MSG / ASSAULT ATTACK どんなアルバム?
グラハム・ボネット加入で生まれた奇跡のケミストリー
1982年リリースのマイケル・シェンカー・グループ(以下MSG)3枚目のアルバム「ASSAULT ATTACK(邦題:黙示録))」。
個人的にMSGは初期の4枚目のアルバムまでを四天王として崇拝していますが、中でも本作は他3枚とは決定的に異なる点(=ヴォーカル)において、最高傑作と位置付けています。
デビュー作はどちらかと言えばソロアルバム的な建付けであり、前作2ndアルバム「神話」でようやくバンドとしての体が構築されたMSG。
ドラムにコージー・パウエルが参加というシーンを揺るがす話題性と、完成度の高い泣きメロ楽曲により、「神」の「神たる所以」を世に知らしめました。
しかしながら人間の欲望は無限大であり、最強布陣と評された面子による名盤に対しても、やれ「ドラムの音が奥に引っ込んでいて本来のコージーらしくない」だの、「もっこりバーデンが開き直った裏声連発で無理がある」などと、難癖をつける輩がいたのも事実です。
(すいません、私でした…)
そして迎えた本作3枚目。
コージー・パウエルは運命の悪戯によりバンドを去ってしまったものの、ヴォーカルに白いスーツを着て虹から滑り降りてきたグラハム・ボネットが加入と言う、これまた前代未聞の事態が実現したのでした!。
運命の悪戯~他にも可能性があった奇跡のパターン
バブル経済の前後を逞しく生き抜いてきた昭和世代にとって、ハードロック・シーンにおける目まぐるしいメンバー交代の変遷は、まるで都市銀行や百貨店の吸収・合併の嵐を思い起こさせます。
第一勧銀+富士=みずほ、三井+太陽神戸=さくら(+住友=三井住友)などなど。
そもそもゲイリー・ムーア・バンドからMSGに流れてきたコージー・パウエルは、もっこりバーデンのあまりのクオリティに目が点状態に。
あちゃー、こりゃいかんと先ずはホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァーデルにMSG加入の声を掛けるも拒否られます。
ならばと、今度は旧知の仲だったグラハム・ボネットに白羽の矢を立て説得し見事に引き入れに成功。
やれやれと喜んだのも束の間、ホワイトスネイクからイアン・ペイスが脱退してゲイリー・ムーア・バンドに加入。
すると、それに困ったデヴィッド・カヴァーデルが今度はコージー・パウエルに逆に声を掛けて引き抜きされることに…。
いやいや、コージーさん、そこで行っちゃうんかい!て感じですが…。
結局、MSG再編を画策した言い出しっぺのコージー・パウエルが、本作のレコーディング前にバンドを去りいなくなるという、超局地的無法地帯での乱交状態と化したのでした。
まさにビリヤードの玉突き状態のように弾き弾かれの目まぐるしさですが、ほんの少しでもタイミングや条件がずれていたとしたら、それぞれのBIG BANDがまた違ったパターンでのメンバー構成になっていたかも知れませんね。
いずれにしても、神とグラハム・ボネットという当時のハードロック界におけるスーパースターの2人が奇跡のケミストリーにより本作という名盤を遺してくれたことに感謝しかありません。
ハード&POPのメリハリの効いた楽曲とひたすら熱いヴォーカル
プロデューサーはつい先日まで「魔力の刻印」をせっせと彫っていたマーティン・バーチ。
オープニング曲のようにMSGとしてはかなりハードに味付けされた楽曲があるかと思えば、極端にPOP&キャッチーな万人受け楽曲ありと、バラエティーさとメリハリに富んだアルバム構成となっています。
かつてグラハム・ボネットとリッチー・ブラックモアが紡いだハード&POPの方法論(Rainbowの「DOWN TO EARTH」)のような作品を、MSGもまた同様に創り上げたという感じでしょうか。
剛腕ねじ伏せ型、圧倒的な存在感があるヴォーカリストのグラハム・ボネットだけに、緩急を織り交ぜた構成にしないと聴いてる方も過呼吸でぶっ倒れちゃいますからね…。
神のギタープレイも脂の乗り切ったマグロの如く冴えわたっています。
殺気に満ちた血生臭ささえ感じさせる張りつめた緊張感をあおりながらも、切なく美しい大トロのような泣きフレーズを織り交ぜるマイケル節は、さすがの寿司ざんまいの社長もお手上げ状態です。
(ちょっと何言ってんだか良くわかりませんが…)
そして忘れてはいけない縁の下の力持ちであるリズム隊。
派手なシンバル引っ叩きのお祭りドラミングも良いですが、地味ながらタイト&パワフルなテッド・マッケンナと大股開きのクリス・グレンの2人のあんこ型力士、いやリズム現場監督プレイヤーによる腰の入った安定感は抜群です。
これぞまさしく「THE HARD ROCK!」
高評価を集めたジャケットデザイン
本作の評価は楽曲、構成のみならずジャケットデザインの格好良さにもかなりの定評がありました。
背後の大爆発(大噴火?)による逆光ポジションにより陰影状態となった神が、命同様のフライングVを片手で突き上げています。
このデザインが当時の世代のファンから高い評価を獲得した理由を考察しますと、恐らく少年時代に夢中となった仮面ライダー(特にV3)のオープニングで目に焼き付いてしまったシーンとのオーバーラップがあるものと推察されますね。
背後のド派手なダイナマイトの爆発をものともせず、サイクロンに跨り颯爽と爆走してくる赤い仮面のV3。
いやぁー格好良過ぎでした…。
ジャケットデザインだけの比較で言えば、ネックの先端からチョロチョロと炎を出してあんまり大きくないドラゴンと戦っている絵面ではまだまだ神の領域には遠いようです。
やはり「ファイトォーー-! 一発!」のリポビタンDレベルの気合いとド派手さが必要です。
バンドメンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: グラハム・ボネット
- ギター : マイケル・シェンカー
- ベース : クリス・グレン
- ドラムス : テッド・マッケンナ
- キーボード: トミー・エア
収録曲
- Assault Attack 4:16
- Rock You To The Ground 5:48
- Dancer 4:41
- Samurai 5:16
- Desert Song 5:51
- Broken Promises 6:21
- Searching For A Reason 3:46
- Ulcer 3:53
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Assault Attack
いつものように購入したLP盤を大事に抱えて急いで帰宅し、初めて針を落として聴いた時、一瞬「ん?、DIO?」とふと思ってしまったのを思い出します。
数秒後には安定のグラハム飛行に入ったのですが、結構グラハム本人も実はドラマティック感を出そうと意識してたんじゃないのぉ~?と突っ込みたくなってしまうほどに似て聴こえたのでした。
それにしても、凄いオープニングで当時のギター小僧にとっては強烈なカウンターパンチを喰らったような衝撃。
兎に角、破壊力、緊張感、殺気と凄みと言った形容表現しか浮かんでこない強烈なリフ。
自らの喉をこれでもかと痛めつけながらリミッターを外してパワーヴォーカリストぶりを発揮するグラハムの熱唱。
そして大御所2人のケミストリーを完遂させる触媒として地味ながら重要な役割を担っているのがテッド・マッケンナのドラミング。
こちらも何気ないですがエグいプレイしてますね。
何と言っても重量感が違います。
同じストレートでも野茂英雄のトルネード投法から放たれる激重ストレートのようでなおかつタイト。
結果論で言えばコージー去ってのマッケンナも正解だったのかなと思える貢献度です。
Rock You To The Ground
当時の小僧にとっては、正直良く解らなくて、退屈でしかなかった曲。
歳を重ねこの曲の魅力、渋さに目覚めたのは大分後になってからですね。
若い頃には見向きもしなかった冷や奴や煮魚が、歳をとると無性に食べたくなるように音楽に対する嗜好も変化していくものですね。
(一言で言えば「オヤジ化」ですが…)
ブルージーだろうが何だろうがお構いなしに、基本的にアクセルベタ踏み状態のグラハムの熱唱。
首から上の血管がパンパンに膨らんだ状態が容易に想像できる声の張り上げ方で、細い奴は確実に数本切れていると思われますね。
そしてそんなグラハムに影響されたか、神のギタープレイも熱く呼応。
独特のCry Babyトーンでこれでもかとタメながら唸りまくるバッキングと共に、後半のギターソロは泣きまた泣きの大名行列状態です。
Dancer
パワーヴォーカリストであるグラハムの熱唱が生み出すランナーズ・ハイ状態のような楽曲。
極限までの苦痛はその峠を越えた時に快感に変わるように、ハードな熱唱も極めればその先にPOP曲にも順応も可能だという逆説の極み?。
熱気を帯びた歌い回しには変わりないのに、あら不思議、意外に合うのよね~という不思議な食べ合わせのような状態とも言えますね。
熱さどころかむしろ爽やかなそよ風のように感じてしまう不思議な感覚です。
もっこりバーデンでは到底届かなくてズッコケ必至の高いサビのキーも、強引に引っ張り上げてしまう声帯ハラスメントがここでも横行しています。
そしてギターソロは神の十八番である太弦低フレットエリアを含めた上下動が病みつき級に心地よく、思わずよだれが出そうになっちゃいますね。
Samurai
侍(Samurai)、成田(Narita)、広島(Hiroshima)、忍者(Ninja)、戦術(Senjyutsu)。
成田、広島はともかく、西洋人は極東の島国に対して武士道や忍術と言った東洋の神秘的な誇大妄想を持ちがちですよね。
日本に興味を持ってくれること自体は滅茶苦茶嬉しいし有難いのですが…。
本曲最大のポイントは何と言っても印象的なイントロ。
この手のマイケル節に一体何度泣かされたことでしょうか。
グラハムの一人二役の神秘的な演出のハモリもなかなか美しく、楽曲の世界観を演出していますね。
そして「Samura~i!」。
日本人アーティストだったらチョッとこっ恥ずかしくて、ここまで吹っ切れた力強い歌い回しは出来なかったでしょう。
そこが潔くて滅茶苦茶格好良いです。
Desert Song
いよいよここで炸裂するのが本作のクライマックス楽曲。
信じがたいクオリティと渋さを持ち合わせたハードロック史上屈指の神曲と言って良いでしょう。
イントロからラストまで研ぎ澄まされた緊張感に終始包まれた異常な世界観。
文字通り「神」の境地です。
自身も頻繁に使用する「泣きメロ」なる便利な単語ですが、この曲のギターソロはまさに「THE NAKI MERO」。
(いやいや、ただローマ字にしただけだろ…。)
スタジオ版もさることながら、ライヴで本曲を耳にした時のギターソロには本当に涙が出てきた程に震えました。
本作の中で最もMSGっぽさが出ている楽曲ではないでしょうか。
Ulcer
素っ頓狂に明るくノリの良いギターインスト曲。
デビュー作の「Into the Arena」を陰とするならば、完全に対極の陽にポジショニングされるご機嫌さです。
次作で登場する「Captain Nemo」へのベンチマーク的な系譜も垣間見える力作ですね。
アルバムラストに持ってきただけあって、神も思う存分の弾きまくりを魅せています。
この曲調にして曲名が「Ulcer」=「潰瘍」。
全くもって意味不明です。
何を意味してのものかは「神」のみぞ知るところですね。
まとめ
デビュー作「帰ってきたフライング・アロウ」で文字通りシーンに再降臨した「神」。
その後の初期4枚目のアルバムまでをMSG傑作4選と考えますが、本作はその中でも最高傑作に位置付けられる名盤中の大名盤です。
ミイラとりがミイラとなってバンドを去ったコージー・パウエルと入れ違いで加入した沸騰ヴォーカリストのグラハム・ボネット。
マイケル・シェンカーとの奇跡的なケミストリーにより、他のもっこりアルバムとは明確に一線を引く作品と言えるでしょう。
一歩間違えれば全く噛み合わずチグハグな無反応に終わる危険性を孕んでいた、当時のハードロック・シーンを代表する大御所2人のパワーバランスを、プロデューサーのマーティン・バーチが敏腕ぶりを発揮して巧みに調合。
ジャケットデザインの格好良さも追い風に、ハード&POPのメリハリの効いた最高のアルバムとして遺してくれました。
これぞまさしく「THE HARD ROCK!」。