TOTO / HYDRA レビュー
バンド史上最も暗くハードと評される「影の名盤」
2023年7月。
約4年ぶりの来日ツアー中にこの記事は書いています。
当然のことながら、来日公演でのセットリストは1st、4thアルバムからの選曲が多くなっていますね。
それらの作品に負けず劣らぬ名盤としてTOTOファンから厚い支持を得ているのが本作「HYDRA」。
シーンを驚かせたデビュー作の翌年1979年にリリースされた2枚目となる本作。
TOTOというバンドの「影」の側面やハードな側面を垣間見ることができる貴重なアルバムです。
スティーヴ・ルカサー(?)が剣を持って佇むジャケットデザインからして、早くも放たれている「影」のオーラ。
うなだれちゃってますからね…。
覇気0(ゼロ)です。
これではマーケットでの受けは厳しいですって(お前に言われたくないでしょうが)、解っていながら敢えてこのデザインで攻めたところにバンドとしての並々ならぬ決意を感じてしまいます。
単なる技能派スタジオミュージシャンの生業としての「製品」ではなく、TOTOというバンドが当時の音楽シーンで表現したかった「作品」がどのようなものだったのかがひしひしと伝わってくるように思うのです。
結果的には、その後のどの作品においても本作で聴けるようなレベルの「どっぷりとした暗いイメージ」のアルバム、楽曲は輩出されていないという点においても、本作の希少性、貴重性を高く評価したいところ。
そして、ハード&プログレッシブな楽曲のみならず心洗われる名曲バラードが収録されているなど、バラエティ性にも富んでいる「名盤」と呼ぶに相応しい充実の内容です。
まさかの一発録りで魅せた技能派集団の底力
本作で語られる有名なトピックとして「せーの」で録音した「一発録り」がありますね。
デビュー当時から「スタジオミュージシャンの集まり」と揶揄する声もあっただけに、バンドとしての反骨心ともとれるような荒技をやってのけた感じでしょうか。
「一発録り」であるがゆえに明らかなミスタッチも存在していますが、それらをものともしないアルバム全体に張りつめられた緊張感みたいなものを感じます。
個々の技能派職人のエゴは封印され、あくまでもバンドにおける各パートの役割に徹した絶妙のバランス感覚が見事。
勿論、要所要所ではスティーヴ・ルカサーのギターのように熱く弾きまくっている部分もあり、楽曲としてのメリハリ、フックも存分に楽しむことができます。
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ボビー・キンボール
- ギター : スティーヴ・ルカサー
- ベース : デヴィッド・ハンゲイト
- ドラムス : ジェフ・ポーカロ
- キーボード: スティーヴ・ポーカロ
- キーボード: デヴィッド・ペイチ
【収録曲】
- Hydra – 7:31
- St. George and the Dragon – 4:45
- 99 – 5:16
- Lorraine – 4:46
- All Us Boys – 5:03
- Mama – 5:14
- White Sister – 5:39
- A Secret Love – 3:07
おすすめ楽曲
Hydra
オープニングを飾るアルバムタイトル楽曲。
デビューアルバムでは「子供の凱歌」というインパクトのあるインスト曲で度肝を抜かれただけに、当時初めて聴く際にはかなり腰を入れてレコードに針を落としました。
7分半にも及ぶこの長大作曲を敢えてTOPにもってくるところが何ともTOTOらしいというか、絶対の自信と意気込みを感じさせますね。
まるでリスナーとしてのふるいに掛けられているかのような「好きな人だけ、解る人だけついてきて」みたいなメッセージともとれる、挑戦的な楽曲です。
静寂を切り裂くジェフ・ポーカロのシンバルが凄まじい迫力で襲い掛かってきますね。
そしてニコニコ笑顔で鬼のような変態的リズムを刻んでくるのは相変わらずです。
これコピーするの大変だろうな…と、ドラマーでもないくせに思わず余計なお世話な心配をしてしまいます。
そして当時ギター小僧だった私が狂ったように練習していたのが、ブリッジで何気なくかまされるバッキングとアルペジオの正確無比な速弾き。
このバッキングはホント格好良過ぎですし、速弾きフレーズはギター初心者にとってはこの上ない練習材料でした。
長作であることを全く感じさせない起伏に富んだ楽曲展開で、一気にアルバムの世界観に引きずり込まれてしまいます。
St. George and the Dragon
続くアルバム2曲目は打って変わって軽快でポップなピアノのイントロが印象的。
クイズ「ドレミファどん!」で出題されたら思わず「ビリー・ジョエル!」とかお手付き回答しちゃいそうな感じです。
そして特筆すべきはやはり鉄壁のリズム隊ですねぇ~。
派手さは全く無いものの、これぞプロフェッショナルという完璧なプレイを聴かせています。
途中、わざとなのかミスタッチなのか「ん?」てところがありますが、真相はペイチ先生のみぞ知るご愛嬌ということで…。
99
そしてアルバム3曲目に登場するのが間違いなくバンド代表楽曲でもあるこちらのバラード曲ですね。
切ない、切なすぎます、涙ちょちょ切れ楽曲。
ルカサー先生、「泣いてない(99)」って言われましても…、聴いてるこっちは号泣でございますよ。
CMソングとしての露出により、この曲からTOTOに入った方も多いのではと思います。
哀愁しかないイントロのピアノ、変な格好つけをしない朴訥としたルカサー先生の歌い回しが悲哀の情感を助長してきます。
そしてただの歌バラードで終らせないのがプロ集団TOTOの真骨頂。
終盤からのアウトロではベースを始め各パートがこれでもかと細部に拘りまくっているのが凄過ぎます。
White Sister
オープニングから怒涛の名曲洪水を展開させた本作ですが、悲しいかな当時のLPレコード環境下ということで「良曲A面(前半)集中」の観は否めずと言ったところ…。
アルバム後半は「渋め」の楽曲が続いていきますが、その中で異彩を放っているのが終盤に収められた本曲ですね。
最近のライブでは代表曲である「99」もあまりプレイされることも無くなってしまった中で、本作から割と高い打率でライブにピックアップされる楽曲でもあります。
憂いを抱えながらも本作で最もドライブ感のあるハードさを感じます。
個人的にはルカサー先生の一発目のソロがアルバムジャケットのように靄がかかったようなトーンで納得がいきませんでした。
が、(4分過ぎから)もう一発終盤にあったのですね~。
まさに渾身のプレイ、このソロは結構ヤバイ感じがします…。
冷静沈着なあのジェフ・ポーカロがラストは完全に弾けちゃってます…。
まとめ
圧倒的なテクニックと楽曲センスでファンの度肝を抜いたデビューアルバムから1年後。
単なる「スタジオミュージシャンの集まり」ではない、バンドとしてのTOTOの底力を示した本作2ndアルバムは影の名盤ですね。
TOTO史上において、後にも先にもこれほどの緊張感とハードな側面を露出させたアルバムは無く、これぞ最高傑作と推すファンの方が多いのも事実でしょう。
残念ながら、本作からライブでセットされる楽曲は今や非常に少なくなってしまいましたが、TOTOという技能派集団バンドの本質を知る上では欠かせない貴重な作品です。