Y&T / In Rock We Trust レビュー
Y&T史上最大のセールスを記録したアルバムの立役者「トム・アロム」
「IN ROCK WE TRUST」は Y&T(改名後)としては4枚目にあたる1984年リリースのアルバムです。
(Yesterday & Today時代から数えると通算6枚目)
Y&Tとして改名後の初期名盤3作「Earthshaker (1981年)」「Black Tiger (1982年)」「Mean Streak (1983年)」のメガトン級インパクトが凄過ぎて少々意外な感じですが、本作「IN ROCK WE TRUST」がバンド史上最も売れたアルバムとなっています。
まあ、前作までの名盤3作が着実に積み上げてきた実績に対する評価が、そのまま継続して本作のセールスにつながったと見るのが自然な見方かと思います。
契約レーベルもかつてない程のサポート力を発揮してくれた点もありますが、成功要因として見逃せない立役者は英国人プロデューサー「トム・アロム」の力量。
トム・アロムと言えば何と言っても JUDAS PRIESTの第6のメンバーと言われる程に、まさに全盛期のJUDASを支え続けてきたバンドとの信頼関係は強固なものでした。
70年代にはBlack Sabbathのデビュー作から5枚目のアルバムまでのエンジニアを担当。
80年代に入るとDef Leppard、Kix、Rough Cuttといった後にシーンで活躍することになるバンドのデビューアルバムを立て続けにプロデュース。
そして、JUDAS PRIESTの「British Steel」「Point Of Entry」「Screaming for Vengeance」「Defenders of the Faith」「Turbo」「Ram It Down」という脂の乗り切った時期の名盤プロデュースという大仕事をやってのけた、まさに大物ですね。
本作でも、LAメタル全盛期に「変化」を求められたバンドとしての悩みや葛藤を絶妙に中和しながら、自身のプロデュース経験値により最大公約数的な最適解を導き出した手腕が見事です。
メニケッティ節は控えめで明るくシンプルなサウンド
本作の至上命題「アメリカ市場での成功」にプライオリティがある以上、いくら人間国宝を擁するバンドとは言えアルバム全体のサウンドメイクは明るく爽快、シンプル路線で貫徹。
音質については安心と信頼の実績を誇る「トム・アロム」だけに文句無しの一級品クオリティですね。
楽曲もアメリカ市場で広く受け入れられ易そうなもので揃えられるなど、とにかく従来のY&Tの「色」を一度全て捨て去り、0(ゼロ)ベースで再構築したかのような作品と言えるでしょう。
これには、必然的に古参ファンからの賛否両論が噴出してくることとなりますが、当時のシーンの潮流や活動の継続には売れることが先ずは大前提となる世界ですので、致し方なしといったところだと思います。
アルバム全編を通じて、人間国宝の泣きのギター「メニケッティ節」は控えめな印象。
とは言え、要所要所では短めながら感動の泣きフレーズを聴かせてくれています。
突如現れた伝説のミラーマン…
本作を語る上で絶対に避けて通れないのがアルバムジャケット…。
こ、これは…。
凄いですね。
苦節40年以上洋楽をを楽しませてもらっていますが、個人的ダサジャケット大会を開催しようものならシード権を持っての出場間違いなしです。
昭和世代にとっては往年の「ミラーマン」を想起した方々も多かったのではないでしょうか。
当のミラーマンからも「×」とダメ出しされちゃう始末です。
相手の金的攻撃から防御するためのガードカップでしょうか、紫パンツの股間のもっこり具合も気になりますが、耳なし芳一を思わせる琵琶のような形をした楽器も謎ですね。
次作アルバムでは、ミラーマンの恋人が吸血鬼に襲われるシーンがジャケットデザインされることになりますが、絶体絶命のピンチに遠くの彼方からミラーマンが琵琶を「ベンベラベンベン…」と鳴らしながら駆けつけたとか、駆けつけなかったとか。
(その辺の詳細は、次作のレビュー記事でどうぞ)
そして何と言っても、この絶対的な強さを表現するポージングが極めつけですね。
渋過ぎます。
このポージングをこれだけ自分のものとして体得できているのは、謎のミラーマンとこの人「ジャンボ鶴田」しかいませんね。
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そして、何を血迷ったのかこのミラーマン、後のPVにも出演したりライブにも登場してきます。
まるでジャニーズのメンバーのような推しっぷりで露出し出した時には、さすがに誰にも負けないY&T愛を自負する私も心が折れそうになりました。
しかしそこは「健やかなる時も病める時も…」と誓ったY&Tへの愛が勝り、何とか土俵際の徳俵で踏ん張れたのでした…。
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: デイブ・メニケッティ(兼ギター)
- ギター : ジョーイ・アルヴィス
- ベース : フィル・ケネモア
- ドラムス : レオナード・ヘイズ
【収録曲】
- Rock & Roll’s Gonna Save the World – 4:41
- Life, Life, Life – 4:36
- Masters and Slaves – 4:01
- I’ll Keep on Believin’ (Do You Know) – 3:48
- Break Out Tonight! – 4:22
- Lipstick and Leather – 3:26
- Don’t Stop Runnin’ – 4:21
- (Your Love Is) Drivin’ Me Crazy – 4:55
- She’s a Liar – 3:35
- This Time – 5:37
おすすめ楽曲
Masters and Slaves
ジャケットがジャケットだけに1、2曲目で若干の不安を抱いてしまった自分の未熟さを反省。
ようやく3曲目で登場してきました「ならでは楽曲」。
劇的イントロから一気に持っていかれそうです。
パワーみなぎる「これぞY&Tのハードロック」と太鼓判を押せる楽曲ですね。
Y&Tの持つ正統派哀愁ハードロック要素と、売れ線を強要された楽曲作りの狭間で見出された絶妙な落としどころ。
メジャーバンドへの仲間入りを果たしたような完成度の高いハードロックは、さすがにトム・アロム大先生、良い仕事してますねぇ~。
I’ll Keep on Believin’ (Do You Know)
続く4曲目で涙腺はあっけなく決壊。
古参ファンはこの一曲のためだけにでも十分にアルバムを購入する価値があると言っても良いでしょう。
Y&Tベストテープ作りには欠かすことのできない名曲でした。
哀愁、哀愁、哀愁のまさに泣きのミルフィーユ状態。
バックで鳴り響くピアノの音に音色に胸が締め付けられそうになります。
人間国宝による本作屈指のギターソロも、渾身のメニケッティ節が炸裂。
俺たちが本当にやりたいのはこれなんだ!というバンドの魂の叫びを信じたいですね。
Lipstick and Leather
こちらもY&Tを代表する位置付け、ライブでも定番となっている楽曲。
以降の作品で主流となっていく低重心でシンプルだけど、サビに向かって確実な歩調で盛り上げていく楽曲の先駆けとも言えます。
単調なリフと単語連呼の覚えやすいサビはKISSっぽくも聴こえ、売れるための試行錯誤が顕著。
ワイルドで格好良いメニケッティのヴォーカルで、素直にノリまくりたいハードロックです。
これはこれでよろしいんではないかと。
Don’t Stop Runnin’
本作3曲目で往年の泣きメロの名曲を披露したように、後半の7曲目では遂に爆発した元気印のスピーディーなアメリカン・ハードロック!。
こちらも当然ベストテープ入りは必至な超定番、バンド代表曲ですね。
こうなると惜しまれるのは、楽曲の収録順。
どう考えても本曲2曲目、からの~3曲目で号泣させるみたいな作戦が安直素人的には良かったんでないの~っと思えてしまいます。
この曲は何と言ってもライブに限ります。
この曲のライブでのメニケッティのヴォーカルと、今は亡きフィル・ケネモアとジョーイ・アルヴィスによるコーラスの掛け合いを視聴すると、何故か涙がポロポロと出てきてしまうんですよね。
自身のこれまでの人生において、一体何度この曲に勇気付けられ、魂を鼓舞され、背中を押してもらったことでしょう。
辛く悲しかった時のことを思い出すわけではなく、この曲に対する純粋に「ありがとう」という感謝の気持ちが ”ぐぅわわわっ!” と湧き上がってきちゃうんです。
本来は明るく爽快ノリの良いロックンロールなのですが、あまりにも色々な思い出が詰まり過ぎていて私にとっては別格の一曲。
2024年1月の50周年記念来日ライブでは人目もはばからず号泣しながら拳を振り上げていました…。
まとめ
Y&Tとして改名後の初期3作品を通して、アメリカ西海岸のバンドとは思えないエモーショナルな楽曲を連発してファンの地盤を固めていたバンド。
本作ではいよいよLAメタルの潮流には逆らえず、市場を意識したアルバム制作を余儀なくされプロデューサーにはJUDAS PRIEST第6のメンバーとも言われるトム・アロムを招聘。
本気で挑んだ市場戦略は、謎のミラーマン出没等の珍道中もあったものの無事にバンド史上最高のセールス実績獲得に成功します。
往年の哀愁、泣きメロを切望するファンへの回答としての「I’ll Keep on Believin’ (Do You Know)」。
変化を余儀なくされつつも一緒に走り続けよう!と、バンド自らにも言い聞かせているように魂を鼓舞してくれる「Don’t Stop Runnin’」。
それらのY&T屈指の名曲を聴きながら、気が付けばジャケットのミラーマンと同じポーズで拳を天に突き上げているのでした。