IRON MAIDEN / PIECE OF MIND(頭脳改革)レビュー
黄金期のベストメンバーが揃った4枚目
1983年リリースのIRON MAIDEN 4枚目のアルバム「Piece of Mind(邦題:頭脳改革)」。
個人的な印象でこのアルバムを漢字一文字で表すと「固」ですね。
先ずは何と言っても本作よりドラムがニコ・マクブレインに代わりその後の長い間に渡る「黄金期」のベストメンバー体制が「固まった」のが一つ。
既に、前作「魔力の刻印」よりヴォーカルがポール・ディアノからブルース・ディッキンソンに代わっており、本作でドラムがクライヴ・バーからニコに代わりバンドとしての完成形となりました。
言うまでもなく、ポール・ディアノ時代の初期2作も愛聴してやまない大名盤ですが、批判を恐れずに言えば「ライブハウス~小ホール」止まりのスケール。
その後の作品の圧倒的なスケール感、数万人規模で動員するライブで表現できるのはブルース・ディッキンソンだったなと、スティーヴ・ハリスの先見の明に驚かされます。
そして本作で感じるもう一つの「固」は、収録楽曲が何とも言えず「固く」「堅く」「硬く」感じることです。
この個人的印象はなかなか言語化するのが難しいのですが、とにかく「固形感」が半端ないのです。
もちろん、IRON MAIDEN の最大の特徴であるメロディアス性は前作同様、いや更にブラッシュアップされているのですが、バックで支えるリズム隊の盤石度といいますか、安定感が物凄いことになっている感じです。
クライヴ・バーの意表を突く大技プレイとは対照的に、ニコのドラムは圧倒的な手数と小技の多さで楽曲の隙間をひたすら埋め尽くしていくドラミング。
一切の隙の無い形で固まった楽曲が、得も言われぬ硬質感を放っているように思えてなりません。
更にこじつけて言えば、ジャケットデザインも四角い?狭い空間にエディが閉じ込められている描写。
これからまさに「古い」頭脳を改革させられるのを抵抗できずに待つのみの状況はまさに「固」…。
クオリティ高く一切無駄のない全9曲
個人的に IRON MAIDEN のリリースアルバムは7枚目の「SEVENTH SON OF A SEVENTH SON」まで捨て曲(この言葉は良くないですね~あまり好きではない曲)が一切なく、全曲好き過ぎてたまらないのですが、とりわけ本作収録の全9曲の平均点は、1、2を争う高いクオリティだと思います。
とか言って、他のアルバムも結局全曲良いんですけどね…。
よく言われる金太郎あめアルバムとはまさしくこのことで、どこから聴いても思わず唸ってしまいそうになる程の中身の濃い楽曲が飛び出してきます。
前述の通り派手さはなく「硬い」印象の楽曲が多いので、3周くらいしてじわじわと良さが噛みしめられる感じでしょうか。
体脂肪率で言えば1ケタ台、ぜい肉の無い筋肉質アルバムですね。
【IRON MAIDEN】アルバム一覧(ディスコグラフィ)はこちらから
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: Bruce Dickinson
- ギター : Dave Murray
- ギター : Adrian Smith
- ベース : Steve Harris
- ドラムス : Nicko McBrain
収録曲
- Where Eagles Dare [6:10]
- Revelations [6:48]
- Flight Of Icarus [3:51]
- Die With Your Boots On [5:28]
- The Trooper [4:10]
- Still Life [4:53]
- Quest For Fire [3:41]
- Sun And Steel [3:26]
- To Tame A Land [7:25]
おすすめ楽曲
Where Eagles Dare
早速、あいさつ代わりのニコのドラムから始まるオープニング。
オープニングからこの「硬い」曲を持ってきたスティーヴ・ハリスの世界観は、私のような凡人には知る由もありません。
でも、決して勢いスピードやキャッチーさで誤魔化さずに、あくまで自分達の持ち味である楽曲の構成展開やスケール感のあるブルース・ディッキンソンのヴォーカルを軸に勝負する姿勢の顕われの気がしますね。
緩急をつけながら進行するドラマティックな楽曲展開に思わず引きずり込まれてしまいます。
Revelations
前作「魔力の刻印」では楽曲作りにはあまり介入のなかったブルース・ディッキンソンの楽曲。
オープニングに続く2曲目にしてこの重苦しい鈍足ぶりか…と、やや意気消沈しかけた矢先、スピードアップしての展開を魅せるドラマティック性がたまりません。
そして再びスローダウンしてのブルース・ディッキンソンの渾身のヴォーカル。
スティーヴ・ハリスのベースラインの上を水を得た魚のように情感たっぷりに歌い上げてますね。
その後またしてもスピードアップしながら一気にギターソロに突入。
こうなってくるともう怖いもの無しのMAIDEN無双状態。
ひたすらヘッドバンキングの嵐です。
Flight Of Icarus
3曲目で登場してきたキャッチー路線担当エイドリアン・スミスの楽曲(ブルースと共作)。
IRON MAIDEN らしからぬシンプルな演奏とヴォーカルメロディ。
もしも IRON MAIDEN 以外のバンドがこの曲をリリースしていたら、全く印象に残らなかったかも知れない?、普通の楽曲。
バンドを代表する人気楽曲などと言われることもあるようですが、個人的にはそれほどの思い入れは湧きませんでした。
Die With Your Boots On
ここでようやくきましたね!の疾走チューン。
やはりIRON MAIDEN はこうでないといけません。
メロディアスなイントロ、バッキバキのベース、ワンバスのニコのドラムが冴えわたってます。
(ツーバスでズンドコすれば良いってもんじゃないですよね~。)
そしてブルース・ディッキンソンの声音域の広さと歌唱力がド偉いことになっちゃってますね。
この楽曲はこの方にしか歌えません…専売特許楽曲です。
中盤のギターソロのバックでは、スティーヴ・ハリスの横槍を入れるようなベース攻撃が炸裂。
毎度お馴染みのこの攻撃で、ツインギターの2人は相当のインパクトあるソロが必要条件となるプレッシャーでたまったもんじゃないですね(笑)。
The Trooper
やばい、やばい、あっと言う間に5曲目まできてしまいました。
このままでは全曲レビューになってしまいます。
ここで本作のハイライト楽曲の登場と言わざるを得ない(いや、素直に言え!)楽曲が唐突に炸裂。
「トリル王」デイヴ・マーレイが、まるで親の仇のようにトリルしまくっています。
衝撃的なイントロ、これまたブルースにしか歌いこなせない強烈な歌メロ、間違いなくIRON MAIDEN の代表曲に位置付けられる名曲ですね。
To Tame A Land
アルバムのラストを締める長大作曲。
曲中で様々なアレンジによる展開がなされながら物語のように楽曲が進んでいきます。
個人的には後作の「POWERSLAVE」のジャケットを想起させるようなオリエンタル感を感じます。
前作の「魔力の刻印」でもラストの「審判の日」で長大作曲を披露しており、この辺から定番化するとともにどんどん尺も長くなっていった印象です。
どうしても好き嫌いの分かれる長大作曲ですが、私はIRON MAIDEN の長大作曲は好きです。
まとめ
前作「魔力の刻印」を初めて聴いた時にあれだけアレルギー反応が強かったブルース・ディッキンソンのヴォーカルも、本作「頭脳改革」では全くの違和感無し。
いや、違和感どころではなくその圧倒的、独創的なヴォーカルスタイルに魅了されてしまう自分がいました。
そして本作の楽曲群に覚えたあまりに硬質な感覚は、まさに「頭脳改革」によりその後無尽蔵にスケールアップしていくIRON MAIDEN の、当時のポテンシャルが凝縮された固い意志の顕われだったように思います。