VIXEN / VIXEN(1st) レビュー
実力派「ガールズハードロックバンド」としてのデビュー
1988年リリースの VIXEN のデビューアルバムです。
VIXEN は当時では珍しい女性のみ4人組のHR/HMバンドとして注目を集める存在となります。
しかもこの4人がそれぞれに確かな実力を備えた本格派という点がセールスポイントでしたね。
女性というビジュアル面だけでない最強ガールズ・ハードロックバンドとして演奏と楽曲の完成度に焦点が当てられました。
VIXEN の活躍は、その後に続く女性バンドに多大なる影響を与えたことは間違いありません。
多様性を持つ4人の音楽性は、HR/HMという強靭さとパワーが求められる音楽ジャンルにおいて、しなやかにアジャストされ不思議な感覚を醸し出しながら妖艶なパフォーマンスを見せていました。
そして、単なる男勝りバンドではない女性特有のエモーショナルな表現もあえて封印することなく前面に押し出すことで、女性バンドであることの優位性を最大限に活用しながらその人気を確立していくことになります。
スコアチャート
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ジャネット・ガードナー
- ギター : ジャン・クエネムンド
- ベース : シェア・ペダーセン
- ドラムス : ロキシー・ペトルッチ
【収録曲】
- Edge of a broken heart – 4:24
- I want you to rock me – 3:28
- Cryin’ – 3:32
- American dream – 4:18
- Desperate – 4:14
- One night alone – 3:49
- Hell raisers – 4:25
- Love made me – 3:17
- Waiting – 3:09
- Cruisin’ – 4:21
- Give it away – 3:32
おすすめ楽曲
Edge of a broken heart
記念すべきデビューアルバムのオープニングを飾るのは、あのリチャード・マークスが共作している楽曲。
さすがは往年のヒットメイカーだけに、序盤は落ち着いたムード感にあふれつつもサビに向かって盛り上げていく手堅くパワフルな流れ。
一気に畳みかける印象的なサビメロという、売れる要素しか見当たらない曲作りとなっていますね。
(実際にこの曲がバンド史上でも最大の象徴的なヒット曲となります)
注目された演奏は、ミドルテンポでヴォーカルをメインで聴かせる楽曲ということもあり、この曲だけではその真価はまだ判断がつきませんが…。
少なくともビジュアルだけのバンドではないどっしりとした腰が入った安定感がありますね。
特に、派手さは無いもののパワフルかつ基本に忠実なリズム隊が印象的です。
ギターもあえてテクニックは封印しているのでしょうか、余裕を感じる落ち着いた演奏を聴かせています。
Cryin’
初期のKISSを想起させるようなベーシックロック調の2曲目を楽しんだ後に続く3曲目。
こちらは女性らしさを前面に押し出したHEARTをも髣髴とさせるポップナンバーですね。
このままハートのアルバムに引っ越しても誰も気づかないんじゃないの?という位の、シングルカット間違いなしの売れ線楽曲です。
キーボードのメロディが印象的で心地よいですが、ライブに向けては正規メンバーの招聘が必要だななどと余計なお世話を考えてしまいます…。
Desperate
印象的なメロディのイントロで始まる抒情派哀愁チューン。
イントロ早押しクイズだったら、RIOTの「Maryanne」と一瞬早とちりしてお手付きしてしまいそうな引っ掛け問題ですね。
バッキングのギターもエッジが効いており、そろそろ本領発揮か?という感じです。
ギターソロも比較的気合の入った感じで、なかなかかっちょ良くキメています。
Love made me
ここで音圧と音量が急変し、パワフルな楽曲が始まってちょっとビックリしちゃいますね。
本作では3人のプロデューサーが関わっているそうですが、あからさまに他の曲とはミキシングが異なっています。
キーボードが奥に引っ込みあくまでもギターメインでバッキングを刻んでいくこの曲のようなスタイルの方が、このバンドには合っているような気がします。
サビメロではなぜかLIONSHEART「CAN’T BELIEVE」を思い出してしまいました。
まとめ
メンバー全員が確かなテクニックを誇る本格派ガールズ・ハードロックバンド「VIXEN」。
デビュー当時のうたい文句であまりに「演奏の技量」にスポットをあてたものが多かったので、聴く方もどうしてもそれなりの先入観を持ち、高いバーを設定して聴いてしまうことに…。
蓋を開けてみれば、実際にはドラムが女性にしてはまあまあパワフルかな?程度。
ベースは基本ラインに忠実で遊びも少なく、ギターは控えめ。
むしろキーボードが何気に幅を利かせている曲があったり、というのが当時と変わらぬ率直な印象です。
ヴォーカルは女性ならではのしなやかさ、エモーショナルでパワフルな歌い回し、緩急自在な器用さを魅せており一人抜きんでた存在感がありますね。
少々拍子抜けのような印象はぬぐえませんが、当時VIXENというガールズバンドがシーンで生き残っていくためには至極まともなアプローチ、ある種計算しつくされた戦略であったのかなと思います。
数多の既存のテクニシャンが群れをなすHR/HMシーンで「女性にしてはそこそこ」程度の技量で正面から勝負を挑んだところで、色眼鏡で瞬間的な注目を浴びるだけで終わるのが関の山。
それよりもあくまで女性であることの優位性をフル活用しながら、楽曲の完成度、コマーシャルベースに拘ってその認知度を着実に獲得していく戦略の方が確実性が高かったのでしょうね。