Y&T / CONTAGIOUS レビュー
まさかの理由でドラムがクビに…さようならレオナード・ヘイズ
Y&T「CONTAGIOUS」は、1987年にリリースされた8枚目のスタジオアルバムです。
1987年と言えば、モトリー・クルーがアルバム「Girls, Girls, Girls」をリリースするなど、LAメタルの完熟期。
ムーブメントの潮流に飲み込まれる形で、Y&Tも残念ながら同質化へと染まっていきました…。
前作「Down for the Count」の裏ジェケットで、あられもない姿を世に晒しバンドとしての迷走ぶりをわかりやすく露呈したバンドは、更なる暴挙にでることに…。
何と、音数の多いタイトなドラミングで、Y&Tのアグレッシブかつなエモーショナルな楽曲を支えてきたレオナード・ヘイズが「クビ」になってしまったのでした…。
しかも、その理由がひどい。
「ルックスが悪いから…。」
普通、仮にそう思ってても中々ストレートには口にしずらいですよね。
本人傷つくよなぁ~。
そりゃあ、デビューアルバムから短パン一丁の職質必至の謎のスタイルで登場してましたけど…。
ていうか、ひげ面の落花生みたいなジョーイ・アルヴェス「〇」、レオナード・ヘイズ「×」の基準が良く解りませんが…。
といことで、本作からドラムスはジミー・デグラッソに交代になっております。
ジミー・デグラッソは後に「Megadeth」にも加入することになるテクニカル・パワーヒッターですね。
音楽性は前作から踏襲も、らしさ十分の「影の名盤」
全くと言って良い程に印象に残らないアルバムジャケットも災いしたのか、本作「CONTAGIOUS」は、シーンで話題になることが少なかったアルバムです。
前作のジャケットデザインも救いようのない致命的な低レベルでしたが、今回も今一理解に苦しむデザインですね。
そもそもですが、これは一体何なのでしょうか…。
「CONTAGIOUS = 感染?」とのつながりも良く解りません。
まぁ、今回はバンドロゴをちゃんと使用しているだけで良しとして花マルあげておきましょうかね…。
↓↓↓前作のデザインについてはこちらの記事からどうぞ↓↓↓
基本的な音楽性は前作「Down for the Count」からの踏襲形。
初期に連発された叙情派エモーショナル&ドラマティックな傑作シリーズの残像が消えないファン層には、アメリカナイズされた路線を追走する気が起き難かったのかも知れません。
いやいや、そもそもアメリカ西海岸のバンドなんですけどね…。
でも、このアルバムは個人的に「影の名盤」と評してやまない魅力に溢れています。
全体的にミドルテンポの四輪駆動型の楽曲で占められていて、アルバム全体から放たれてくるパワー感が感じ取れます。
サッカーで言うならば、かつてのドイツ代表のような最終ラインから重戦車のようなパス回しで敵を圧倒しながらビルドアップしていくようなイメージ。
敵が怯んでじりじりと後退しようものなら、サイドからの切り込みで確実に点を奪うという王者の風格ですね。
2002年W杯の札幌で、アジアでは強豪とされるサウジアラビアを8-0と完膚なきまでに粉砕した試合を思い出してしまいます。
決して派手さはありませんが、シングルカットとなったオープニングのタイトル曲など、4~5回聴き込んでいくとその強力な感染力に侵され、病みつき無限ループにはまってしまう楽曲が数多く収録されています。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: デイヴ・メニケッティ
- ギター : ジョーイ・アルヴェス
- ベース : フィル・ケネモア
- ドラムス : ジミー・デグラッソ
収録曲
- Contagious – 3:21
- L.A. Rocks – 4:41
- Temptation – 4:26
- The Kid Goes Crazy – 4:15
- Fight for Your Life – 4:49
- Armed and Dangerous – 4:20
- Rhythm or Not – 5:06
- Bodily Harm – 3:33
- Eyes of a Stranger – 4:40
- I’ll Cry for You – 2:37
おすすめ楽曲
Contagious
オープニングは大仰なミドルチューンでの幕開け。
前作の「In the Name of Rock」と同様、路面をガチっとグリップした固いサスペンションでの走りを感じさせる低重心の重量感が魅力です。
「Hey!」の掛け声で景気づけられて高まる期待感。
新たなY&T祭りの始まりを盛り上げるように、随所に被せられる「合いの手」のようなバックコーラスに乗せられて拳が突き上げられるライブ会場の様子が目に浮かぶようです。
シングルカット曲の割にはサビメロも然程のキャッチーさはなく、渋めの展開。
メニケッティのソロも超コンパクト設計ながら、しっかりとアクセント付けになっています。
新加入ドラマーのジミー・デグラッソもタメを効かせたスネアでいい味だしてますね~。
すっかりジャケットデザインの残念さを忘れさせてくれる、Y&Tならではのハードロックが聴ける満足度高い名曲です。
Fight for Your Life
これぞ、Y&T節とも言えるアコスティックを絡めたイントロですね~。
往年の古参ファンにもお許しを頂けるような「やや泣き」クラスの展開ではないでしょうか。
しかしながら、本作最大の特徴である「低重心」はあくまで堅守されています。
決して浮つくことなく腰を落とした体勢、がっぷり四つでの横綱相撲です。
じわじわと土俵際まで追い詰め、サビ前のメニケッティ渾身のシャウトから一気にサビへとなだれ込む展開は、まるで太鼓腹の上に敵を吊り上げそのまま土俵下へ葬り去る筋骨隆々の「隆の里」をイメージさせますね。
(ね、って言われても…)
曲名通り、気合入れたい時に鼓舞してくれるようなパワーに満ちた楽曲です。
Armed and Dangerous
前曲のパワー感をそのままに、怒涛の確変連チャン状態で畳みかけてきます。
力強いサビの第一声で始まる本作のクライマックス楽曲。
立ち合いの小細工無しに正面からのぶつかり合いが潔いですね。
前みつとって出し投げで崩していくような展開でドラマティックな楽曲も魅力を感じますが、本作のコンセプトはあくまで「低重心」の横綱相撲。
終始オーソドックッスに徹した楽曲作りにむしろ好感度が爆上がりです。
I’ll Cry for You
アルバムラストでフィナーレを飾る「泣きメロ人間国宝」によるギターインスト曲。
ゲイリー・ムーアの顔を思い浮かべた方もきっと多いかと思います。
号泣必至、ティッシュ2箱用意、寝際に聴いて泣いてしまうと翌日は目が腫れて誰にも会えなくなりますのでご注意下さい。
「この曲だけでもアルバムを買う価値がある」との高評価もたくさん聞かれる、ギターインスト曲「泣きメロ部門」優秀賞を受賞した(当然ですが適当に作ってます…)名曲です。
因みに、1980年代リリース作品の中から本曲を含めた「インスト曲」をピックアップしてみた特集記事をご参考までに。
それにしても、泣きメロなのにこのガツンとくる豚骨ラーメンのような濃厚さ加減は一体何なのでしょうか。
ムーブメントを意識した音楽性の迷走ぶりを、過去の数々の傑作との比較で酷評していた「にわか連中」に対して、アルバムの最後で叩きつけたY&T(=メニケッティ)からの回答書のような楽曲。
「ありがとう!Y&T」
「ありがとう!デイヴ・メニケッティ」
まとめ
1987年というLAメタル完熟期にリリースされたY&T8枚目のアルバム「CONTAGIOUS」。
前作からの迷走ぶりは基本変わらず、ムーブメントの潮流に飲み込まれる形で、本来の叙情性やドラマティックな楽曲展開は本作でも影を潜め、残念ながら他のLAメタルバンドとの同質化へと突き進んでいきました…。
更には、バンドの軸足とも言えたドラムのレオナード・ヘイズをルックスを理由に解雇するという、現代では完全にコンプライス違反で袋叩きに合いそうな暴挙にでるなど、バンドとしてのガバナンスが崩壊していた状況が露わとなりました。
それでも血脈に流れるY&T魂、本来の魅力がしっかりと生存確認できるミディアムテンポの名曲が揃えられた本作は、個人的に「影の名盤」として愛聴しています。
ラストの泣きメロ人間国宝渾身のギターインスト曲は、Y&Tの灯がまだまだ力強く燃え続けていることをファンに証明してくれていますね。