無精ひげでむさ苦しさ全開となるジョーイ・アルヴィスも、本作ではお肌スベスベの好青年といった感じ。
とにかくみんな若いですね。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: デイヴ・メニケッティ(兼ギター)
- ギター : ジョーイ・アルヴィス
- ベース : フィル・ケネモア
- ドラムス : レオナード・ヘイズ
収録曲
- STRUCK DOWN
- PLEASURE IN MY HEART
- ROAD
- NASTY SADIE
- DREAMS OF EGYPT
- TRIED TO SHOW YOU
- I’M LOST
- STARGAZER
おすすめ楽曲
STRUCK DOWN
フランジングを効かせたリフから、いきなりのメニケッティ節が全開です。
スローテンポにも近いスピード感にも関わらず、じっくりとこれでもかとタメを作りながら、その間を間抜けとならないようにバスドラや手数の多さでちょいちょい主張してくるヘイズのドラムも序盤からの聴きどころ。
対照的にややポコポコした印象が強いフィル・ケネモアのベースラインは控えめで、一生懸命に楽曲を落ち着かせている役回り。
いやーオープニング、タイトルチューンにしてこの楽曲。
「渋い」「渋過ぎます」。
PLEASURE IN MY HEART
これまた、思わず唸ってしまいそうになる「渋さ」爆発。
1stアルバムに収録の名曲「Beautiful Dreamer」からの踏襲を感じさせる、こちらも良曲です。
この曲でも強めにフランジングを効かせたギターサウンドは、ブリティッシュ・ロックのオルガンのようなテイストを醸し出そうとした狙いがあるように思います。
(キーボード不在であの独特の後を引くようなサウンドを出す苦肉の策?)
それにしても、ここでもヘイズ先生は叩きまくっていますね…。
I’M LOST
後の1995年リリースの Y&T 10枚目アルバム「Musically Incorrect」に、アレンジし直されて再収録されることになる名曲です。
どちらを先に聴くかにもよりますが、さすがに「Musically Incorrect」での完成度高く練り直されたヴァージョンを聴いてしまうと、物足りなさを感じてしまい、キレ味の鋭さに差が出てきてしまいますが、本作のオリジナル版も「渋み」は十分に効いていますね。
本曲でのヘイズ先生のドラムは流石に無理があるというか、詰め込み過ぎによる消化不良状態に陥ってしまっている印象。
(ヘイズ先生の悪い癖、調子に乗り過ぎです…)
「Musically Incorrect」でのアレンジ・リメイク版、「ジミー・デグラッソ」による緊張感が半端ないタメの効いたドラミンングに余裕で軍配が上がりますね。
圧勝です。
STARGAZER
フィル・ケネモアにより書かれた楽曲で、リードヴォーカルも担当。
ほのぼのバラードかと思いきや、そこはやはりフィル・ケネモアの代名詞でもあるお約束の雄叫びが炸裂しての急展開をみせる異質な楽曲です。
まとめ
やや一本調子のフックに欠けた印象の楽曲が多かった1stアルバムに比べ、着実に進化をとげつつ、伝説の次作へつながるようなエッセンスも感じさせる本作2ndアルバム。
バンド名を伏せて楽曲だけを聴けば、多くの人が欧州(ブリティッシュ・ロック)のバンドであろうと感じるに違いない独特の湿り気を帯びています。
本流、軸として力強く存在するアメリカン・ハードロック・バンドとしてのアイデンティティに少しずつ撹拌されていくかのように溶け込んでいく欧州叙情的なエッセンス。
次作、3rdアルバムにしてバンドとしての最高傑作とも評される伝説の名盤を繰り出すY&T。
その「誕生前夜の作品」「Before / After」として是非おさえておきたい本作でもあります。