IRON MAIDEN / 第七の予言 レビュー
アルバムジャケット・デザインに少々クールダウン
1988年リリースの IRON MAIDEN 7枚目のアルバム「SEVENTH SON OF A SEVENTH SON(邦題:第七の予言)」。
丁度このあたり、タイミング的にはLPレコードからCDへの移行期。
私が購入してきたIRON MAIDEN 作品の中で「LPレコード盤で購入した最後のアルバム」でした。
前作6枚目アルバム「SOMEWHERE IN TIME」での、躍動感ある近未来型エディのデザインが個人的ツボにはまりえらく気に入っていましたので、正直本作のジャケットを初めて見た際にはテンションがかなりクールダウンしてしまいました。
作品内容が「プログレッシブ感が多分に盛り込まれた」「コンセプチュアルなアルバム」等と評されるだけに、ジャケットデザインもそれっぽい雰囲気を出したかったのでしょうが…。
「似つかわしくない爽やかなライトブルー基調」
「少々幼稚に感じてしまう自身の臓器を手に持つ上半身だけとなったエディという安直な構図」
「やっつけ感さえ出ている細部の描写の粗さ」
個人的には過去の作品が素晴らしかっただけに納得がいかない出来映えでした…。
最高傑作と評するファンも多い絶頂期の超名盤
見た目はさておき肝心の中身はと言いますと、これはもう凄いのなんのって…。
デビュー以来、常に進化を遂げながら名盤を輩出し続けてきたIRON MAIDENの作品の中でも、本作を「最高傑作」と評する声を良く耳にする程に、完成度の高い楽曲がズラリと揃えられたバンド絶頂期の超名盤です。
コンセプチュアルな作品ということで思わず身構えて聴いてしまいそうですが、実際には歌詞を深読みでもしない限り通常通りにIRON MAIDENの魅力を堪能できる作品であり、本来持ち合わせていたドラマティック性がより増幅された副次的な効果も感じますね。
また、前作で物議を醸したのがシンセギター導入の試みでしたが、本作では当たり前のように積極採用されながら楽曲展開が極限まで練り込まれていて、プログレッシブ感の演出に一役買っています。
初期のやさぐれ感さえあった攻撃性を愛し続けた古参ファンにとっては、前作同様にどうにも受け入れ難い音像だったでしょうが、私個人的には尻尾フリフリのwellcome状態。
大仰な世界観と複雑な楽曲展開、ツインギターによるリフワークとメロディアスなソロフレーズなど、IRON MAIDENの魅力とセンスが凝縮された作品ですね。
前作と本作の2枚は歴代アルバムでも必ずや上位にランクインしてくるお気に入り作品です。
当然のことながらマーケットでの反応もすこぶる好調で、本作は3枚目の「The Number of the Beast(邦題:魔力の刻印)」以来となる全英アルバムチャート1位に輝いたのでした。
そして、充実の楽曲群からは立て続けにシングルカットされ、これまたいずれも全英チャートの上位に食い込んでいく勢いがありました。
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ブルース・ディッキンソン
- ギター : デイヴ・マーレイ
- ギター : エイドリアン・スミス
- ベース : スティーヴ・ハリス
- ドラムス : ニコ・マクブレイン
【収録曲】
- Moonchild -5:40
- Infinite Dreams-6:09
- Can I Play with Madness -3:31
- The Evil That Men Do -4:34
- Seventh Son of a Seventh Son -9:53
- The Prophecy -5:05
- The Clairvoyant -4:27
- Only the Good Die Young -4:41
おすすめ楽曲
Moonchild
まるで劇場の開演のようなブルースの静かなヴォーカルで始まるオープニング。
これから始まる壮大な物語の語り部の如くミステリアスな雰囲気十分な中で、のっけからシンセをかましてきましたねぇ~。
嫌がおうにも一気に期待は高まり引き込まれていく没入感が凄いです。
そして土砂崩れのように疾走MAIDEN節へと一気に雪崩れ込む展開でサビまで突っ走ります。
前作のオープニングも凄かったですが本作も甲乙つけがたい完璧な構成。
イントロの語りはラストの終演でも再び登場するという、アルバム全体が一大物語となっているコンセプト作であることを考えると、むしろ本作の方が質的に上回っているかも知れません。
ブルースの歌唱も作風を反映して「歌う」というよりも「もはや語り部」と化している感じもします。
Infinite Dreams
オープニングで一気にスピードで持っていかれた後の続く2曲目には、叙情的な哀愁を帯びたツインギターのイントロと悶絶ベースラインで聴かせる渋い楽曲が続きます。
そしてサビでは意表を突く転調が施され、氷山をゆっくりと粛々と昇っていくかのような盛り上がり。
その後も立て続けに複雑な楽曲展開を繰り返していくドラマティックなプログレッシブ感。
まさにこれぞIRON MAIDENの最大の魅力であり、聴きながらにして自身が物語に包含されていく感覚が味わえる楽曲ですね。
The Evil That Men Do
苦節40年以上HR/HMを聴き続けてきた中で、多くの「鳥肌楽曲」に出会ってきましたが本曲も間違いなくその中の一曲にカウントされる楽曲です。
このイントロにはいつ聴いても背筋がブルっとなり、そのままサビ、ギターソロに聴き進んでいくうちに今度はアドレナリンが沸騰して身体が熱く燃えてくるような感覚に襲われてしまいます。
アルバムの中盤に炸裂する間違いなく本作のクライマックス楽曲ですね。
さすがはIRON MAIDENの楽曲作りの心臓部である3人(スティーブ、ブルース、エイドリアン)の共作。
蟻の子一匹通さない緻密に練られた隙の無さを誇る反面、様式美に則ったダイナミックな楽曲構築美、ヘヴィメタルならではのパワフルな疾走感も併せ持った文句無しの完璧な超名曲と言えるでしょう。
HR/HMを聴いてきて良かったと心の底から想える瞬間って、こういう曲に出会えた時ですよねぇ~。
PVもかっちょ良過ぎて涙が止まらなくなります。
Seventh Son of a Seventh Son
歴史的超名曲の後の第2幕への場面展開の如く、アルバムは後半戦へと突入。
10分弱の長編大作タイトル楽曲が何とも勇壮で悲哀に満ちていますね。
長尺曲のだるさなど微塵も感じさせずに、十八番とも言える曲中での大きな場面展開で物語は進行していきます。
やや安直にも聴こえるひたすら繰り返されるサビと雄叫びを何とか耐え凌ぎ、その後に待ち受けている曲中での大きな場面展開を渇望するように身体が条件反射。
幻想的な空気感を彷徨いながら辿り着くのが、かなり気合の入ったスリリングなギターソロ。
スティーヴとニコのリズム隊もここぞとばかりに全力疾走しながらラストスパートへと突っ走ります。
怒涛のインスト構成力をこれ見よがしに魅せつけながら、エンディングも内村航平の鉄棒の着地のようにビシッとキメてくるところはさすがですね。
Only the Good Die Young
いよいよアルバムラストを飾る楽曲で再びクライマックスを迎えます。
定石で考えればオープニング、2曲目辺りでも全然おかしくない曲調のこの曲を、ラストに配置するところにこのアルバムの凄さ、コンセプチュアル作品の恐ろしさを感じますねぇ~。
一大物語を締め括るのは本作の中でも最もIRON MAIDEN 臭のつよい疾走チューンでした。
まるで長い旅路の果てにようやく辿り着いた新世界が目前に広がるかのように、爽快に視界が大きく開けます。
仮に他のバンドが同じイントロで曲を作ったら、間違いなく「クサメロ」とかコキ下ろされるでしょうが、IRON MAIDEN がツインギターでやるとカッチョ良く聴こえ感動すら覚えてしまうのは不思議です。
その辺り、中盤に炸裂するスティーヴ・ハリスのベースソロなども、単なるクサメロ楽曲とは明らかに格が違うことをリスナーに意識づける大きな要素となっていますね。
そして最後にはオープニング導入部のテーマがリフレインされ、リスナーはもはや言語化不能な高揚感、満足感、充実感に浸るのでした。
聴き終えた後には、思わず脳裏に淀川長治さんが登場。
「IRON MAIDENってほんとに良いですねぇ。」
「それではまた、お会いしましょ。」
「さよなら、さよなら、さよなら…。」
↓↓↓ IRON MAIDENのアルバムをまとめたディスコグラフィはこちらの記事からどうぞ ↓↓↓
まとめ
前作で近未来的な世界観と共にサウンド・プロダクション的にもシンセギターを導入するなどして「進化」を遂げたIRON MAIDEN。
続く本作でもその「進化」のベクトルは方向感を変えることなくより一層強固なものとなって、コンセプチュアル作品としてさらに「真価」を確実なものとしました。
じっくりと腰を据えて全編通して聴き込むも良し、お気に入りの楽曲をかいつまんでヘビロテするも良し。
コンセプチュアル作品とは言いつつも、いたずらに小難しいコネクリ作品とは違いどこからでもIRON MAIDENらしさが楽しめる金太郎あめアルバムであることには変わりありません。
個人的にIRON MAIDENの本作迄の7枚のアルバムは、凄過ぎてどれが一番とか絶対に言えない優柔不断なチキン野郎ですが、上位であることは間違いなく、最高傑作とするファンの方々が多い超名盤ですね。