ALLEN LANDE / THE BATTLE レビュー
本作との出会い
90年代の終わりから2000年代前半にかけてのHR/HMにおける暗黒時代(個人的に勝手に言ってます)に、私はそれまでほぼ毎週のように通っていた新宿やお茶の水の聖地に足を運ぶことをやめました。
当時のシーンの潮流に全くついて行けず、自分が求める新譜を探し出すのに疲れてしまったからです。
(買っても買っても個人的にハズレが多すぎ!)
そうした数年のブランクの後、ふと久しぶりに立ち寄った新宿の聖地。
店内に流れていたのがこのアルバムでした。
もーう、店内のCDなんか見てるふりだけで全く心ここにあらず状態で聴き入っちゃいましたね~。
そしてレジカウンターに飾られたプレイ中のアルバムをガン見して確認し、迷わず購入~一目散で家に帰った記憶があります。
天才仕事人「マグナス・カールソン」による超絶名盤
スウェーデン出身のマルチプレイヤー マグナス・カールソンによるプロジェクト「アレン・ランデ」の2005年リリースの1stアルバム。
当時、北欧メロディアス・ハードロック愛好会の会員№1番(会員数1名)を自負していた私にとっては、スウェーデンという国名を聴いただけでパブロフの犬のように期待で胸が膨らんでしまいました。
「アレン・ランデ」のプロジェクト名の由来は、プログレッシブメタルの Symphony X のヴォーカル「ラッセル・アレン」と、元 Masterplan のヴォーカル「ヨルン・ランデ」の合体技。
東京の地名で言えば、東京市大森区と蒲田区が合体してできた「大田区」みたいな感じですね。
でも、楽曲は全てマグナス・カールソンが手掛けており、ドラム以外の全てのパートの演奏も担当しているというスウェーデンの天才仕事人が作り出したアルバムと言って良いでしょう。
しかも嬉しいことに、この手のプロジェクトにありがちな「一発限り」で終るパターンではなく、後に2枚のアルバム(正確にはメンバーが代わってからも含めて3枚)を世に輩出してくれたという出血大サービスぶりに、本当に心から感謝です。
本アルバムの魅力は何と言っても「楽曲の完成度」。
メロディアスハードロックを愛する全ての人が賛辞を惜しまないであろうメロディセンスと曲展開により、収録曲全楽曲においてフックに富んだドラマティック感溢れるクオリティを誇っています。
そして、声質の似た2人の実力派ヴォーカルが、楽曲の世界観を十二分に広げながら縦横無尽に歌いまくると言った、まさに「バトル」状態が繰り広げられており、もはやどちらが歌っているのか?は正直わからなくなってしまいます。
4曲目のバラード曲「Reach A Little Longer」のヴォーカルがヨルン・ランデとクレジットされているので高音域に透明感のある方がヨルン・ランデ、やや野太い声質の方がラッセル・アレンと見ましたが、あまり自信はありません。
ロドニー・マシューズによるジャケットデザイン
そして、本作のもう一つの注目ポイントはジャケットデザイン。
像とサイを思わせる恐竜のような怪獣がバトルを繰り広げている模様を描いた独特のタッチのデザインは、イラストレーター Rodney Matthews(ロドニー・マシューズ)によるものですね。
この後発表される2枚の作品も続けてデザインを提供しています。
ロドニー・マシューズと言えば、プレイング・マンティスやASIAのアルバムジャケットの幻想的な世界観のデザインでお馴染みですね。
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メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: Russell Allen
- ヴォーカル: Jorn Lande
- ギター : Magnus Karlsson(兼ベース、キーボード)
- ドラムス : Jaime Salazar
【収録曲】
- Another Battle
- Hunter’s Night
- Wish For A Miracle
- Reach A Little Longer
- Come Alive
- Truth About Our Time
- My Own Way Home
- Ask You Anyway
- Silent Rage
- Where Have The Angels Gone
- Universe Of Light
- The Forgotten Ones
- Reach A Little Longer (Acoustic Version)
おすすめ楽曲
本当にこのアルバムは「全曲」がおすすめですが、その中から苦渋の決断で下記の曲をピックアップさせてもらいました。
Hunter’s Night
幻想的かつ荘厳な落ち着いた雰囲気のオープニング曲でアルバムの世界観への没入が完了し、迎える2曲目。
イントロのメロディだけでモロにやられてしまうパターンですね。
早くも強烈なカウンターストレートパンチでダウンです。
美旋律イントロに続くヴォーカルは序盤~中盤~サビへと段階を追いながら盛り上げていく歌唱が絶妙で、更にダメ押しにハモリコーラスもおっ被せてくるという念の入れよう。
マグナス・カールソンによるギターソロは、既に当ブログでもご紹介したセルビアの至宝「ミシャ・カルヴァン」をも想起させるフレーズも炸裂するなど、天才肌の仕事人が産み出すフレーズの共通項みたいなものを勝手に感じてしまいます。
Wish For A Miracle
続く3曲目はシンプルなピアノを絡めた悶絶級のイントロで、これまた早くも2度目のダウンを喫してしまいますね。
完全に「足にきちゃってます」のパンチドランカー状態です。
そして本曲も黄金のサビメロに向けての盛り上げ方の展開が半端なく、且つ勢いそのままにギターソロに雪崩込んでいくという、まさに延髄蹴りから卍固めの波状攻撃を仕掛けてきます。
更に、聴いていて得も言われぬ心地良さを感じる隠れた要因が、独特のドラムのリズム感。
ほんの僅かな?「タメ」を伴って、チョッとだけ遅れてやって来るスネアのリズムが何とも言えず、知らず知らずのうちにじっくりと聴き込んでしまう感覚に引きずり込まれ、もう逃れられません。
完璧にロックされるとレフェリーやセコンド総がかりでもなかなか外せなかった、ジョニー・パワーズの恐るべし8の字固めのようですね。
Reach A Little Longer
でました!。
これまたイントロのピアノでアッパーカットをもろにくらい、高校時代の弁当のように脳ミソが片方に寄っちゃってあっけなくダウンです。
某氏の名文句「泣くがいい、好きなだけ泣くがいい」を思い出させる超絶名バラード曲ですね。
もはや涙なしには聴くことはできず、止めどなく涙が溢れてきてしまいます。
いやー凄い、凄過ぎますね。
この緩急自在の楽曲作りとそのクオリティの高さには本当に驚愕です。
心を締め付けられながらも穏やかな優しい気持ちになれる曲とは、まさにこういう曲を称しているのだろうと改めて実感させられます。
HR/HMを聴きながらドライブすると、ついついスピードを出し過ぎてしまうような人は、この曲をお気に入りのプレイリストに入れておくことを強くおすすめします。
Where Have The Angels Gone
サバイバーの乾いたキャッチーさとフォリナーの湿った哀愁を足して2で割ったような感じ。
この形容が正しいかどうかは別として、叙情的なメロディラインがとにかく印象的な楽曲です。
本作の中ではバラード曲以外で最も北欧感を漂わせているメロディと、流れるようなサビへの展開で確実に日本人の琴線をピンポイントで刺激してくる楽曲。
ギターソロもここではあえてメロディを重視したシンプルなフレーズでまとめられ、楽曲としての完成度をより高めているように感じます。
まとめ
2人の実力派ヴォーカルと、タメを効かせた渋いドラミングのドラマーという強力なサポートの基に、自身の湧き出る才能の泉から次々と魅力的な楽曲を産み出すマグナス・カールソンという才人。
イントロ~導入部~展開~サビまでの盛り上げ必勝パターンは、言い換えれば北欧メロディアスにおける至宝の方程式みたいな感じですね。
これだけの印象的で流れるようなメロディラインを、全ての楽曲で繰り出してくることが出来るのは、やはり才能以外の何物でもないように感じます。
そして時折垣間見せる北欧独特の叙情性が、暗すぎず重すぎず大げさすぎずの過ぎない3拍子で適度な湿気を保つ加湿器のようにマイナスイオンを放出してくれるので、何よりアルバム通して集中して聴き終えた時でも疲れることがありませんね。
むしろ軽快なアメリカンハードロックを聴いていたかのような心地よい爽快感さえ感じさせる不思議なアルバムです。