PRAYING MANTIS / TIME TELLS NO LIES レビュー
聴きたくても聴けなかった当時の「幻の名盤」
1981年リリースの PRAYING MANTIS デビューアルバム「TIME TELLS NO LIES(邦題:戦慄のマンティス)」。
NWOBHMムーブメントの中でIRON MAIDENと並走して語られることの多かった PRAYING MANTIS でしたが、当時小僧の私にとっては完全に未知数のバンド。
なにしろ雑誌に掲載されている輸入盤専門店の広告でも、カマキリデザインがやたらに目立つ本作にはいつも「入手困難盤」の表示がついていて、新宿を歩き回っても値段が高すぎて手が出ません…。
長い間、本作は「聴くもの」じゃなくて「ロドニー・マシューズの絵を観て楽しむもの」でした。
裏ジャケットも見ごたえがありましたね~。
そのため、私の PRAYING MANTIS デビューは10年後の1991年の2枚目アルバム「PREDATOR IN DISGUISE」からとなりますが、このアルバムが自身の音楽的嗜好とものの見事にマッチしてどハマり!。
この頃にはさすがに本作も普通に輸入盤CDが出回っていましたので、速攻で買いましたねぇ~「幻の名盤」を。
(いやぁ~、サブスクとかあってホントに今の人達は恵まれてますよ…)
軟弱メロディアスハードロック愛好会会長としてのバイブル的名盤
IRON MAIDEN や MOTORHEAD、TANK など、どちらかと言えばパンキッシュなテイストを持ったバンドが比較的目立っていた当時のNWOBHMムーブメント。
その対極に位置するかのような PRAYING MANTIS や DEF LEPPARD などのメロディアス系のバンドの作品に触れる機会はホントに限られていたように思います。
しかしながら、幼少期から培われてきた音楽的嗜好は身体に沁みついているもので、本作を始めて聴いた時の不思議な感覚は忘れられないものがあります。
そりゃあ確かに当時既に10年前のリリース作品ですので音のチープさなどは否めませんでしたが…。
どちらかと言えば攻撃性や疾走感がもてはやされていたその当時に、涼しい顔してこれほどまでに美しいメロディ、ドラマティックなハードロックを甘いコーラスとツインギターで奏でていたバンドが存在していたとは…。
正直ちょっとショックというか、メタル=激しくなくてはいけないという呪縛を自分自身が知らぬ間に作ってしまっていたのかなと気づかされた瞬間でした。
勿論、拳を振り上げながら思い切りヘッドバッキングする楽曲も好きですが、同じくらいに心の底から心酔できる流麗なメロディアスサウンドも大好きなのです。
契約とマネジメントに泣いた不遇のバンド
NWOBHMムーブメント勃興期から IRON MAIDEN と共に注目を集めていた PRAYING MANTIS でしたが、経営状態の良くないレーベルとの契約でマネジメントに恵まれず、なかなか活動の幅が広がっていかなかったようです。
そうした中で、本国の英国よりも日本での人気の方が盛り上がっていったようにも思える程に、限られた情報しか得られない中でその存在は自分の中でも神格化していきました。
しかしながら今になって改めて冷静に振り返ると、仮に本作がリリースされたタイミングでリアルタイムでその音源を耳にしていたとしたら、果たしてこの甘美な世界観を素直に受け入れることができたのかという疑問も湧いてきますね。
前述の通りシーンの潮流が「攻撃性とスピード=ヘヴィメタル」と傾倒していた真っ只中で、周囲の連中の声等に押し流されずにここまでソフトな音像の本作を正当に評価できていたかどうか…。
リリースされてから10年後というタイミングでようやく本作に出会えた(聴いた)ことに、運命的な縁を感じますし「災い転じて福となす」って感じです。
そして迎えることになる1993年リリースの PRAYING MANTIS 3枚目アルバムにして最高傑作「A CRY FOR THE NEW WORLD」。
大袈裟でも何でもなく、HR/HMを好きで良かったと心の底から思った自身のメロディアスハードロック視聴歴史上でも屈指の名盤と出会うのでした。
メンバー・収録曲
メンバー
- ヴォーカル: スティーヴ・キャロル
- ギター : ティノ・トロイ
- ベース : クリス・トロイ
- ドラムス : デイヴ・ポッツ
収録曲
- Cheated -3:52
- All Day and All of the Night -2:58
- Running for Tomorrow -3:40
- Rich City Kids -3:47
- Lovers to the Grave -4:52
- Panic In the Streets -3:42
- Beads of Ebony -5:34
- Beads of Ebony -5:04
- Children of the Earth -5:43
おすすめ楽曲
Cheated
ドクロやカマキリ獣といったおどろおどろしいイメージのジャケット、戦慄のマンティスと名付けられた邦題とは裏腹に、オープニングからかまされる甘美なプレマン節。
唐突に繰り出される華麗なツインギター、サビで被せられる美しく分厚いコーラス・ハーモニー、泣きメロを随所にかませたドラマティックで叙情的な名曲です。
こ、これがずっと追い求めていた IRON MAIDEN と両雄と評された PRAYING MANTIS の音像なのか…。
はっきり言って、あまりの流れるようなメロディアスさとソフトで爽やかなサウンド、美しささえも感じるコーラス・ハーモニーに戸惑ってしまったのは隠しようの無い事実です。
既に2ndアルバムを体感してそれなりのイメージを持って臨んだものの、そのメロディの素敵さ加減は想像を遥かに上回る滑らかさでした。
2ndでソフト化したのではなく、始めっからこうだったのねプレマン。
これはどう考えても「戦慄のマンティス」ではなく「旋律のマンティス」ですね。
Running for Tomorow
人によってはヘタウマとか酷評しているスティーヴ・キャロルのヴォーカルですが、個人的には結構好きな声質で哀愁も表現できてシャウトも格好良くキメてるイメージです。
一度聴いたら耳にこびりつくように残るリフメロは、日本人との親和性も高そうで印象的。
恐らく弾いてる本人も、聴いてるリスナーもお互い幸福感を感じられるようなギターソロのメロディが素晴らしいですね。
Lovers to the Grave
レコード時代のA面最終曲であり、アルバム前半のハイライト楽曲。
ブリティッシュ・ハードロックの様式美的な世界観をこれでもかと教科書通りに見せつけた楽曲展開に痺れますねぇ~。
クリス・トロイが切ないヴォーカルを聴かせてくれています。
ギターソロ突入後のテンポアップから怒涛の3連符ソロは、わかっちゃいるけどやめられない止まらないのかっぱえびせん状態です。
Panic in the Streets
仕切り直しのB面オープニング楽曲は適材適所に配置された疾走チューン。
バックのギターのカッティングリズムとドラミングが絶妙で、実際の速度以上に体感速度を上げています。
良い意味で力の抜けたようなティノ・トロイの激渋ヴォーカルが曲調にマッチしていていい味がでていますね。
Beads of Ebony
IRON MAIDEN とは違った切り口でドラマティックな楽曲展開の妙技を魅せてくれるのが PRAYING MANTIS の魅力だと思いますが、そのセンスが解りやすく顕在化しているのがこの曲ではと思います。
甘美なサビメロに更に輪をかけてトロトロ状態にコーティングされるコーラスとギターフレーズ。
まさにプレマン節を象徴するかのような一曲ですね。
Flirting with Suicide
もう忘れてしまいましたが、昔 JAPANESE HEAVY METAL BAND がこのイントロパクっていましたね。
これまたティノ・トロイの力みそうで力まない不完全燃焼ヴォーカルが楽曲を強烈に印象付けています。
Children of the Earth
アルバムのラストを飾るまさに一撃必殺の切れ味を誇る最高楽曲。
イントロのリフメロをやり過ごした後に、鋭利な刃物のように切れ込んでくる渾身のギターソロ。
やや短めながらもそのピッキングのタッチは弦が切れんばかりのかなりの強さ。
難しいことコネクリ回さずともシンプルに思いっきり弾けば伝わる、ロックギターの本来あるべき姿を教えてくれているかのようで大好きなソロです。
そして怒涛のように押し寄せる泣きメロの洪水と劇的に情景が変わっていく楽曲展開。
PRAYING MANTIS の魅力の全てが濃縮された、自身の中ではNWOBHMのみならずHR/HM史上でもかなり上位に位置付けられる超名曲です。
まとめ
1981年リリースの PRAIYING MANTIS デビューアルバム「TIME TELLS NO LIES(邦題:戦慄のマンティス)」。
リアルタイムでそのリリースを知りながらも、聴きたくてもなかなか聴けなかった幻の名盤です。
ジャケットをデザインしたロドニー・マシューズや、邦題「戦慄のマンティス」を名付けたレコード会社の方などは、本作の楽曲を本当に聴いていたのでしょうか…。
そう思ってしまう程に、当時のNWOBHMムーブメントの一般的なバンドとは明確に差別化された孤高のメロディアス性を保持しバンドとしての、バンドとしての音楽性を貫いたHR/HM史上でも屈指の名盤です。