Night Ranger / Midnight Madness レビュー
甲乙つけがたい最高傑作となった1st、2ndアルバム
1982年にリリースのデビューアルバム「DAWN PATROL(邦題:緊急指令NR)」で衝撃的にシーンに登場したNight Ranger。
2人のスーパーギタリストと2人のメインヴォーカリストというW2枚看板で、一気に注目を集めました。
そして翌年1983年にリリースされたのが本作2ndアルバム「Midnight Madness」。
5人の個性派集団により編み出される珠玉のアメリカン・ハードロック
【アーミングの鬼: ブラッド・ギルス】
グラングランのフロイドローズユニットを親の仇のように酷使しまくり、ハーモニクス音を変幻自在に乱高下させるアーミングプレイは、一聴してそれとわかる程の代名詞。
【元祖タッピング王: ジェフ・ワトソン】
エドワード・ヴァン・ヘイレンのライトハンド奏法で湧き上がっていたギター小僧達が、口をポカンと開けて見守るしかなかった8フィンガー奏法の産みの親。今で言うところのタッピングの元祖ですね。
【爽快アメリカン・ハードの申し子: ジャック・ブレイズ】
2枚看板のヴォーカルとして主に爽快、王道路線の楽曲を担当する小さな巨人。
楽曲作りの殆どに携わるソング・ライティング能力に秀でたバンドのダイナモ的存在。
【出たがりドラマー: ケリー・ケイギー】
ジャック・ブレイズと声質が良く似たヴォーカルとして、主にバラード調の楽曲を担当するドラマー。
ステージでのポジショニングも変則にするなど、出たがり感が凄くて個人的にはちょっと引いてしまう…。
【寡黙な職人: アラン・フィッツジェラルド】
元モントローズの仕事人。
ニット帽にサングラス、濃いヒゲという完全な「指名手配犯スタイル」ながら、楽曲への味付けの腕前は超一流。
指先の感覚だけでミクロン単位の金属加工を施す下町ロケットの職人を髣髴とさせる仕事人ぶりが見事。
これら5人の超個性派集団が編み出す楽曲は、どれもがヒット性を秘めたシンプルで解りやすい、爽快になれるアメリカン・ハードロックそのものと言った感じ。
1stに続き本作2ndアルバムでもその路線は変わらずにどの曲も完成度は高く、ファン層の裾野は更に広がっていったのでした。
メンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: ジャック・ブレイズ(兼ベース)
- ギター : ブラッド・ギルス
- ギター : ジェフ・ワトソン
- ドラムス : ケリー・ケイギー(兼ヴォーカル)
- キーボード: アラン・フィッツジェラルド
収録曲
- (You Can Still) Rock in America – 4:15
- Rumours in the Air – 4:32
- Why Does Love Have to Change – 3:48
- Sister Christian – 5:01
- Touch of Madness – 5:01
- Passion Play – 4:41
- When You Close Your Eyes – 4:14
- Chippin’ Away – 4:11
- Let Him Run – 3:24
おすすめ楽曲
(You Can Still) Rock in America
おったまげ~!。
開口一番そう叫ぶしかない位に、当時のギター小僧は驚きました。
オープニング曲の初っ端に先ず放たれたのは「アーミングの鬼」による十八番のハーモニクス音。
すかさず続くカラッカラに乾いた微塵の湿気も感じない王道のリフ。
「ありがとうございます、本作もやってくれそうですね。」
と、思わず正座して姿勢を正したくなる程の期待感で胸膨らんだ瞬間でした。
そして、ギターソロの終盤に突如繰り出される8フィンガー奏法。
こ、これが、噂の…。
前評判として事前情報は得ていたものの、始めて耳にしたそのソロは良く解んないけど「凄い」の一言。
正直、VAN HALENの「Eruption」を聴いた時のインパクトが異次元過ぎて、指8本使ってもこんな感じなのかと第一印象は思ってしまったのも事実。
しかし、後にMVなどで演奏場面を視る機会があり、改めてフレット上をウネウネと動き回るその気持ち悪い程の指の動きには驚きました。
適度な疾走感とノリの良さ、一度聴いたら忘れないサビメロなど、曲名通りの王道のアメリカン・ハードロックですね。
Rumours in the Air
オープニング曲で8フィンガー奏法で注目をかっさらったジェフ・ワトソンに対して、メラメラとライバル心を燃やす(勝手に決めつけてます)ブラッド・ギルスが、続く2曲目で披露したのがヴォリューム奏法。
「これってキーボードじゃなかったんだ」と知ったのは、やはり後のMVを視てのこと。
ブラッド・ギルスの右手がこれまたちょこまかと忙しそうにヴォリュームノブを操作しながら、幻想的な音色を生み出しています。
楽曲はミドルテンポでじっくりとサビに向かって盛り上げられ、ピークを迎えるサビではしっかりとハードロックしている名曲ですね。
ギターソロには「寡黙な職人」のキーボードも絡みついていくなど、楽曲を通じて個性がひしめき合っているバトルロイヤルの様相です。
Why Does Love Have to Change
80年代ハードロックを代表するようなギターリフで、哀愁漂いながらもエッジの効いた格好良さが光る楽曲。
ヴォーカルのメロディラインは徹頭徹尾メロディアス。
サビでは拳を握り一緒に叫びたくなるような熱気もあり、本作における個人的最高楽曲に認定。
2枚看板によるギターソロは、息の合ったコテコテのハモリフレーズをこれでもかとキメまくり。
「寡黙な職人」が何気なくぶっ込んでくるオブリガードが、楽曲に適度な透明感とスピード感を与えていて心地よいですね。
Sister Christian
「出たがりドラマー」がここぞとばかりにドヤ顔で歌い上げる名バラード。
「寡黙な職人」によるピアノのメロディが優しく世界観を演出する中を、ドラムを引っ叩きながらヴォルテージを上げていく「出たがりドラマー」。
確かに楽曲は良いですよね~。
良いですよ~、確かに楽曲は。
When You Close Your Eyes
イントロで「アーミングの鬼」がフロイドローズユニットを震わせていますね~。
またボディをガンガン叩いているのでしょうか。
完璧とも言える完成度を誇る売れ線楽曲は、ハードロックを特段好まないリスナーにも突き刺さる爽やかさ。
快晴の中、窓を全開に開けた状態の車で爆音で聴きながら走りたくなるような爽快感ですね。
ビールやチューハイのCMに使われても良さそうなキャッチーで万人受けしそうな楽曲です。
まとめ
ハードロック・ヘヴィメタルシーンに衝撃を与えたデビュー作から僅か1年。
ファンの期待値を遥かに上回るぶっ飛んだ内容でリリースとなったNight Rangerの2ndアルバム。
5人の個性派集団により編み出された売れるべくして売れた珠玉の楽曲が、フルコース料理のように展開される贅沢極まりない内容。
貧乏性の私なんぞは数曲次作に回しても良かったのでは?なんて思えてしまう程の、豪華絢爛ぶりです。
中でも最高のセールスを誇ったのがバラードの名曲「Sister Christian」。
しかしながら、皮肉にもこの曲の成功によりNight Rangerというバンドの音楽的方向性に微妙な狂いが生じ始めることに。
セールス的に当然の如く2匹目のどじょうを狙うレコード会社は、バンドに対して今後も売れ線バラード曲の創作を強要。
次作でも「Sentimental Street」という名バラード曲を連発でヒットさせ、完全にハードロック・ヘヴィメタルバンドとしてのイメージが瓦解していったのでした。
売れ線のバラード曲を演じるにはあまりに贅沢な個性と能力を持ったバンド「Night Ranger」。
まさに宝の持ち腐れ、飼い殺しとも言える状態となってしまい、非常に勿体なかったですね~。
一般サラリーマンもそうですが、自分のやりたい仕事だけやっていてはビジネスでは通用しませんものね。
社畜となるか、退路を断ってフリーランスで挑戦するか…。
究極の決断を問われることとなります。
根性の無い私は当然、社畜ですが…。