Iron Maiden / Killers どんなアルバム?
新メンバーにエイドリアン・スミスが加入
「NWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリテッシュ・ヘヴィ・メタル)」
1970年代終わりにイギリスで突如として勃発したヘヴィメタル・ムーブメントは、瞬く間に世界を席捲し数々のバンドがその流れに乗ってシーンで産声を上げました。
中でもIRON MAIDENは間違いなくムーブメントの代表的存在、そしてその後の牽引役として常にヘヴィメタルシーンを担い続けてきたバンドです。
今やヘヴィメタルの象徴とも言える世界的知名度を誇る偉大なバンド。
1981年リリースのIRON MAIDEN2作目のアルバム「KILLERS」。
プロデューサーはDEEP PURPLE、RAINBOW、WHITESNAKEらのパープルファミリーを手掛けたマーティン・バーチが担当しています。
このアルバムの大きなトピックとして挙げられるのは、ツインリードのギタリストの一人だったデニス・ストラットンが脱退し、新たにエイドリアン・スミスが加入したことですね。
脱退後にプレイング マンティスに加入することになるデニス・ストラットンにとっては、2つのバンドの音楽性の違いから想像するに、アイアンメイデンの当時の楽曲は攻撃的、ハード過ぎる一面があったのではと推察できます。
新たに加入したエイドリアン・スミスは1990年に脱退するまでの期間、文字通りバンドの絶頂期の「顔」としてツインリードギターの一翼を担うことになります。
若干話はそれますが、ジャパニーズ・ヘヴィメタル勢のアースシェイカーの1983年リリースのデビューアルバムの収録曲「Dark Angel」を提供してくれたのもエイドリアン・スミスでした。
エイドリアン・スミスは元来、ソロ志向、曲作りへの意識が高かったのでしょうか。
アイアンメイデン脱退後は自身のソロプロジェクト「A.S.a.P」での活動で、シーンにそれなりの話題を提供してくれました。
結局、1999年にアイアンメイデンに復帰し、バンドは現在のトリプルギター体制となっています。
ポール・ディアノの熱いヴォーカル聴き納めとなる作品
デビューアルバムに比べて確実に音質は磨き上げられつつも、アイアン メイデンらしさ、バンドの真骨頂である荒削りなライブ感もしっかりと残した絶妙のサウンドメイクとなっている本作。
最大のトピックは何と言っても、ポール・ディアノがヴォーカルを務める最後のアルバムとなってしまったことでしょう。
デビューアルバムでの意図的にパンクとの融合を表現したかのような、荒々しい、アグレッシブなヴォーカルスタイルは、本作でもより円熟味を増して展開されています。
小中規模のライブハウスで泥臭いライブを演じる光景がこの上なく似合うヴォーカルとでも言いましょうか。
しかしながら、そんなポール・ディアノのヴォーカルスタイルに鋭く「限界」を感じ取ったのがスティーブ・ハリス。
バンドの音楽的にもビジネス的にも、常人にはとても思考の届かない世界観を当時から持っていたと思われるスティーブ・ハリスは、ポール・ディアノの「限界」=アイアンメイデンの「限界」となることを一早く見抜いたのかも知れません。
まさかのポール・ディアノ解雇という無情の大ナタを振り下ろすことになります。
あくまで結果論ですが、確かに数万人を収容した屋外フェスのステージで「Aces High」を熱唱するようなスケール感を、ポール・ディアノには見いだせないのは事実です…。
しかしながら、そんな天才の世界観など微塵も知る余地もなく、当時の平凡な一ファンとしてはポール・ディアノが脱退なんて…。
何と残念なことになってしまったんだと嘆くばかりでした。
と言うわけで、本作はアイアンメイデンの初代ヴォーカリストにして、未だに最高勲章の称号を与える根強いファンも多いポール・ディアノが残した最後のアルバムとなりました。
歴代の中でも評価の高いアルバムジャケットデザイン
本作のジャケットデザインには、今やアイアン メイデンの代名詞ともなっている「エディ」が再び登場。
エディの産みの親であるデザイナーのデレク・リッグスによる渾身の作品が描かれています。
その後も続いていく数々のエディ作品の中でも、この2ndアルバムのデザインは特に評価が高く大人気。
今ではこのデザインのオフィシャルTシャツにはかなりの希少価値がついているとも言われています。
持っている方は是非大切に…。
エディの近影も物凄い迫力ですね!
【IRON MAIDEN】アルバム一覧(ディスコグラフィ)はこちらから
バンドメンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ポール・ディアノ
- ギター : デイヴ・マーレイ
- ギター : エイドリアン・スミス
- ベース : スティーヴ・ハリス
- ドラムス : クライヴ・バー
【収録曲】
- The Ides Of March – 1:46
- Wrathchild – 2:54
- Murders In The Rue Morgue – 4:18
- Another Life – 3:22
- Genghis Khan – 3:06
- Innocent Exile – 3:53
- Killers – 5:01
- Prodigal Son – 6:11
- Purgatory – 3:20
- Drifter – 4:48
- Twilight Zone – 2:34
おすすめ楽曲レビュー
The Ides Of March
オープニング曲の邦題は「3月15日」。
紀元前44年の3月15日は、古代ローマの天才軍事家、政治家であるジュリアス・シーザーが暗殺されたとされる歴史的な日。
ローマ暦の3、5、7、10月の15日のことをラテン語でidusと言うことから、歴史好きのスティーブ ハリスならではの世界観から付けられたと思われる曲名ですね。
この意味を知ると、ドラムが刻む軍隊の行進を思わせるようなリズムや、勇壮ながらも英雄を失った悲しみと慟哭の叫びを表現しているかのようなギターソロが、より深く心中に刻み込まれてきます。
因みに、本曲を含めた胸熱の1980年代「インスト曲」をピックアップした特集記事をご参考までに。

Wrathchild
間髪入れずにベースのイントロで始まる2曲目。
ポール ディアノの吐き捨てるようなラフでアグレッシブなヴォーカルスタイルが、本作でも引き続き健在であることを知らしめてくれます。
スピードに頼らずとも、これほどまでに張りつめたような緊張感とグルーブしながらの攻撃性を表現できるのがアイアン メイデンの凄さですね。
クライブ・バーのドラムとスティーブ ・ハリスのベースが怒涛の荒波のように畳みかけてきます。
Murders In The Rue Morgue
続く3曲目はドラマティックな曲展開と疾走感あふれるアイアン メイデンならではの楽曲。
スローなイントロから一転するドラムロールからの曲展開は圧巻の一語に尽きます。
その後も音数の多い忙しいドラミングはもはやクライブ・バーの十八番ですね。
テクニックに走らずに何よりもメロディ重視のギターソロも楽曲のスムーズな展開にマッチして、4分18秒という比較的長い演奏時間を全く感じさせることなく一気呵成に聴かせてくれます。
Killers
アルバムを代表するタイトル曲はLPレコード盤のB面1曲目に収録。
暗闇に潜む不気味な殺し屋を思わせるベースのイントロを聴くだけで、脳が勝手に条件反射して楽曲に対する期待感が一気に増幅してきます。
そしてそれを見透かしているかのように、同じリフやフレーズを敢えて何度も繰り返すのがアイアン メイデンの楽曲作りの特徴の一つ。
名付けて「おあずけワンちゃん状態、焦らし戦法」。
わかっちゃいるけど欲しがっちゃうという、リスナーを手玉に取る風格と様式美を感じさせる王者の戦法ですね。
そしてお約束の展開で一気呵成にスピーディに畳みかけてくる攻撃性に、完全にリスナーのテンションはMAXに到達。
ライブ会場でのヘッドバンキングの嵐となる光景が目に浮かんできます。
後年続々と出てくる「ただ速いだけ」でフックの欠片も無い残念なスピードメタル?のバンド連中には、爪の垢でも煎じて飲ませてあげたくなるような「楽曲としての完成度」を誇る名曲です。
この曲はやはりポール・ディアノにこそ相応しい、彼にとっても生涯一の楽曲と言えるのではないでしょうか。
Purgatory
デビューアルバムのオープニング曲にしてシングルカットされた「prowler」をほうふつとさせるアイアン メイデン初期のエッセンスに満ち溢れたスピードチューンですね。
印象的かつキャッチーなメロディのギターが終始鼻息荒く曲を引っ張りまくり、その土台を相変わらずの音数とグルーブ感で休むことなく支え続ける「忙し過ぎるリズム隊」。
とにかく「忙しい」という表現がぴったりの楽曲です。
各プレイヤーのやることが多い、まるで都心の駅前にあるマクドナルドの厨房の中のような曲です。
(いやいや、バイトもしたことないしイメージだけで勝手に言ってます…。)
後に世界的知名度を得ることになるアイアンメイデンですが、バンドの存在感が大きくなるにつれて当然その楽曲もどんどんスケールアップし大仰で長尺な楽曲が多くなっていきました。
ですが、本曲はその真逆に位置する、オーディエンスの手が届きそうな、飛び散る汗が降りかかってきそうな、小さなライブハウスが似合いそうな楽曲。
親近感とワイルドさが何よりも魅力的な名曲です。
まとめ
デビュー作でシーンに衝撃を与えたアイアンメイデンの魅力は、ワイルドな攻撃性と「オペラの怪人」に代表される曲展開、ドラマティック性を兼ね備えた完成度の高さでした。
その後もKISSのオープニングアクト等を務めてライブでの実績を重ね、卓越したテクニックで当時のヘヴィメタルムーブメントの中で存在感を確固たるものとしていきます。
本作2ndアルバムでも、オリジナルメンバーのポール・ディアノのヴォーカルは鋭利な刃物のように冴えわたり、よりアグレッシブなスタイルが確立された感があります。
本作までの初期の2枚のアルバムは、言い換えれば「バンドが世界的メジャーになる前だからこそ表現できたワイルドな音質、音楽性」であり、今となっては大変貴重な作品と言えると思います。
リリース後40年以上という長い年月を経た今でなお、その切れ味は衰えることなくヘヴィメタルファンの魂を鋭くえぐってくるような迫力で溢れています。
