KIX / Blow My Fuse どんなアルバム?
「ブレない」音楽性で成功を掴み取った苦労人バンド
ヘヴィメタルシーンが最高に盛り上がりつつあった1981年にデビューしたアメリカン・ハードロックバンド「KIX」。
1988年にリリースされた苦節4枚目のアルバムが本作「Blow My Fuse」です。
ヴォーカルのスティーブ・ホワイトマンを中心とする「KIX」は、メジャーデビュー後精力的に3枚のアルバムをリリースしますが、マーケットの反応はいま一つといったところでした。
バンドの音楽性、持ち味は何と言っても「元気で爽快」「解りやすくてノリの良いロック」。
裏返しの一言で悪く言ってしまうと「能天気」ですかね。
そんな楽曲、音楽性に呼応するかのようなこれまた賛否が分かれることとなるヴィジュアル、ルックス。
それでもバンドは方向感にブレることなく、果敢にアルバムを輩出し続けますが、いかんせんなかなか結果がついてこないという厳しい状態が続きました。
そして、ようやく苦節4枚目の本作にして念願のスマッシュヒット曲「Blow My Fuse」を叩き出すことに。
たとえ苦境の期間が長く続いても、己の信条を決して曲げることなく意志を貫き通して最終的に成功を手に収めた姿には、失礼ながら音楽性とルックスとは真逆の硬派な潔さ、格好良さを感じますね。
マーケットでの評価がなかなか得られなかった苦境の期間には、当然、後からデビューした後発のバンドの前座を務めたりする「煮え湯を飲まされるような」思いもたくさんあったと思います。
ですが、そこで決して腐らずに自らを信じて実直に取り組んできた努力がようやく実を結んだと言えるでしょう。
どこか懐かしさを感じるKIXサウンド
KIXサウンドの特徴は、クセのあるヴォーカルとクセの無いギターとでも言えるでしょうか。
バンドのフロントマンを務めるスティーブ・ホワイトマンは独特のしゃがれた線の細い声質の持ち主。
(全然違うと怒られそうですが)同じLAメタル勢のシンデレラのヴォーカル トム・キーファーと同系統の臭いがします。
トム・キーファーのブルージーな要素を全てそぎ落とした抜け殻のような声ですかね。(酷評が過ぎる…)
フロントマンとは言え、とりわけルックスが良いということも無く、歌う楽曲もこれと言ってヴォーカリストとしての力量が求められるものでも無いことから、まあ、可もなく不可もないロックヴォーカリストということで…。
そして、ギターはこれまた湿り気の一切ない乾ききったトーンでいかにもアメリカン・ハードロック然としたサウンドが特徴。
当時のハードロック、ヘヴィメタルシーンで人気を集めたテクニカル系、またはカリスマ性をもったギタリストは不在であり、当然そのプレイぶりも地味そのもの。
シンプルなリフとバッキングに徹して決して主張することのない「無印良品」のようなプレイスタイルですね。
しかし、不思議とこのギタープレイはどこか懐かしさを感じて妙に耳に残ってしまうのは私だけでは無い筈。
そうです、たとえ後輩バンドの前座であろうとも実直にプレイを続けた魂のカッティング、心に訴えるかけてくるフレーズこそが本物の証。
(これまた全然違うと怒られそうですが)私の中ではヘタウマギターの代表格であるKISSのエース・フレーリーのギタープレイを髣髴とさせるものがあります。
LAメタル全盛期とも言えるこれ以上無い絶好のタイミングでデビューを果たし、シーンでの活動機会が得られるシチュエーションに身を置きながら、全く日の目を浴びてこなかった苦労人バンドKIX。
自らを信じ、また応援してくれるファンを信じ続けて真摯な姿勢で歩んできた長い道のりの先に、成功をしっかりと掴み取った姿は本当に格好良く尊敬しちゃいます。
バンドメンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: スティーブ・ホワイトマン
- ギター : ロニー・ユーキンス
- ギター : ブライアン・フォーサイス
- ベース : ドニー・パーネル
- ドラムス : ジミー・チャファント
収録曲
- Red Lite, Green Lite, TNT – 3:54
- Get It While It’s Hot – 4:24
- No Ring Around Rosie – 4:34
- Don’t Close Your Eyes – 4:15
- She Drop Me the Bomb – 3:46
- Cold Blood – 4:16
- Piece of the Pie – 3:55
- Boomerang – 3:44
- Blow My Fuse – 4:00
- Dirty Boys – 3:42
おすすめ楽曲レビュー
Get It While It’s Hot
アルバムジャケットを見る限り、KIXってかなりハードで攻撃的な音楽性なんだろうなというイメージを持ってもおかしくはありませんが、良い意味でその期待や先入観は裏切られることになります。
前述した通り。KIXの特徴は火力強めに見えるジャケットデザインのイメージからは想像もできない程の「軽快で爽快な非常にわかりやすい THE・アメリカン・ハードロック」です。
アルバム2曲目に収録の本曲がその全てを象徴していますね。
ノリが良く、渋みも効いているという点では、個人的には後述の最大ヒット曲「Blow My Fuse」よりも好みです。
それにしても、MVだからなのでしょうか、ヴォーカルのスティーブ・ホワイトマンの異様なまでのハイ・テンションぶりに思わず引き気味になってしまいますね。
対照的にギターのロニー・ユーキンスは終始クールにキメています。
この辺りのバランス感の良さも、数多のステージをこなしてきた彼らならではの熟練のパフォーマンスぶりが見てとれるようで面白いですね。
Blow My Fuse
そしていよいよ、バンド最大のヒット曲がアルバム終盤の9曲目で登場。
この曲もどこかすっとぼけたようなシンプルなリフで始まり、ヴォーカルの歌い出だしも素っ頓狂な感じ。
かつて聴いたことのない位にすっとこどっこいな曲調でした。
でもリフといい、ヴォーカルメロディといい、滅茶苦茶印象的で耳に残って離れなくなるから不思議です。
初めて聴く人にはクセが強過ぎるかも知れないハスキーヴォイスのヴォーカルは、次第に耳が慣れてくるせいでしょうか、曲を聴けば聴くほどに旨味が増してくるスルメ楽曲。
知らず知らずの内に虜にされ、気が付けば何だか格好良いなくらいに思えてしまいます…。
当時はアメリカでラジオをつけたらどこかの放送局で必ずこの曲が流れたとかそうでなかったとか…。
とりあえずKIXってこんな感じなんだなと自身の脳へインプットしておくには、この一曲だけでも十分だとは思いますが、ストライクゾーンが広目の人は是非アルバムを通して抑えておきたい作品です。