ROYAL HUNT / Land of Broken Hearts レビュー
逆風に立ち向かった捨て曲無しの名盤デビュー作
1993年リリースのRoyal Huntの記念すべきデビューアルバム「Land of Broken Hearts」。
日本のバブル経済は崩壊し、HR/HMシーンにおいても新興のオルタナティブロックがその勢力を確実に拡大する逆風の環境下。
北欧デンマークから、厳しいシーンの逆風をものともせず真っ向勝負で殴り込みをかけてきたのがRoyal Huntでした。
かつてGODとまで崇められた某ヴォーカリストやHR/HMの王道を極めていた某バンドまでもが、シーンの潮流に迎合し、魂を売り渡して音楽性を豹変させていく中で、Royal Huntの漢気溢れる本作デビューアルバムは本当に貴重で存在感がありました。
天才と言って良いでしょう「アンドレ・アンダーセン」のキーボードやギターから次々と繰り出される荘厳なメロディは、嫌味にならない程度に適度にクラシカルな装いで楽曲を高貴に仕立て上げています。
自称、単細胞メロハー愛好者の私のような輩にとってはこの「適度具合い」が非常に重要でして、あまりにプログレッシブに振られ過ぎてコネクリ回されると聴くことに疲れてしまってついていけなくなっちゃうのですよね。
なので、本作Royal Huntのデビュー作のような複雑過ぎずに適度に展開のフックも感じられ、かつキャッチーさも兼ね備えたメロディ重視の楽曲はまさに理想形に近いものがあります。
確かにデビュー作と言うことで、特にヴォーカルのヘンリック・ブロックマンなどはお世辞にも誉められた歌唱ではありませんが、そんな欠点をも見事に吹き飛ばしてくれているのがやはりメロディと楽曲作りの卓越したセンスのような気がします。
しかもそれが1曲、2曲のまぐれ当たりではなく、アルバム全編を通して高いクオリティで保たれているというのが本作の凄さですね。
後にヴォーカルが変わり楽曲も更に緻密でスケールアップした構築美を魅せることとなりますが、既に本デビュー作において Royal Hunt のバンドとしての音楽的方向性はガッチリと確立されており、並々ならぬセンスとテクニックによりそれが強固に下支えされていることが鮮明でした。
当時、本作を始めて聴いた時には「いやいや、HR/HMもまだまだ安泰じゃのぉ~」などと〇〇殿様のように思ってしまった自分を思い出します。
デンマークと言えば…
ちょっと寄り道しますが、私の中でデンマークと言ったらやはり「個人的史上最高のゴールキーパー」ピーター・シュマイケル。
そして、ミカエル&ブライアンのラウドルップ兄弟という、いずれもサッカー選手が先ずは思い浮かびます。
類稀なる身体的能力や才能センスに恵まれながらも、決して傲慢になることなく全体最適、FOR THE TEAMに徹する献身的なプレイぶりが大好きでした
そんな私にとってのデンマークを象徴するものとして確実に新規にラインナップされたのが「Royal Hunt」というバンド、そして「アンドレ・アンダーセン」というアーティストでした。
こちらも天才的な才能とテクニックを持ち合わせつつも、あくまでも楽曲としてのバランスを重視した引きの美学をも兼ね備えた真の頭脳派プレイヤーですね。
スポーツと音楽という異なるジャンルを超越した共通点が見いだされるような気がします。
メンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: Henrik Brockmann
- ギター : André Andersen
- ベース : Steen Mogensen
- ドラムス : Kenneth Olsen
- キーボード: André Andersen
収録曲
- RUNNING WILD
- EASY RIDER
- FLIGHT
- AGE GONE WILD
- MARTIAL ARTS
- ONE BY ONE
- HEART OF THE CITY
- LAND OF BROKEN HEARTS
- FREEWAY JAM
- KINGDOM DARK
- STRANDED(ボーナス・トラック)
- DAY IN DAY OUT(ボーナス・トラック)
おすすめ楽曲
RUNNING WILD
オープニングを飾るドラマティックかつエモーショナルな名曲。
衝撃的なイントロから一気に雪崩のように押し寄せる美旋律。
あくまでメロディはリスナーに寄り添った解りやすくシンプルな作りで、決してリスナーを置き去りにするような自己満ものではありません。
それでも展開のポイントとなる要所要所に細部にこだわったアンドレ・アンダーセンのキーボードアレンジが施され、飽きのこない丁寧な楽曲作りに引き込まれます。
ミュート強めのドラムの音色も楽曲の世界観にマッチしていて落ち着きがあってナイスですね。
中音域で勝負するヘンリック・ブロックマンの歌唱は時折BON JOVI辺りを思わせ、喉を無理やり潰したようなSEXYな声質を意識している感じ。
個人的に北欧メタルあるあるとして、ヴォーカリストの鼻づまり声とイモ臭さにはいつも目をつむっていますが、この人に限っては幸いにもその両方を持ち合わせてなくデビュー作に相応しいフレッシュ感と思い切りの良さがあります。
EASY RIDER
出だしは「インスト曲か?」と思わせる展開も、しっかりと2番バッターの仕事を遂行する2曲目。
日本人の琴線と親和性の高いメロディを展開するこのバンドが日本のマーケットで躍動することを早くも確信した楽曲です。
難しいことを自己満で難しいまま表現することは実は簡単で、Royal Huntの楽曲のように難しく感じさせずに伝えることのできるバンドこそが実はよりテクニカルだったりする気がします。
そしてその楽曲作りはヴォーカリストのヘンリック・ブロックマンの力量や持ち味も考慮したかのような非常に気持ち良く歌い回せるキャッチーなメロディになっていますね。
(その気遣いを良いことに、当の本人は時折意味不明な高音シャウトを発していますが…)
FLIGHT
キーボード美旋律を堪能できる鍵盤好きには至福の名曲ですね。
適度にシンフォニック、適度にクラシカル、適度にテクニカル、そして適度にキャッチー、とにかく何もかもが丁度ええバンドRoyal Hunt!。
中盤のソロ部分ではキーボードという楽器の凄さを知らしめられるような没入感に浸れます。
ONE BY ONE
アルバム中盤、6曲目で登場する個人的本作最高楽曲。
クサい、クサ過ぎる。
そしてそのクサさが堪らなく大好きな自分がいる…。
この曲を一聴してからと言うもの、ドラマティック過ぎる曲展開と哀愁溢れるシンプルなサビメロの虜となってしまい、脳細胞にガッツリ埋め込まれてしまった棺桶楽曲。
Royal Huntの歴代ベスト曲を選定する機会があれば間違いなく上位に食い込んでくる名曲です。
中盤の曲展開で繰り返し刻まれるリズムにゾクゾクと鳥肌が立ち、儚い泣きフレーズのギターソロ。
いまだに油断して聴いてると泣きそうになっちゃいます。
KINGDOM DARK
EUROPEをはじめとする北欧メタルの先駆者バンドが培ってきた歴史を総括するかのような、古典的なアプローチを愚直に表現した、これまたクサさが堪らない楽曲。
「みんなどうしちゃったの~?」
「北欧メタルの良さってコレでしょ~?」
ってな感じで、軸をブラさずに勇壮にシーンの潮流に挑むかのような意気込みが感じられますね。
Royal Huntというバンド名に相応しい荘厳で高貴な世界観を纏いつつも、メロディ展開はシンプルかつ明快。
変にこねくり回して出し惜しみせずに1コーラス目で一気にサビメロを聴かせる潔さに好感を持つとともに、その後の楽曲展開でいくらでも盛り上げられるという自信の顕われのようなものを感じます。
まとめ
今でこそプログレッシブでテクニカルなバンドと評されることとなるRoyal Huntですが、1993年の本作デビューアルバムでは、非常にシンプルな古典的北欧メタルを愚直に展開。
特に日本人の琴線にはドンピシャのメロディセンスでドラマティックかつキャッチーな解りやすい楽曲を量産してくれていました。
当時、既にHR/HMシーンの潮流はオルタナティブロックへと大きくシフトしていきつつあった中で、勇猛果敢に直球勝負の様式美スタイルで挑んだRoyal Huntのデビュー作は、あまりに完璧で完成度の高いクサ過ぎる名盤です。