RIOT / THE PRIVILEGE OF POWER レビュー
コンセプトアルバム?っぽさが話題を呼んだ超絶名盤
1990年リリースのRIOT 7枚目アルバム「THE PRIVILEGE OF POWER」。
もはや伝説の域に達している前作名盤「THUNDERSTEEL」の次のアルバムということで、当時のシーンは大注目。
バンド史上最高傑作と位置付ける人も多い反面、色々と物議をかもした作品でした。
前作に引き続き、抒情派ハイトーンヴォーカルのトニー・ムーア、テクニカル手数王のボビー・ジャーゾンベックを率いて、泰然自若の仕事人マーク・リアリがシーンに叩きつけた挑戦状といった感じでしょうか。
本作レビューにおいて物議となった必須ワードはやはり「コンセプトアルバム」「SE(Sound Effect)」「ホーンセクション」の3つとなるでしょう。
既に1988年には QUEENSRYCHE が3枚目アルバム「OPERATION: MINDCRIME」をリリース。
「コンセプトアルバム」という方法論を用いた歴史的傑作でHR/HMシーン(リスナーだけでなくプレイヤーにも)に大衝撃を与えました。
その後、今日に至るまで「曲間にSEが入っているだけで何となく”コンセプトアルバム”っぽく聴こえちゃう」バイアスが脳に焼きつけられてしまったように思います。
そもそも、私のような単細胞生物にとっては「コンセプトアルバム」とか難しいこと言われてもついていけないわけでして。
はっきり言って歌詞の世界観なんかも余程興味を持った時以外は、そんなに必死になって和訳を追いかけたりしないです…。
「音楽」の文字通り、単純に音を楽しんでいるだけなので歌詞も音として聴いちゃってる感じですかね…。
また、本作でよく言われる「SEが長すぎてだれる」とか「SEが無い方が楽曲のインパクトが伝わる」などの意見はごもっともだと思います。
ですが、個人的にはそれらがどうでも良い枝葉の議論だと感じてしまうほどに本作の楽曲の素晴らしさ、高度なテクニックに圧倒されてしまいます。
そしてもう一つのワード「ホーンセクション」の導入についても、個人的には全然気にならないと言うか、むしろ楽曲をより印象深くアクセント付けしていて効果的だなと思っています。
「ひかりもの」楽器はHR/HMには不要?。
いやいや、寿司だって序盤に”小肌”や”アジ”といった「ひかりもの」を食べることによってその後の脂身系のネタがより引き立つわけでして。(関係ないか…)
「ひかりもの」だろうが「三味線」だろうがもう少し心を広くして音を楽しんで下さいなと言いたくなっちゃいますね。
そして、外野があれこれ騒ぐ反面、意外に当の本人達は「軽いノリ」でそれらを導入してみただけのような気がしてなりません。
それは裏返せば、楽曲構成や演奏技術に絶対の自信を持っていることに裏付けられた「余裕」「遊び心」「思い付き」レベルのような気がします。
「こんなのちょっと面白いんじゃね?」「おしゃれじゃね?」的な…。
マーク・リアリのHR/HMシーンに対する「愉快犯的な挑発」なんじゃね?って感じがするんですよね…。
だって皆さん忘れたんですか、このジャケットデザイン…。
ボビー・ジャーゾンベックのドラムにねじ伏せられた枝葉の議論
上記、マーク・リアリの「挑発行為」は、既に前作「THUNDERSTEEL」の最終曲「BURIED ALIVE (TELL TALE HEART)」でその片鱗をチラ見せしていましたよね。
他の楽曲とは明らかに異質なムードで大胆にSEも使われた8分以上の大作曲。
この曲こそが本作に踏襲されより開花された「当時のRIOTの音楽性の象徴」だったように思います。
そしてその本質を明確に支え、本作で大爆発しているのがボビー・ジャーゾンベックのドラミングですね。
いやはや、凄過ぎでしょ、ていうか格好良すぎます。
スネアの一打だけでこれほどまでに張り詰めた緊張感が…。
そしてそのスネアのショットはどんな疾走曲であっても決して「鼓笛隊」になることはなく、一打一打が手抜きなしのパワーヒットですね。
もちろんカウンターパートであるドン・ヴァン・スタバーンのベースがあってこそですが、 常軌を逸した「音数」と「トーン」で迫ってくるボビーのドラムには驚きしかありません。
結果、本作を聴く時って最初から最後までず~っと無意識にドラムの音を追いかけちゃうんですよね~。
ミキシングで大分優遇されていることもあると思いますが、いつもギターメインで聴くギター小僧も本作に限ってはもうドラムの虜です(目が星状態)。
そして圧巻のリズム隊と哀愁のリアリ節によるメロディを超絶ハイトーンで突き刺すように歌い上げるのがヴォーカルのトニー・ムーア。
それにしてもガイ・スペランザに始まり、レット・フォレスター、そしてこの後のマイク・ディメオなど、RIOTというバンドはヴォーカルには恵まれてましたねぇ~。
その歴代ヴォーカリストの魅力を遺憾なく発揮させるようなマーク・リアリの楽曲作りもお見事。
当時の某専門誌のレビューでは、ヴォーカルが弱点とか言われてましたが個人的には全然真逆に思ってました。
いずれにしても本作は、オープニングからエンディングまで疾走チューンあり、バラードありのまさに聴き始めたら途中でやめられない構成となっています。
超名曲と評価の高い、ポルポト派のジェノサイドについて歌った「DANCE OF DEATH」。
ラストには1977年リリースのアル・ディ・メオラのアルバム「Elegant Gypsy」に収録の「Racing with the Devil on a Spanish Highway」のカバー曲が収録。
各パートメンバーがやりたい放題でプレイしているバカテク集団バンド「RIOT」の、魅力と聴きどころが溢れる超名盤です。
スコアチャート
メンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: トニー・ムーア
- ギター : マーク・リアリ
- ベース : ドン・ヴァン・スタバーン
- ドラムス : ボビー・ジャーゾンベック
収録曲
- On Your Knees -6:37
- Metal Soldiers -6:40
- Runaway -5:11
- Killer -4:53
- Dance of Death -7:17
- Storming the Gates of Hell -3:43
- Maryanne -4:55
- Little Miss Death -4:12
- Black Leather and Glittering Steel -7:07
- Racing with the Devil on a Spanish Highway (Al Di Meola cover) -7:17
おすすめ楽曲
On Your Knees
どの曲も素晴らしい仕上がり(特にボビーのドラム)なので、全曲おすすめなのですがキリがないのでその中でも断腸の思いで選んだ5曲です。
先ずはやはりオープニング曲。
前述しましたが、何なんでしょうかね、この「スネア一発」によるピーンと張り詰めたような緊張感は。
そして突如機関銃のようにぶっ放される速射砲。
てめーらっ、SEが長いとか文句言ってねーで耳の穴かっぽじって良く聴けーっ!
てな感じで滅多打ちにされ、気をつけないとパンチドランカー状態になっちゃいそうですね。
そして歌い始めればこれまた突き抜けるトニー・ムーアのシャウト!
早くも良いパンチもらちゃって完全に足にきちゃってます…。
Runaway
RIOTならではの渋いミドルチューンの2曲目を語りたいところをグッと堪えての3曲目のパワーバラード。
前作「THUNDERSTEEL」での涙ちょちょ切れバラード「Bloodstreets」に匹敵する名曲ですね。
アコスティックの音色が全身の毛穴から逆流して沁み込んでくるようです。
疾走チューンだけでないこうした渋い楽曲もRIOTの大きな魅力の一つですね。
トニー・ムーアの情感豊かな落ち着いた歌唱も非常に魅力的です。
Killer
ゲストにジョー・リン・ターナーを迎えてのアグレッシブ&スリリングに展開されるミドルチューン。
RIOTを評して「ヴォーカルが弱点」とか酷評していた某専門誌もありましたが、さすがに本曲のみを聴けばジョー・リン・ターナーとの存在感の差は歴然。
トニー・ムーアの歌唱が妙に薄っぺらく感じてしまうほどに、ジョー・リン・ターナーの独壇場となっていますね。
大胆に導入されたホーンセクションとあいまって、EXTREMEを彷彿とさせる格好良さが光ります。
Maryanne
疾走チューンも堪らないのですが「本作最高楽曲を選べ」と言われれば、自称「大日本軟弱メロハー愛好会会長」の私としましては迷いなくこちらを選びます。
本作の中では異色ともいえるミドルポップチューンながら、軟弱メロハー好きにはこれ以上ないタマランチ会長楽曲。
哀愁の流麗メロディをエモーショナルに歌い上げるトニー・ムーア&バックコーラス。
引きの美学に徹して楽曲としてのまとまりを優先させた自重ソロで仕上げた仕事人マーク・リアリ。
そして何といっても本曲を名曲たらしめているのがボビー・ジャーゾンベックの「ため感」が半端ないドラミングですね。
スッコンスッコンと抜け感が心地良いスネアの音色といい、ホントに凄いドラマーです。
Little Miss Death
前曲に続きキャッチーなミドルチューンの選曲。
独特のサビメロは一度聴いたら癖になる中毒性の高さです。
やっぱり若かった当時から疾走チューンよりもこの手の曲が大好きだった私の DNA は軟弱嗜好なのでしょうね…。
自分では「勢いでは誤魔化せないミドルチューンこそが通好みなのだ」とか勝手に思っていますが…。
まとめ
マネジメント契約上の不本意な活動停止から見事に起死回生した前作「THUNDERSTEEL」。
続く新作としてシーンの注目を集めたRIOT 1990年リリースの7枚目アルバムが本作「THE PRIVILEGE OF POWER」。
基本的に前作の音楽性を踏襲~更に進化させた素晴らしい完成度の楽曲が揃えられ「バンド史上最高傑作」と位置付ける人も多い本作。
反面、「コンセプトアルバム」「長すぎるSE」「ホーンセクションの導入」などの枝葉の部分で物議をかもした作品でした。
しかしながら、そんな枝葉の議論をねじ伏せるかのようにボビー・ジャーゾンベックのドラムをはじめ各パートのテクニックが大爆発している超名盤です。