Talisman / Genesis レビュー
ヤコブ&ソートによる極上メロハーバンド
タリスマンは、イングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォースでも活躍した奇才ベーシストのマルセル・ヤコブと、胸熱ヴォーカリストのジェフ・スコット・ソートが中心メンバーとなって結成。
当初は、スウェーデン出身のマルセル・ヤコブのソロプロジェクト的な位置付けでしたが、徐々に進化発展する形でバンド体制が整っていきました。
本作は、タリスマンの1993年リリースの2枚目のアルバムになります。
本作の制作当時でもまだドラムが不在だったため、ドラムパートはマルセル・ヤコブによるプログラミング(打ち込み)での対応となっています。
(打ち込みでここまでできるんだと逆に感心してしまいますね)
タリスマンの最大の特徴は、マルセル・ヤコブによる北欧の血を脈々と受け継ぐ叙情的メロディとグルーブ感溢れるサウンド。
そしてそれらの表現力を極限まで増幅させるように、「熱盛男」ジェフ・スコット・ソートの情熱的なヴォーカルが、厚みのあるコーラスとともに圧倒的な存在感を示しています。
技巧派のマルセル・ヤコブのベースラインは、これでもかと言わんばかりにテクニカル&トリッキーに、そして時にはファンキーにと言った感じで独特のグルーブ感で迫ってくるのがたまりませんね。
ギターには後にアークエネミーに加入することになる若き日のフレドリック・ オーケソンが参加。
タリスマン時代のそのプレイは「For the Band」に徹したやや自重気味ながらも、要所要所で素晴らしいソロメロを披露しています。
余裕で平均点超えだったデビューアルバム
タリスマンは本作から遡ること3年、1990年にデビューアルバムをリリースしています。
こちらのデビューアルバムも、当然本ブログでもゆくゆくはレビューさせて頂く予定ですが、「余裕で平均点以上をクリアする上質なメロディアス・ハードロックの宝庫」と言える内容です。
しかしながら、あえて先に本作2ndアルバムからレビューした理由は…。
そう、このアルバムの各楽曲の完成度、粒の揃い具合は「別格」と感じるからです。
デビューアルバムではどちらかと言えばオーソドックスな北欧メロディアスを展開披露していましたが、ヤコブ&ソートというタレント性を考えれば「ある意味想定内の範囲」とも言えるものでした。
かなりキテル別格の本作
本作2作目はヤバい位にかなりキテます。
遂に本気出してきたかって感じ…、
音楽性も新たなゾーンに入ったなって感じで、種々のフレーバーが加えられながら確実に進化、革新を遂げていると言って良いようでしょう。
まさに全曲捨て曲無しとはこのこと。
オープニングからラストまで息もつかせぬ名曲の連発で内容の濃さが際立つ作品。
名盤中の名盤です!。
スコアチャート
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ジェフ・スコット・ソート
- ギター : フレドリック・ オーケソン
- ベース : マルセル・ヤコブ
- ドラム : マルセル・ヤコブ(プログラミング)
【収録曲】
- Time After Time – 3:34
- Comin’ Home – 3:37
- Mysterious (This Time It’s Serious) – 3:22
- If U Would Only Be My Friend – 4:45
- All or Nothing – 3:46
- All I Want – 5:31
- U Done Me Wrong – 2:37
- I’ll Set Your House on Fire – 3:28
- Give Me a Sign – 4:53
- Lovechild – 3:45
- Long Way 2 Go – 5:02
おすすめ楽曲
Time After Time
オープニング一発目で本作の方向感が明確に示されています。
重く厚みのあるギターリフにグルーブ感溢れるベースライン、どことなくノリの良いファンキーなフレーバーも散りばめながら、楽曲全体としてはまとまりのある印象的なメロディライン。
大日本〇〇節認定協会から「タリスマン節」としてお墨付き認定を頂けそうな程に、タリスマンの特徴、魅力が凝縮された「ならでは楽曲」でアルバムは幕を開けます。
Comin’ Home
続く2曲目もオープニング曲の流れを継いでグルーブ感の嵐です!。
この曲を聴きながら思ったのは、ジェフ・スコット・ソートはイングヴェイと離れて正解だったなーという感想です。
彼の風貌的にも欧州正統派様式美の路線ではなく、叙情的な歌い回しではあるものの、どちらかと言えば南米の血を引くファンキーなノリの良さがマッチするヴォーカリストだと思います。
Mysterious (This Time It’s Serious)
出ました怒涛の3たて。
間髪入れずに3曲目も四国鳴門の渦潮を思わせるかのようなグルーブ感。
湿り気を多めに含んだ哀愁のメロディラインをジェフ・スコット・ソートがエモーショナルに歌いあげていますね。
巧みな編曲とサビメロにおける厚みあるコーラスで、よりその印象度を増幅させながら明確にリスナーの脳裏に刻みこんでいく巧妙な曲作り。
もう素直に身を委ねるほかありません。
蛇足ですが、フレドリック・ オーケソンによるギターソロのフレーズが、OZZYの Mr.Crowley を思い起こさせる感じがして思わずにやけてしまいます。
U Done Me Wrong
Give Me a Sign
さあ、お待たせいたしました。
ここでいよいよ真打登場です。
本作における(個人的に)最高楽曲!。
ホント、この曲これまでに何百回(何千回?)聴いたのかって位のヘビロテ楽曲。
琴線どストライクで思い切り揺さぶってくるミドルテンポの渋いリフとメロディライン。
曲展開のクライマックスには哀愁の涙ちょちょ切れサビメロが炸裂!。
そして感動のあまり「もう参りました」とタップしているにも関わらず、マウントからパンチを振り下ろしてくるかのような「ダメ押しの熱いバックコーラス」。
いやぁー、全てが完璧!。
(個人的に)パーフェクトな楽曲ですね。
昭和世代の私なんぞは、これって「演歌」としてカバーしても売れるんじゃね?とか本気で思ってしまいます。
まとめ
タリスマンの創始者であり頭脳の中枢であったマルセル・ヤコブ。
そのの圧巻のベースプレイは、まるで鳴門の渦潮のように無数の渦が不規則にグルグルとうねりまくりながら押し寄せ、なす術もなく自分が飲み込まれていくかのような感覚に陥ります。
変人と紙一重の境地に生きる天才は、時として凡人には到底理解できない奇行ともとれる言動をとることがありますが。
奇才マルセル・ヤコブもまた、自身の病魔との苦闘の末に2009年に自らその短い生涯を閉じてしまいました。
本当にハードロック界、いや世界の音楽界にとっての大きな損失と言えるでしょう。
今となっては、彼がこの世に残した決して多いとは言えない楽曲を通じてしか、その超絶的なテクニックとメロディセンスを体感することはできません。
でも必ずや彼の魂を受け継ぐ、類似の感性を持ったプレイヤーがその生まれ代わりとなってHR/HMシーンに現れてくれることでしょう。