EUROPE / EUROPE(幻想交響詩) レビュー
超名曲「SEVEN DOORS HOTEL」に尽きる!
1983年リリースのEUROPEのデビューアルバム。
誰が付けたか邦題:「幻想交響詩」。
格好良過ぎます…。
どんなアルバム?という問いに単純明快に一言で答えるとすれば、「SEVEN DOORS HOTEL」という北欧メタルの原点と位置付けられる超名曲が収録されているアルバム!と言うのが正解ではないでしょうか。
そう、それは EAGLES の「Hotel California」というアルバムでも同じことが言えますね。
(HOTELつながり…)
と、今回は珍しく結論からバシッとキメてみましたが、その理由はあれこれ書き出すと突っ込み所も多くて辛口批評が漏れ出てしまいそうなので初めに絶賛しておきたいと思ったからです。
北欧メタルの先駆者が放つ「開拓民のような泥臭さ」
「北欧メタル」や「北欧メロディアス」。
その言葉の響きを聞いただけで、何故か背筋がスーっと伸びて大きく息を吸い込むような凛とした感覚を覚えます。
今でこそ格式ある荘厳な佇まいを連想するまでに確立された「北欧」イメージも、本作のリリース当時はまだまだその凍てつくような開拓前の大地にようやくちらほら芽吹いたかな?くらいの状態。
本作は、スウェーデン産の「EUROPE」が先駆者バンドとして泥臭く開拓を進める第一歩となった歴史的なアルバムと言えるでしょう。
口の悪い人に言わせれば「イモ臭い」「田舎臭い」、現代のサウンドと比較してしまえば「ヘボい」「チープ」などという評価が噴き出しそうなレベルであることは否定はしません。
が、前人未到の未開拓の地、道なき道を果敢に切り開いてきた EUROPE というバンドの足跡、歴史的第一歩をシーンに刻み込んだ事実を想うと、本作は「正座して聴く」くらいの意義のある有難い作品だと思います。
「北欧メタル」の象徴的な美しいジャケットデザイン
人は見た目が9割などと良く言いますが、「幻想交響詩」という名に名前負けしないアルバムのジャケットデザインが美しいですね。
やっぱり見た目は大事です。
まさに「北欧メタル」を象徴するかのような荘厳な様式美の世界観。
透明感と叙情性豊かな中身の楽曲とのイメージも完璧にシンクロしています。
ノルウェーが産んだ北欧メタルの代表格「TNT」のこちらの名盤と甲乙つけがたい神々しさです。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: Joey Tempest
- ギター : John Norum
- ベース : John Leven
- ドラムス : Tony Reno
収録曲
- In the Future to Come
- Farewell
- Seven Doors Hotel
- King Will Return
- Boyazont
- Children of This Time
- Words of Wisdom
- Paradize Bay
- Memories
おすすめ楽曲
In the Future to Come
歴史的名盤のオープニングを飾る楽曲だけあって、様式美に満ちた格調高いイントロに思わず身構えてしまいます。
しかし若気の至り、過ちとも言えるジョーイ・テンペストの子犬のキャンキャン吠えのようなシャウトには、思わずズッコケの新婚さんいらっしゃい状態に。
その後も安定感を微塵も感じさせないヴォーカルが、望んでいない緊張感を楽曲に根付かせていますね。
そして何より致命的なのはメロディに収まり切らない字余り的な歌詞と、サビ(=曲名)の「韻」の格好悪さ。
メロディからはみ出した歌詞の処理が間抜けに聴こえ、サビでは早口言葉がうまく言えずにつっかえたような何とも言えぬ感覚に襲われます。
貧相なサウンドプロダクションと相まって、この辺が「青臭く、泥臭い」印象を持たれてしまう大きな要因かと…。
それでもギターのジョン・ノーラムが奏でるフレーズには、その後の作品で見事開花する美旋律がつぼみの状態ながら宿っているのがわかりますね。
Farewell
NWOBHMムーブメントからの影響も感じさせるミドルテンポの渋い楽曲。
オープニングの前曲同様に、歌唱力というものを微塵も感じさせないヴォーカルが強烈なインパクトを放っています。
あまりの酷さに気を取られ過ぎてサビメロがなかなか頭に入ってきません。
聴いててなかなか盛り上がり切れない不完全燃焼状態で、一酸化炭素中毒となる恐れのある危険な楽曲ですね。
Seven Doors Hotel
3曲目にして「北欧メタル」の原点楽曲がようやく登場。
この楽曲は明らかに本作の中でも格が違い過ぎる構成の完成度を誇ります。
美しくも儚いピアノのイントロに続く印象的な疾走リフと官能的なギターフレーズ。
圧倒的なドラマティック性とデビューアルバムならではの勢いをストレートに表現した素晴らしい楽曲ですね。
そして、クライマックスはジョン・ノーラムの美しくも哀愁に満ちたハモリのギターソロ。
次作「明日への翼」でその才能を開花させる天賦の才能を持ったギタリストが、その片鱗をチラ見せしているとともに、家政婦は見た状態で柱の陰からマイケル・シェンカーが覗いているような感じがします。
何とも垢抜けないサビでの「ウォー、オー、オー」のコーラスは、本曲の題材となったホラー映画の影響からなのでしょうか。
グロい描写の映画ゆえの不気味さの演出とも取れなくもありません…。
Boyazont
5曲目に収録の「イモ臭さ」爆裂のインスト楽曲。
序盤のあまりのダサさにやっちまった感がよぎるも、中盤以降のジョン・ノーラムの弾きまくりはなかなかの迫力を魅せます。
しかしながら、バックのリズム隊(特にドラム)が全くもって工夫のないプレイで終始し、全てを台無しにしてくれていますね。
もはやサウンドプロダクション云々のレベルの話ではなく、孤軍奮闘するジョン・ノーラム見殺し事件とも言える悲しい楽曲です。
Children of This Time
名曲「SEVEN DOORS HOTEL」の兄弟楽曲のようなイメージですね。
叙情性を醸し出しながら疾走していく基本メロディが格好良いだけに、更なる楽曲展開、サビでのもう一段の盛り上がりがあればこれまた名曲として評されたであろう煮え切らなさが惜しいです。
ギターソロでもメロディ展開せずに終始同じ単調なラインをひたすら辿るので、さすがのジョン・ノーラムをもってしてもキツイですし、聴いてる方も飽きてしまいますよね。
気が付いたら終わっちゃってた!って感じのホントに惜しい楽曲です。
まとめ
3枚目のアルバム「The Final Countdown」を大ヒットさせビッグバンドとしての世界的な成功を掴み取ったEUROPE。
その後の「北欧メタル」第一人者としてのポジショニングを欲しいままとしていますが、そもそも「北欧メタル」のメの字も無かった状態の頃に開拓民の如き泥臭くリリースした作品が本作「幻想交響詩」。
チープ感をぬぐえないサウンドと不安定感を露呈する演奏というデビュー作における逆境を、ジョン・ノーラムのギターでカバーしながらどうにかこうにか超名曲「SEVEN DOORS HOTEL」を編み出した感が否めない本作。
その後確立される「北欧メタル」の定番的要素となるクラシカルな美旋律メロディ、ドラマティックな楽曲展開などの原点、出発点となった作品と言えるでしょう。