1983年にHR/HM界界は一人のギタリストによって激震に見舞われました。
震源地は、アルカトラズのデビューアルバムでメジャーシーンに登場してきた「イングヴェイ・マルムスティーン」ですね。
そのインパクトは、富士山の大噴火が起きたくらいの衝撃でしょうか。
世界中のリスナーがそれまでに耳にしたことの無い、耳を疑うような「速弾き」と「クラシカルで美しいフレーズ」の連発に酔いしれました。
それからというもの、シーンは速弾き天下一武道会の様相となり、次から次へと速弾き自慢の猛者達が脚光を浴びながら登場してくるようになります。
ポール・ギルバート(RACER X)、トニー・マカパイン、ヴィニー・ムーアなどは私も思わずアルバムを買ってしまいました(なぜに後悔表現?)。
そして「速弾き王」の栄冠に最も近い位置にいると評されながら満を持してデビューしてきたのが、今回ご紹介する「クリス・インぺリテリ」です。
IMPELLITTERI / IMPELLITTERI(1st)レビュー
本人は頑なに否定し続けたイングヴェイのそっくりさん
1987年にリリースされた「イングヴェイのそっくりさん」クリス・インペリテリ率いるインペリテリのデビューミニアルバム(4曲入り)です。
(何だか早口言葉みたいになってますが…)
誰がどう聴いてもそのネオクラシカルなフレーズと楽曲は「イングヴェイの影響を受けている」としか思えないのですが、本人は頑なに否定し続けていました。
「最も影響を受けたギタリストはリッチー・ブラックモアだ。」
と、どこかのインタビューでのたまっていたようですが、その辺の頑固さも彼に対する評価が今一つ正当性に欠けてしまう一因かなと思います。
ホント「気の毒だな」「損をしてるな」と思えてしまう一面ですね。
イングヴェイ本人からもコケにされ
スポーツ界でも音楽界でも何でもそうですけど、対戦相手やライバル、他のアスリートやプレイヤーをリスペクトする姿勢、心は重要ですよね。
でも、この2人の速弾きギタリストにおいてはどうにも「相容れない」関係となってしまったようです。
インペリテリいわく、
「イングヴェイの真似などしたことが無いし、影響も全然受けていない」
イングヴェイいわく、
「インペリペリ?、インプルプル?(知らないなぁ~、誰?)」
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル:Rob Rock
- ギター :Chris Impellitteri
- ベース :Ted Days
- ドラム :Loni Silva
収録曲
- Lost in the Rain
- Play with Fire
- Burning
- I’ll Be Searching
おすすめ楽曲
Lost in the Rain
オープニング曲は攻撃的なリフとハイトーンボーカルが際立つ疾走曲です。
80年代HMの代名詞とも言えるイントロでのハイトーンぶちかまし。
まるで横綱白鳳の立ち合いの「かちあげ」を、もろに顎にくらってしまったかのような衝撃を受けます。
それにしても、インペリテリのプレイを語る前にロブ・ロックのボーカルもこれまた「若い」ですね。
次作ではグラハム・ボネットにとって代わられてしまうわけですが、本作におけるロブ・ロックのボーカルはとにかく「暑苦しい」。
まさに「若気の至り」とはこのこと。
ひたすらストレートの全力投球、「緩急?何だよそれ」と言わんばかりの張り切りぶりで、聴いているこちらの方が疲れてしまいます。
肝心のインペリテリのプレイは、ある意味彼の「原型」というかその後の作品においても貫かれている(のか進歩がないのか?不明ですが…)スタイルが全て凝縮されているような楽曲だと思います。
ソロに比べれば極端に工夫の無いリフ。
少し回転数を下げて聴きたくなる程に高速過ぎるソロ。
してクラシカルなメロディラインの美しさが特徴ですね。
I’ll Be Searching
4曲入りミニアルバムのラストに収録。
インペリテリの楽曲はシンプルなリフとバッキングが多いので、ややもすると「勢いだけのズンドコ節」に聴こえてしまう危険性を孕んでいます。
そんな中で、本曲のようなじっくり聴かせるメロディアスなミドル・テンポの楽曲は貴重です。
RAINBOWやDIOを髣髴とさせるようなドラマティックな雰囲気を感じさせる良い曲でキャッチーなサビメロも印象的ですね。
しかしながら、そんな楽曲の良さを全て「破壊」してしまっているのが強烈過ぎるギター・ソロ!。
ミキシングも明らかにソロの音をえこひいきし過ぎてますね。
ギターソロの部分だけを切り離して評価すれば、速弾きの正確性とピッキングの力強さ、メロディラインの巧みさがお見事!となるのでしょうけど…。
「この楽曲にこのギターソロって必要ですか?」ってどうしても思えてしまいます。
楽曲の世界観、流れといったものを完全に無視した単なるジャイアンの独演会のような感じ?。
明らかに「弾きすぎ」。
「過ぎたるは及ばざるが如し」という諺が頭をよぎります。
この辺りがイングヴェイとの決定的な「差」と言わざるを得ないところでしょうか。
(逆にイングヴェイの凄さを改めて思い知らされる感じですが…)
まとめ
アルカトラズのデビューアルバムを聴き終えた時、イングヴェイの奏でるリフやソロのメロディラインは脳に強烈に記憶として刻み込まれ、頭の中で反芻ができました。
一方、インペリテリの本作において反芻できるフレーズはどのくらいあったでしょうか。
「高速プレイ」「ネオクラシカル」という共通項で比較されがちな2人ですが、今回改めて聴き直してみると、そもそも比較すること自体が意味をなさない事だったと思い知らされました。
極論すると、インペリテリが頑張って弾けば弾くほどイングヴェイの凄さが助長されてしまうような状態です。
(インペリテリはイングヴェイに対して、かつての長州力が藤波辰爾に食ってかかった時のように「俺はお前の咬ませ犬じゃないぞ!」と言ったとか言わなかったとか…)
イングヴェイ恐るべし…。