2021年のメタルシーンの特筆すべきトピックとして盛り上がりを見せたのが「待望のHELLOWEENの新譜」と「東北の雄FLAMESIGNのデビュー作」でしょうか。
カイ&キスクが復帰した奇跡の完全版として、かなり早くから隙の無い話題作りとプロモーションを仕掛けていたHELLOWEENの新譜。
シーンの反応はある意味想定内、異様なほどに我も我もとSNSなどで「捕獲しました報告」がなされていました。
一方、当の本人達も少し驚いてしまう位に想定外の(?)好調なアルバムセールスとなったのが、我らが日本勢のFLAMESIGN。
勿論アルバムの内容、楽曲自体の出来栄えの良さが最大の好調要因ですが、SNSなどを駆使しての地道なプロモーション活動が功を奏して、口コミでその良さが拡がっていった事も大きかったように思います。
そして、これらの現象から個人的に感じ取れる「ゆったりとしたうねり」のような感覚。
これは単なる願望でしかないのかも知れませんが、「本格正統派ヘヴィメタル」の復活~台頭のうねりが深海の奥底で起きつつあるように思えてなりません。
ということで、かなり強引ですが今回は英国正統派ヘヴィメタルの最後の継承者として期待されつつ、遅すぎた登場でその好機を逸した実力派。
「MARSHALL LAW」のデビューアルバムをご紹介します。
MARSHALL LAW / MARSHALL LAW(1st)レビュー
Judas Priest の後継者とも言われた本格正統派
ブリティッシュ・ヘビーメタルにおける確固たる地位を築き上げたメタルゴッド 「JUDAS PRIEST」。
その英国正統派HMイズムの最後の継承者として期待されていたのが「MARSHALL LAW」。
MARSHALL LAWのデビューアルバムは1989年にリリースされました。
特徴は何と言っても、コテコテの正統派ヘヴィメタルをキャッチーでメロディアスな味付けで格好良く調理しているところ。
ツインリードで時に様式美溢れるリフ&ソロを展開し、ほのかに北欧の湿気も感じられるメロディラインとで覚えやすいサビメロが、アルバムのどこから切っても繰り出されてきます。
今改めて聴きながら思えば、神の領域には程遠かったな…と今さらながら赤面してしまいそうになるものの、大仰に聴かせる変なわざとらしさ、自己満足の無駄なハイトーンシャウトなどが一切無く至って分相応。
本人達が自らの立ち位置を見失わずに当時に出来るベストのパフォーマンスでアルバムを真面目に作り上げたという印象です。
正統派ヘヴィメタルってにゃぁに?と聞かれたら…
音楽のジャンル、カテゴリーに明確な定義はないので、どうしても「〇〇みたいなやつ」とか「〇〇的な」という比喩比較が伝承していくためには必要です。
「当時の正統派HMってどんなやつ?」などと、HR/HMをあまり良く知らない人から問われた時に、IRON MAIDENやJUDAS PRIESTを引き合いに出すのは簡単ですが、あまりに象徴化してしまい既に固有の「型」みたいなものが出来上がっちゃっている感じがします。
そんな時に、さりげなく「Marshall Law」あたりが結構解りやすいかな?なんて紹介してあげると、少しずつHR/HM認知度の裾野も広がっていって良いかなーなんて思います。
因みに、私はそのような会話となった際には「SHOK PARIS」や「MARSHALL LAW」、とっつきやすい「LEATHER WOLF」あたりを引き合いにだして、何とかしてこちら世界に引きずりこもうと企んでおります。
バンドメンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: Andy Pyke
- ギター : Dave Martin
- ギター : Andy Southwell
- ベース : Roger Davis
- ドラムス : Lee Morris
収録曲
- Armageddon
- Under The Hammer
- Rock The Nation
- Marshall Law
- Hearts And Thunder
- Screaming
- We’re Hot
- Feel It
- System X
- Future Shock
- When Will It End?
おすすめ楽曲
Under The Hammer
アルバムのオープニングは、Armageddonという短いインスト曲で始まり本曲へとつながっていく構成。
他の方々のレビュー等で見かけたのが、「まるでJUDAS PRIESTの”復讐の叫び”におけるヘリオン~エレクトリック・アイを髣髴とさせるようだ!」というもの。
「そうだ!そうだ!」と盛り上がっていきたいところですが、神を相手にして流石に軽々しくそれはないだろ的な自制心が妙に働いてしまいます。
(それほどまでに、”復讐の叫び”は凄過ぎる境地という事だと思います)
ということで、神には及ばずもほのかにMADISON「Lay Down Your Arms」あたりの香りも漂う良質な疾走曲。
2バスドコドコのドラムがお上手。
個人的にはバスドラかくあるべきという「重み」を感じつつタイトな刻みがgoodです。
ただ速いだけのズンドコ節バスドラが多いとお嘆きの貴兄に辛口の菊正宗、いやおすすめのドラミングです。
Screaming
でました!、正統派継承者の証。
クサすぎるとは言わせません、これぞ正統派ヘヴィメタルのツインリード。
珠玉リフが炸裂する必殺曲ですね。
JUDAS PRIESTの後継者とも言われる所以は間違いなく本曲のリフ、メロディラインとヴォーカルの歌い回しにある筈。
しかしながら、このヴォーカルの良いところはあくまでも分相応で無駄な力みが一切無いところ。
個人的にこの曲中には3回ほどお約束のハイトーンをかます箇所があるように思いますが、いずれも不発…。
「うぉーーーあーーーーー!」みたいなライブでの再現性の低いシャウトは致しません的なある意味頑固なポリシーを感じます。
控えめと言えば、折角のツインリードもソロはいたっておとなし目のプレイ。
もうちょっと「掛け合い」的なフレーズ合戦も聴きたい欲求に駆られますが、あくまでも楽曲の流れを崩さない地味なソロプレイに徹しています。
Feel It
どこかで聴いたような感覚を持つ人が多いのでは?という懐かしさと哀愁を感じるメロディラインが印象的なキャッチーな楽曲。
北欧的なエッセンスを加えつつ、これまた無難なギターソロでまとめ上げられており悪く言えばフックがなく抑揚に欠ける印象ですが、親しみ易さという視点では完成度は抜群です。
疾走感や勢いだけで胡麻化すことのない落ち着いた良曲が多いのも本作の魅力といえるでしょう。
まとめ
1989年のリリースでギリギリ滑り込んだか?と思えたMARSHALL LAWのデビューアルバム。
既にHMシーンにはグランジ・オルタナ勢の漆黒の闇が押し寄せようとしている時期での航海開始となりました。
(個人的な好みの問題での表記となりすみません)
あと数年早くデビューしていれば…。
そう評されながらも藻屑と消えていった多くの当時の名盤の一つとして、間違いなく伝承に値するMARSHALL LAWの本デビュー作は、徹頭徹尾英国ヘヴィメタルのサウンド、スタイルが貫かれた傑作です。
粒揃いで完成度の高い楽曲は、派手さは無いものの正統派HMをこよなく愛する私のような輩には理想的で至福の時間を与えてくれるアルバムです。
悲しいかな、その後バンドは時代の潮流に完全に飲み込まれてヘヴィネス化の道を辿っていきましたが…。