FOREIGNER / 4 レビュー
骨太産業ロックを極めた最高傑作
1981年リリースのFOREIGNER 4枚目のアルバム「4」。
4枚目の作品であるとともに、バンドメンバーが6人からギターのイアン・マクドナルドとキーボードのアル・グリーンウッドが抜けた4人編成となっています。
後にDEF LEPPARDのアルバムを手掛けることになる名匠マット・ランジによるプロデュース。
2人のメンバーが抜けた穴は複数のセッション・ミュージシャンが埋めた形ですね。
FOREIGNERはJOURNEYやTOTOと並んで一般的に「産業ロック」として片づけられることが多いですが、基本的にネアカなアメリカン・ハードロックとは一味違った「湿り気」と「哀愁」をプンプン臭わせる独特な個性を持ったバンドだと思います。
その要因として大きいのが、英国出身のミック・ジョーンズによるメロディセンスあふれる巧みな楽曲作りとルー・グラムによるエモーショナルなヴォーカル。
この2人のケミストリーの素晴らしさは後述するとして、本作をバンド「最高傑作」と位置付けることには正直若干の抵抗がありました。
セールスの成功実績だけで判断せずに、ここは通ぶって渋いデビュー作辺りを最高だ!なんて言いながら格好つけたかったところですが、本作「4」の完成度はそんな不純な企みを許さない程に素直に称賛せざるを得ない素晴らしいものがあります。
本作のセールス上の成功はあくまで結果論であって、決してマーケットに迎合した妥協の産物ではなくバンドのやりたい音楽性をあくまで実直に突き詰めていった先にたどり着いた境地という感じ。
聴き進むたびに新鮮な感覚を味わえるバラエティ豊かな楽曲、細部にまで拘って一音一音を埋め尽くした音作り、アメリカンとブリティッシュの良いとこどりで絶妙にブレンドされた骨太なハードロックで全曲が埋め尽くされている名盤中の名盤と言えるでしょう。
秋の晴天を想わせる巧みな楽曲作りと哀愁ヴォーカル
こちらは新宿都庁からの眺めですが、自分の中ではまさにFOREIGNERってこんな感じ。
眺めは良いけど決して風光明媚とは言えず高層ビルから平屋建てまで所狭しと建物が乱立するチャンポン状態。
息が詰まりそうになるも、手前には夏場に青々とした深緑を魅せる都会のオアシス的な公園の木々が秋の紅葉に色付いていますね。
FOREIGNERの奏でる音楽もまさにこんな感じ。
都会的なアメリカン・ハードロックをベースとしつつも、明らかに他のバンドとは違う「ちょっと湿り気のある冷たく澄んだ空気」、そして深緑の木陰に入ったかのような「うす暗さ」を感じます。
そして、楽曲作りをリーディングする英国出身のミック・ジョーンズと、哀愁ヴォーカルの表現力で魅了する米国出身のルー・グラムの黄金タッグはまさに英米無敵艦隊。
個人的にはデビュー以来FOREIGNERというバンドを産業ロックだなどと一度も意識したことはありませんでした。
あくまで渋くて骨太なハードロックバンドだと思い続けてきましたが、皮肉にも上記2人のケミストリーが究極に達した感のある本作「4」のあまりの出来映えの良さにより産業ロック論が噴出してきたように思います。
まあ、そんな外野のヤジ声なんぞは気にすることなく、夏の疲れも出やすい初冬の身体が生理的に欲しがる音楽=FOREIGNERの上質なハードロックをじっくり堪能しましょう。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: ルー・グラム
- ギター : ミック・ジョーンズ
- ベース : リック・ウィルス
- ドラムス : デニス・エリオット
収録曲
- Night Life – 3:48
- Juke Box Hero – 4:18
- Break It Up – 4:11
- Waiting for a Girl Like You – 4:49
- Luanne – 3:25
- Urgent – 4:29
- I’m Gonna Win – 4:51
- Woman in Black – 4:42
- Girl on the Moon – 3:49
- Don’t Let Go – 3:48
おすすめ楽曲
Night Life
オープニングを飾るオーソドックスなハードロック。
洗練された落ち着きのある本作の中では異質感さえある骨太なロックンロール・チューンでの幕開けですね。
しかし単なるノリの良さだけで終らないのがFOREIGNERの真骨頂。
いぶし銀の渋みを感じさせるギターソロ、隠し味程度の露出ながら確実にメロディを豊かにしているキーボードなど、巧みの技が随所に見られますね。
Juke Box Hero
2曲目はルー・グラム節が早くも全開の濃厚なシングルカット曲。
いや~、それにしても聴けば聴くほどに味が濃くなっていく味覚破壊楽曲ですね。
イントロの緊張感、絶妙な緩急をつけたスピードの変化、ねちっこく絡みついてくるようなヴォーカル、脳裏にこびりつくサビメロとコーラス、見事に場面展開させながらドライブするギターソロ、渾身の鬼気迫るようなシャウト、完璧なエンディング。
さすがマット・ランジのプロデュースとうなずける聴きどころを挙げていったらキリがありませんね。
それにしても今の若い人達はJUKE BOXなんて見たことあるのかな~なんて心配になっちゃったりします。
Break It Up
3曲目に惜しげもなく収められた哀愁の名曲。
これはオープニング曲に持ってきても良い位の破壊力を持っていると素人感覚で思ってしまう程のドラマティックなメロディアス・ハードロックですね。
イントロから終始存在感を示すキーボードが、産業ロック論者の格好の餌食になってしまいそうですがこの楽曲構成の巧みさはそんな次元の低い議論を寄せ付けない完成度。
目まぐるしくフラッシュバックするようにメロディが反復されながら聴く者を吸い寄せていくバキューム楽曲といったところです。
Waiting for a Girl Like You
シンプル極まりない哀愁のバラードにしてバンド最高のヒットチューン。
まるですきっ腹に沁み渡る日本酒のようにルー・グラムの歌唱がジワっときますね~。
サビメロ迄の平坦なメロディをこれだけ情感たっぷりに歌いこなすのも結構至難の技かと思います。
折角なのでいつものお気に入りコピーバンドの動画も貼っておきましょう。
決してイキらない余裕のプレイ。
安定のクオリティですね。
Urgent
LP盤でいう所のB面のオープニング1曲目。
やはりFOREIGNERのオープニングはこの手の曲がしっくりきますね。
個人的にはA面1曲目でも良かった気もする程にアレンジの凝ったこれまた哀愁ハードロックの名曲ですね。
特に中盤で爆発するサックスソロには一発でやられちゃいます。
渋い、渋すぎる…。
Don’t Let Go
A面オープニングからの怒涛の名曲の火力が強すぎてB面の楽曲がかすみがちですが、なかなかどうして渋いFOREIGNER流ハードロックが凝縮されています。
しかしながら、ルー・グラムの声質と歌唱スタイルは聴く者にとっては長期戦はやや不利な点も否めず。
各楽曲を切り離して単体で聴けば優れていることは異論ありませんが、7~9曲目辺りは少々集中力も途切れてくるところ。
そうして迎えるのが本曲ラスト楽曲ですね。
王道のギターリフを掻き鳴らしながら進行するいつものFOREIGNER節で、恐らく注目する人も少ない楽曲だと思いますが個人的には非常に気に入っています。
一服の清涼剤のようにサビのバックで美しく被せられるコーラス。
まるで終わり良ければ全て良しといった感じで、爽やかで清々しいメロディでアルバムを締め括っています。
まとめ
最近はめっきり短くなってしまった「秋」に聴きたくなるハードロックと言えば「FOREIGNER」。
アメリカン&ブリティッシュ・ハードロックの良さが渾然一体となった独特のバンドが、4枚目にして辿り着いた究極の完成形アルバム「4」。
その完成度の高さとセールス上の成功ゆえに産業ロック警察の格好の吊し上げの的となりましたが、骨太な哀愁ハードロックを突き詰めたバンドの最高傑作であることに間違いありません。