White Lion / Fight to survive レビュー
ニューヨークからデビューの欧州感漂う哀愁メロハーバンド
1985年リリースのWHITE LION 衝撃のデビューアルバム。
そもそも「WHITE LION」は地球上に約3000頭ほどしか生息していないライオンの白変種。
その希少性の高さから、アフリカでは「神の使い」と崇拝する伝承もあるようです。
そう、まさに当時のヘヴィメタルシーンを我が物顔で占拠しつつあった多くの「LAメタル」バンドとは明確に一線を画した「希少種」として「WHITE LION」はシーンに登場したのでした。
バンドの中心はデンマーク出身のヴォーカル「マイク・トランプ」とニューヨーク育ちのギター「ヴィト・ ブラッタ」。
特段派手なルックスを打ち出すわけでもなく、あくまでも楽曲とそのアレンジで勝負する「新日ストロングスタイル」。
欧州感を漂わせつつキャッチーにまとめた独特のメロディラインが特徴です。
まさに欧州とアメリカンの感性が絶妙に融合して産み出された「希少変種」。
本格派メロハーバンドの登場に、当時は諸手を挙げて歓喜したのを思い出します。
特筆すべき2人のキーメンバー
既に本国デンマークでの人気は高くドメスティックな成功は収めていたヴォーカルのマイク・トランプ。
いよいよ世界へ打って出るという野望を抱きながら渡米し、ギターのヴィト・ブラッタと共にバンドを結成します。
マイク・トランプのヴォーカルは、独特の粘着質な歌い回しを特徴としていて、正直好き嫌いが分かれるところではありますが…。
とりわけバラード曲では感情表現をより重視して丁寧に歌い上げようと必死になっている様子が窺えますね。
一方、もう一人のキーメンバーであるギターのヴィト・ブラッタには驚かされました。
明らかにE.VAN HALENを思わせるトリッキーな小技を織り交ぜながら、印象的なリフ、フレーズを連発してくるギタープレイ。
「新たなギターヒーロー誕生!」と一発で虜になってしまったのを覚えています。
スピードだけの単なる速弾き大王や、俺が俺がの自己中な弾きまくり大王ではなく、あくまで楽曲のメロディラインに軸足を置いた落ち着きのあるプレイスタイル。
随所に哀愁溢れるフレーズを量産しています。
この2人のキーメンバーによる美しくも哀愁を帯びた楽曲群が立て続けに繰り広げられる本作は、俗に言う「捨て曲なし」の無限再生が可能なヘヴィローテーション・アルバム。
後の2ndアルバムでその完成形を披露することになりますが、デビューアルバムの本作で既にそのポテンシャルを十分に暗示させる風格、余裕の完成度を誇っています。
スコアチャート
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: マイク・トランプ
- ギター : ヴィト・ブラッタ
- ベース : デイブ・スピッツ
- ドラムス : グレッグ・D・アンジェロ
【収録曲】
- Broken heart – 3:31
- Cherokee – 4:56
- Fight to Survive – 5:14
- Where do We Run – 3:29
- In the City – 4:39
- All the Fallen Men – 4:53
- All Burn in Hell – 4:21
- Kid of 1000 Faces – 4:02
- El Salvador – 4:49
- The Road to Valhalla – 4:31
おすすめ楽曲
Broken heart
いやぁ~のっけからかましてくれます。
情感豊かなイントロヴォーカルで始まるこの曲は、個人的にはWHITE LIONの中でも屈指のお気に入り名曲です。
曲そのものの完成度、メロディラインはもちろんのこと、とりわけ満点評価したいのがギターソロ。
短くシンプル、特段トリッキーなこともやっていないのですが。
ソロとしての完璧な起承転結の構築美、美し過ぎるメロディ、楽曲に溶け込みながら清流の如く流れていきますね。
決してテクニックをひけらかすことなく、楽曲が表現するところのはかなさ、哀愁感をストレートに表現したプレイは本当にお見事!。
後年に本曲のリメイク・ヴァージョンがリリースされていますが、ギターソロが全く異なるアレンジとなっていて幻滅しました…。
イントロの入りなどは捻りを効かせてまあまあ納得はできましたが、ギターソロに関しては断トツにこちらのオリジナルヴァージョンが優っていると思います。
(というか、比較する次元にない)
お時間のある方は聴き比べてみるのもおすすめです。
Cherokee
(個人的に)良いアルバムの条件だと思っているアルバム「2曲目」。
さすがツボを押さえての見事な畳みかけ攻撃です。
出力全開で垂直立ち上げスタートするリフと、それに続く美しいメロディライン。
決して褒められたサウンドメイクではない中で、リバーブMAXの重厚感とおかずオブリをちょいちょい効かせたバッキング。
覚えやすいキャッチーなサビメロと、気合の込められたギターソロ。
どれをとっても減点ポイントが見つからないこれまたバンド屈指の名曲ですね~。
一度聴いたら何度でも聴きたくなる常習性と、気が付くと鼻歌交じりに歌っている日常性を合わせ持つ、まさに万人受けする名曲です。
All the fallen men
LP盤で言うところのB面1曲目ポジションも、これまた良曲の予約席、重要な位置付けです。
本曲もそのポジションに堂々と鎮座するクォリティをもつ、非常に練り上げられた楽曲ですね。
やや単調気味なオーソドックスなリフからサビメロまでの構成に物足りなさを感じ始めた矢先、ギターソロ手前での変調がポイントですね。
長めにとったインスト部分などは、ライブにおいて何かしらのパフォーマンスを期待してしまう曲作りです。
一方で、高音域には明らかな「線の細さ」を感じるマイク トランプのヴォーカルは、果たしてライブでの再現性がどこまであるのか?一抹の不安を感じてしまうのも事実です。
El salvador
冒頭約1分間に及ぶフラメンコ調のアコースティックギターとの掛け合いで、さりげなくそのギターテクニックを披露。
そのままの流れで欧州正統派の様式美を髣髴とさせるリフ展開に舵を切るという、本作の中でも最もヘヴィな楽曲。
この曲を聴いて真っ先に思い起こすのは、謎の仮面を被った正統派様式美ヘヴィメタルバンド「CRIMSON GLORY」。
そう言えば、彼らのデビューアルバムのオープニング曲名は「バルハラ」でしたね~。
そしてWHITE LIONのデビュー本作のラストに収録されている楽曲名は?...。
こりゃあもう絶対単なる偶然ではないでしょう。
気づいちゃった!気づいちゃった!わーい、わい!。
まとめ
LAメタルの台頭する当時のヘヴィメタルシーンに食あたり気味でげんなりしていた中で、待望の本格派として救世主のように登場してくれたWHITE LION。
その期待の大きさゆえに注目されたライブパフォーマンスも、後に発表されるライブ音源で確認する限り、まずまずの安定感でした。
ヴォーカルのマイク・トランプの声質と歌唱法はややクセが強く、好き嫌いがある程度はっきりしてしまうタイプですが。
逆に言えば、バンドとしての存在感を印象付ける要素とも言えますね。
そして何よりもデンマーク産の欧州DNAを持った叙情性と、ニューヨーク産のテクニカルな才能を持ったギタリストの融合がもたらした希少変種「WHITE LION」の誕生エネルギーを体感できる貴重な名盤です。