ALCATRAZZ / DISTURBING THE PEACE レビュー
イングヴェイが脱退し後任にスティーヴ・ヴァイが加入
1983年にヴォーカルのグラハム・ボネットを中心に結成されたALCATRAZZは、その後の速弾き戦国時代の火ぶたを切って落とした急先鋒イングヴェイ・マルムスティーンを擁して、デビューアルバム「NO PAROLE FROM ROCK’N’ROLL」をリリースしました。
イングヴェイの驚異的なギターテクニックとグラハム・ボネットの青筋ヴォーカルが火花を散らしたこの圧巻のデビュー作はHR/HM史上においても歴史的な価値を持つ超名盤として知られていますね。
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ALCATRAZZ 【バンドデビュー作にして最高傑作】レビュー
次作に大きな期待が集まったALCATRAZZでしたが、イングヴェイは自身のキャリアを追求することを優先しバンドを脱退してしまいます。
まあ、想定内と言えば想定内、グラハム・ボネットによって表舞台に引き上げてもらったという恩義など微塵も感じさせずに潔いまでに「踏み台」として旅立っていきましたね…。
そんな信義にもとる行いが後のイングヴェイ自身に次々に降りかかる災いに影響しているのか否かは神のみぞ知るところです…。
一方、看板ギタリストを失ったALCATRAZZでしたが、流石は海千山千のグラハム・ボネット。
後任にこれまたスーパーテクニシャンのスティーヴ・ヴァイを加入させて本作2ndアルバムをリリース。
当時の情報量では「スティーヴ・ヴァイ? 誰?」「フランク・ザッパの弟子?」程度の知名度しか無かったように記憶していますが、加入後間もない来日公演でイングヴェイ節を難なくコピって見せたテクニックで力量を証明して見せましたね。
結果としてALCATRAZZは、20世紀の2大巨星ギタリストを輩出したスーパーバンドとなったのでした。
デビュー作とは別バンドとして聴くべき本作2ndアルバム
1985年リリースのALCATRAZZの2枚目アルバム「DISTURBING THE PEACE」。
前述の通り、デビュー作のネオクラシカル様式美に酔いしれたご機嫌状態で、額にネクタイ巻いて「2軒目いくぞー!」なんて勢いで手を出すと、見事にズッコケて大怪我をする作品です。
よくもまあ、ここまで豹変できますねボネットさんと言いたくなる程の潔さ…。
「ネオクラシカル?、様式美?、何だそれ?」状態のスティーヴ・ヴァイ ワールドが全開。
一歩間違えればHR/HM界で常に眼を光らせている産業ロック取締り警察の連中に職務質問されかねないAOR調の楽曲もあります。
デビュー作の残り香さえも一切断ち切って、全く異なる音楽性に打って出た方向性。
結果として、よくありがちな前作との優劣議論を全く意味を成さなく無力化させて、シンプルに作品自体の絶対評価「好きか嫌いか」のみが問われる形になりました。
グラハム・ボネットの力量を再認識させられるスティーヴ・ヴァイとのケミストリー
総じて、ALCATRAZZの2ndと言うより新生ALCATRAZZのアルバムとして評価した時の本作のクオリティは非常に高いといえるでしょう。
後に(良い意味で)変態プレイヤーと呼ばれるようになるスティーヴ・ヴァイの独創的な楽曲世界観と超絶テクニック。
単なる手わざだけでなく色んな機材を使って好き勝手やってるような感じですね。
変に制限することなく自由にやらせまくって出来上がったような楽曲群が続きますが、それらを結局包含して見事にまとめちゃってるのがグラハム・ボネットのヴォーカルです。
青筋王子としての側面だけでない、「えっ?これグラハム・ボネットがホントに歌ってるの?」とビックリしてしまうような多彩なヴォーカルスタイルを聴かせてくれています。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル : グラハム・ボネット
- ギター : スティーヴ・ヴァイ
- ベース : ゲイリー・シェア
- ドラムス : ヤン・ウヴェナ
- キーボード : ジミー・ウォルドー
収録曲
- God Blessed Video – 3:29
- Mercy – 4:22
- Will You Be Home Tonight – 5:01
- Wire and Wood – 3:26
- Desert Diamond – 4:18
- Stripper – 3:52
- Painted Lover – 3:22
- Lighter Shade of Green – 0:46
- Sons and Lovers – 3:35
- Skyfire – 3:53
- Breaking the Heart of the City – 4:58
おすすめ楽曲
God Blessed Video
1stの路線踏襲に期待して本作を購入してしまったリスナーは、オープニングの5秒間を聴いただけで「乗る電車間違えた」と肝を冷やしてしまいますね。
デビューアルバムのオープニング曲「Island in the Sun」もPOPと言えばPOPでしたが明らかに異質というか、別世界。
いったい何重に音重ねてんのよ?と突っ込みたくなるくらいにコネクリ回された音像ながら、メロディは至ってシンプルというスティーヴ・ヴァイ ワールドがオープニングから炸裂しています。
それにしても、スティーヴ・ヴァイのプレイはもはやギターという楽器の概念を超越してしまっていますね。
普通に弾いてる時間よりも遥かに長い時間タッピングしています。
そして「変態プレイヤー」の称号を欲しいままにする衝撃の動画がこちらですね。
(もはやお笑いコントのようですが…)
Will You Be Home Tonight
3曲目に収録のいきなりのTOTO風楽曲。
個人的には驚きとともに大歓迎した異色の曲でした。
歌い出しは「えっ?誰?」って感じに戸惑うほどにグラハム・ボネットの別の側面を垣間見れますね。
ヴァース~サビメロにかけては「息継ぎしないで歌う王決定戦」に使われそうな、独特で印象的なメロディが続き、グラハム・ボネットのヴォーカルの魅力がこれでもかと凝縮された仕上がりの名曲です。
Stripper
本作の中で最もスピーディでスリリングな楽曲。
息つく暇もなく目まぐるしくハードに展開していくスティーヴ・ヴァイならではの楽曲ですが、その根底にあるものは「楽しさ」だと実感させられますね。
聴き手をどや顔でねじ伏せるのがイングヴェイのスタイルとするならば、スティーヴ・ヴァイのスタイルは別次元の「一緒にノリを楽しめる」感じ。
何も知らずに聴かされたらキーボードだと思ってしまうような両手タッピングのソロ。
とにかくド派手で奇抜なフレーズが連発される展開も、しっかりまとめ上げているのはやっぱりグラハム・ボネットのヴォーカルという、ALCATRAZZの確固たる方程式が導き出した最適解と言えるような名曲ですね。
Skyfire
本作の中でも最もオーソドックスなハードロックしている楽曲ですね。
もしも本作がこういう曲ばかりで埋められた無難な出来映えだったとしたら、間違いなくデビュー作との比較論となり酷評されて瞬時に葬り去られていたことでしょう。
しかしながら、本作ではむしろ王道楽曲が味変スパイスのような位置付け。
スティーヴ・ヴァイとグラハム・ボネットの爆発的なケミストリーの規模感からすれば、 目立つことはありませんがクオリティと安定感は流石です。
まとめ
イングヴェイ・マルムスティーンに続きスティーヴ・ヴァイというスーパーギタリストを実質デビューさせた、グラハム・ボネット率いるALCATRAZZの2枚目アルバム「DISTURBING THE PEACE」。
その真価はデビュー作との相対比較では論じることのできない、あまりにも独創的で奇抜な音楽性スタイルで仕上げられた「別物バンド」の作品でした。
キーボードととの識別が難しい程の(悪く言えば線の細い)ギタートーンで超絶テクニックを披露するギター自由人スティーヴ・ヴァイ。
スーパーギタリストに自由にやらせた風の懐の深さを見せつつも、気が付けばしっかり自身の土俵でコロリとぶん投げて料理しました感のあるグラハム・ボネットの変幻自在のヴォーカリストとしての力量を再認識させられます。
そして更に次作の3rdアルバム「DANGEROUS GAME」ではダニー・ジョンソンを迎え入れ、これまたシーンをザワつかせたALCATRAZZだったのでした…。