MSG / 神話 レビュー
待望の「バンド活動」となる最強の布陣
1981年にリリースされたマイケル・シェンカー・グループの2枚目のアルバムです。
(邦題:神話)
前年1980年にリリースされた1stアルバムのタイトルが「The Michael Schenker Group」。
そしてこの2ndアルバムは「M.S.G.」。
いずれもただのバンド名…、さすが神ならではの「何だって良いんだよ、細かいことは気にしないんだよ」というおおらかさですね。
見習いたいです…。
1stアルバムは特にリズム隊が「友情出演」的な感じで、極論してしまえばマイケル・シェンカーのソロアルバム、プロジェクト的な感じでした。
本アルバムは最強とも言える布陣でいよいよ神の「バンド活動」が本格的に開始されたと言っても良いでしょう。
何と言っても、ドラムに「シンバル引っぱたき」コージー・パウエルが参加。
アルバムの出来映えに与えた影響は後述させて頂くとして、何よりネーム・バリューによる話題性、インパクトは抜群でした。
ベースには「いつも大股開きしてますが何か」のクリス・グレン。
そして、キーボードには「マイケルの心の友」UFOのポール・レイモンドという盤石の態勢ですね。
バンドの結束力を表すかのように、モノクロのアルバムジャケットにメンバー5人が並んでいます。
完全にソーシャル・ディスタンスを無視した「密」状態であり、コロナ禍だったら物議をかもしそうです。
文句無しの楽曲 & 賛否分かれたサウンド
肝心のアルバムの中身、楽曲の方はマイケル・シェンカー・グループが現在までにこの世に輩出してきた数々の楽曲群の中でも高い優位性を誇る名曲揃いと言えると思います。
とにかく、楽曲が良い、良過ぎ、最高なのです。
あんまりこういう書き方すると「押し売り」みたいで嫌なのですが…。
総じて、適度にキャッチーかつメロディアス、哀愁の美旋律を奏でる楽曲も織り交ぜられアルバムとしての充実度、クオリティも完璧だと思います。
一方で、賛否両論が渦巻いたのがサウンド面。
本作のプロデューサーは、後に Survivor、Heart、Ozzyなども手掛けたロン・ネヴィソン。
後の仕事ぶりにも表れている通り、ロン・ネヴィソンは「売れる(=キャッチー?)楽曲」への
拘りが強く、サウンドはどちらかと言えば「シャカシャカ系」の軽めなテイストが持ち味の印象ですね。
これに異を唱えたコージー・パウエルが、制作時から折り合いが悪かったことをリリース後にぶちまけて、賛否両論の引き金にもなってしまいました。
個人的に結論から言ってしまえば、全体最適を求めた結果でありマイケル・シェンカー・グループというバンドである以上、このサウンドバランスはやむを得ないのかなと思います。
・ギターが突出してやたらに目立ち過ぎ。
・バスドラのタイト感があまり無く、湿った座布団叩いてるみたい(特に2バス部分は酷い)。
・スネアに本来の音抜けの良さ、迫力に欠け無味無臭(というか曲によってはこもってる)。
・いくら格好つけて横から引っぱたいてるとは言え、シンバル音だけが異様に目立ち過ぎ。
などなど、コージーの怒りも解るような気がしますし、ちょっと気の毒とも言えるレベルだと思いますが。
ロン・ネヴィソンにとってはドラミングだけでリスナーをグリップしてしまうコージーのようなパワフル&タイトなドラミングによる「集客」は不要だったようですね。
本作から3年後にリリースされるコージーが参加したWHITESNAKEのアルバム「Slide It In」を聴いてみると、コージーがやりたかった、出したかったサウンドというのが少しわかるような気がします。
また、個人的にはアルバムの収録曲順がちょっと残念な印象。
アルバムの顔であり第一印象を決定付けるオープニング曲が渋さ爆発の「Ready to Rock」という選択は果たしてBESTだったのか?。
本気で「売れる作品作り」に拘るのであれば思い切って「Looking for Love」辺りをぶちかましてからの「Ready to Rock」とかの手もあったような気がします…。
あと、当時のLPレコード時代においてはどうしてもA面至上主義、各面の前半逃げ切り型が主流だったように思いますが、果たして「But I Want More」や「Never Trust a Stranger」の配置はそこで良かったのか?という思いも持ってたりしています。
まあ、その辺りは常人には計り知れない「神のみぞ知る」崇高な意図もおありなのだとは思いますが…。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル:Gary Barden
- ギター :Michael Schenker
- ベース :Chris Glen
- ドラムス :Cozy Powell
- キーボード:Paul Raymond
収録曲
- Ready To Rock
- Attack Of The Mad Axeman
- On And On
- Let Sleeping Dogs Lie
- But I Want More
- Never Trust A Stranger
- Looking For Love
- Secondary Motion
おすすめ楽曲
Ready to Rock
もしも、マイケル・シェンカー・グループの曲であるという事を知らされない目隠し状態でこの曲を聴いた時、果たして自分はこれほどまでにこの曲を好きになったであろうか?。
という禅問答のような暇な思考をいつも繰り返してしまう楽曲。
もちろん、マイケル・シェンカーを崇拝したギター小僧でしたので必死にコピーしてライブでもやらしてもらった曲ですが、いまだに上記の自問を繰り返してしまう程に「地味」で「渋い」オープニング曲ですよね。
間奏における神のギターソロも少し淡泊で拍子抜けの印象。
しつこく書きますが、個人的にはこの曲をアルバムの顔としてオープニング曲にしたことが、アルバム全体評価の賛否両論を呼び起こす要因の一つとなっているように思えてなりません。
Attack of the Mad Axeman
哀愁のイントロメロディから一転してコミカルなリズムとリフが展開される意外性に満ちた楽曲。
ギターソロの前にはこれまた意表を突く変調展開で、ゲイリー・バーデン渾身の裏声が炸裂!。
これはサプライズでしかなく、「いや~、攻めてるな~、ゲイリー」というのが本音。
楽曲としては最高の展開とメロディセンスだけど、いやいやゲイリーさん、それはちょっと無理があるでしょ的な異次元の音域での戦いを無謀にも挑んでおり、ライブではものの見事に玉砕しています…。
そしてクライ・ベイビーならではのハウリング気味の音を唸らせながらの荒々しいカッティングで、本曲2回目のサプライズであるギターソロに突入!。
ライブでは更にスピード感が増して演奏される圧巻の格好良さと、これぞマイケル節!という美しいフレーズがそのままエンディングまで続くという、まさに神によるフレーズ大盤振る舞い。
ありがたやー、ありがたやーと酔いしれます。
On and On
ここでようやく存在感を表してくるポール・レイモンドのキーボード。
哀愁をさそうメロディアスなイントロを経てシンプルで重心の低いリフへと展開するドラマティックな楽曲。
「Looking For Love」と共に本アルバム屈指の名曲と言えるでしょう。
本アルバムでゲイリー・バーデンが自らに課したミッションは「あくなき高音域への挑戦」であったと思われ、この曲においても無謀とも思えるその挑戦は続いています。
最も重要なサビメロにおけるその捨て身の挑戦姿勢には、本当に頭が下がります。
(実は単なるドMで自らを苦境に追い込んで快感を感じていたのでしょうか…)
きっと、他のバンドメンバー達も並々ならぬゲイリーの気迫に押され、「ライブで歌えなくなるからやめときなはれ!」とは誰も言えなかったのでしょう。
この曲などはコージーのバスドラが「正常に」効いていればもう少しメリハリというか、推進力が出せたように思えてしまいますが、何だかもっさりとした印象を感じてしまうのが残念、勿体無いです。
また、神の間奏ソロも「ペンタトニックの手癖でしょ、それ」的な淡泊な運指でちょっと残念。
傾向として神は間奏ソロは結構適当な時が多く、エンディングでのソロの方が美メロが出てくる確率が高いような気がします。
Looking for Love
本アルバムのベストチューンと言ってしまいましょう。
歌メロ、ギターソロともにハードロック界に永遠に継承していって欲しい名曲です。
しつこいようですが、キャッチーで万人うけしそうな本曲でアルバムのオープニングを飾って欲しかったです、残念。
小難しいテクニックや、無駄な速弾きに走らなくても、これだけ人を惹きつける魅力のあるギターフレーズが弾けるということを、神が解りやすくギター小僧に教えてくれた一曲でもあります。
エンディングに向けてのギターソロなどは「このままずっと永遠に聴いていたい」という感覚に陥りますね。
それにしても気合の2バスを繰り出すも、シンバル以外は完全にスミに追いやられてしまったコージー・パウエルのドラミング。
本当にお気の毒様でした…。
まとめ
1980年リリースのマイケル・シェンカー・グループのデビューアルバムで受けた印象は「70年代との決別~80年代ハードロックを象徴するサウンドと楽曲」でした。
1年後の本作2ndアルバムでもその基本路線は踏襲されており、特に楽曲のメロディラインと展開構成は劇的にブラッシュアップしているのではと感じます。
ゲイリー・バーデンの「コーナーポストから場外へのドロップキック」のような捨て身の空中殺法「高音域への挑戦」により、メロディラインと曲展開の幅が広がったことが大きな要因と言えるでしょう。
一方で、辛酸なめ太郎となってしまったのがコージー・パウエル。
70年代のレインボーを支えてきた自負もあるのでしょうが、歳を経る毎にシンバルの引っぱたきに象徴される「叩きすぎ」と感じてしまう兆候が感じられたのも率直な印象です。
レギュラーグリップの頃のような抑揚で聴かせるドラミングから、いつの間にやらオラオラ系のパワードラマーになってっしまった感じでしょうか。
(でも、記事中でも書きましたが後のWHITESNAKEのアルバムで本来の素晴らしいドラミングが堪能できたのでよかったです。)
そして、マイケル・シェンカーのギターは、欲を言えばキリが無いのですが多少淡泊なソロプレイがあるものの、随所(特に楽曲終盤)にシェンカー節を堪能できる信者にはとてもありがたき作品です。
難しいことなんて全然していないのに、これだけエモーショナルで心震わせるようなフレーズが表現できるギターという楽器のポテンシャルを十分に教えてくれていますね。
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