Y&T / Black Tiger レビュー
Y&Tに改名後の初期名盤3作品の2作目
本作「Black Tiger」は Y&Tに改名後の初期の名盤3作品の2作目にあたる1982年リリースのアルバムです。
(Yesterday & Today時代から数えると通算4枚目のアルバムになります)
Yesterday & TodayからY&Tへ改名し、1981年にリリースされた前作「EARTHSHAKER」。
個人的にはあまりの衝撃に秒殺されましたが、今想えば当時のハードロックシーンの最先端を行くような革新的な作品でした。
(前作のレビュー記事はこちらからどうぞ)
そして、矢継ぎ早にリリースされた続く本作も、前作の基本路線は踏襲しつつ、より「まろやかな旨味」と言いますか「更に品位を高めた」印象です。
マックス・ノーマンのプロデュースによる計算高くも洗練された演出で、バラエティに富む楽曲がうまいこと織り交ぜられながらより熟成度を高めた作品に仕上がっているように思います。
ブラック・タイガーと言えば…
ここで少し話はそれますが、ブラック・タイガーと言えば、プロレス好きの方にとって思い起こされるのは、奇しくも全く同じタイミングでデビューを飾ったタイガーマスクの好敵手「ブラック・タイガー」。
タイガーマスクと同様に初代~7代目くらいまで引き継がれて数々の名勝負を重ねてきたブラック・タイガー。
そのデビュー戦も、本作のリリースのタイミングと同じ1982年4月の新日本プロレス蔵前国技館大会でした。
初代ブラック・タイガーの正体はイギリス出身の「マーク・ロコ」。
初代タイガーマスクの佐山聡が「サミー・リー」としてイギリスで武者修行中だった頃から既に現地で戦いを繰り広げていました。
そして、佐山聡が凱旋帰国して日本でタイガー・マスクとしてデビューすると、今度はマーク・ロコが後を追うように来日してブラック・タイガーとして戦うという、まさに切っても切れない腐れ縁ですね。
初代タイガーマスクの引退後は、伝説のマスクマン(笑)「ザ・コブラ」を相手にやられ役を務めるなどしながら1991年に引退。
2020年に69歳の若さでこの世を後にしました。
Y&Tの代表楽曲が数多く収録された名盤中の名盤
閑話休題してアルバムの話に戻ります。
本作には、Y&Tファンがもしも「歴代の楽曲全ての中からベストテープを作成せよ」と言われた時に、10人中10人が迷わず選ぶであろう楽曲が数多く収録されています。
(カセットテープ世代のため「ベストテープ」という死語を使用しました。今風に言う場合は「Y&Tのベストプレイリスト」とか言うのでしょうか…。)
冒頭にも記した通り、その位に本作はY&Tを語る上では決して外すことのできない非常に重要な位置付けのアルバムであることは間違いないでしょう。
前作「EARTHSHAKER」でのエッジの効きまくった切れ味鋭いサウンドは、ややまろやかになった印象ですが、逆に対象物(獲物)の奥深くまでゆっくりと確実に切れ込んでいく重厚な刃物のようです。
むしろ、より一層の作品としての成熟度と一撃必殺的な殺気感覚が増し増し状態となっています。
さすがは、敏腕プロデューサー「マックス・ノーマン」によるプロデュース&エンジニアリングが光っていますね。
本作に収録の多くのバンド代表曲は、2024年1月の50周年記念来日ライブでも激熱でプレイされファンの心を深くえぐってくれました。
Thanks! Y&T FOREVER
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ボーカル: デイヴ・メニケッティ(兼ギター)
- ギター : ジョーイ・アルヴィス
- ベース : フィル・ケネモア
- ドラム : レオナード・ヘイズ
【収録曲】
- From the Moon
- Open Fire
- Don’t Wanna Lose
- Hell or High Water
- Forever
- Black Tiger
- Barroom Boogie
- My Way or the Highway
- Winds of Change
おすすめの楽曲
From the Moon
わずか44秒の儚いギターインスト曲 。
この曲に対して必ずと言って良い程に引き合いに出されるのが、Judas Priest の 「Screaming for Vengeance(邦題:復讐の叫び)」における「The Hellion」ですね。
どちらもアルバムを全体を象徴する序章的なシンボリックな位置付け。
オープニングから「泣きメロ人間国宝デイヴ・メニケッティ」の匠の境地と言える「メニケッティ節」が全開ベタ踏み状態です。
早くも期待度タコメーターはレッドゾーン突入~制御不能です。
いつも思うのですが、これは一体何本のギターの音を重ね合わせて作られているのでしょうか…。
(マックス・ノーマン恐るべしです)
そして、この2曲の序章インスト曲で思い出すのが高校時代のコピーバンド。
ライブをする時は、我がバンドのオープニングはいつも「The Hellion」から入り、校内のライバルバンドはいつも「From the Moon」から入っていました。
(敵ながらあっぱれの選曲…渋い…渋すぎる…)
Open Fire
短いインスト序曲の後は、これまた「THE オープニング曲」と称するに相応しいY&Tの代表曲が登場です。
この後、1985年にリリースされるライブ・アルバム「Open Fire」のタイトルにもなっていますね。
来日公演でも当然オープニングはこの曲で入って来るんだろうなと、事前に首の筋肉を入念にほぐして臨んだものの、その日はいきなり意表をつく「Black Tiger」から全開で来られた時はさすがにおったまげましたが…。
この曲で特筆すべきはやはりヘイズ大先生のドラミングですかね。
「パワフル」「手数=音数多め」「小気味よさ(タイト)」「独特のバスドラの刻み」どれをとってみても大好きなドラマーです。
本曲でも疾走感全開、手数(足数も)多めでダイナモの如く暴れまくっています。
本当に、すっとぼけ過ぎのキャラとルックスさえ良ければクビにはならなかったのに..。
そして何と言っても「メニケッティ御大」ですが。
いやぁー、何が凄いって、御大はライブでもヴォーカルは勿論のことギターソロも一人でそのままほぼ忠実にアルバムを再現しますからね~。
誤魔化しや手抜きは一切無し、真剣勝負のライブは最高です。
Don’t Wanna Lose
前述の「A代表組」には一歩及ばないものの、「B代表組(オリンピック代表)」くらいには位置付けられる楽曲ですね。
でも、個人的にはY&Tの魅力ってこの「B代表組」の楽曲群に凝縮されているような気がしています。
キャッチーでいて哀愁のメロディがたまらなく印象的なミドル・テンポのナンバー。
ざっとあげるだけでも、本曲や「Lonely Side of Town」「Let Me Go」「Sentimental Fool」などなどキリがありません。
デビュー当時から、ブリティッシュロックの影響を強く感じさせながらも、サンフランシスコ出身のバンドだということを色濃く反映させている絶妙の楽曲作りが、得体の知れぬ心地よさと共に心の奥に沁みわたってきます。
Forever
Y&Tの代名詞とも言える代表曲。
A代表不動のレギュラーにしてチームの精神的支柱とも言える主将的な楽曲です。
LP盤のA面ラストに収録された本曲は、冒頭のインスト曲「From the Moon」の メロディをイントロとして再びなぞって登場させてきます。
これにはもう期待感しかありませんね。
沸点をとっくに超えた期待感がどうにも抑えようもなくグツグツ煮立っていきます。
しかし、当の人間国宝は何ら気負いを感じさせることなく、粛々とシンプルなリフを刻みながら哀愁のヴォーカルメロディをじっくりと歌い上げていきます。
そして最高潮のテンションで迎えるサビでは、拳を突き上げたい衝動をもはや抑えることはできず、一緒に「Forever!」と大連呼している自分がいます。
ギターソロも渋いですね~。
決して弾き過ぎず、これでもかとタメを効かせながら「聴かせてきます」。
そしてラストのエンディングでは涙無くして聴けない哀愁の大絶叫と、再び「From the Moon」のメロディに立ち返るという完璧な楽曲構成。
いやー、ハードロック史上永遠に聴き継がれていって欲しい名曲中の名曲です。
Black Tiger
LP盤のB面1曲目にしてアルバムタイトル曲。
およそ50秒間にもおよぶ真っ暗闇のジャングルを思わせるような不気味なイントロ。
暗闇と同化して姿を見せずに潜むブラック・タイガーが、文字通り虎視眈々と獲物を狙ってじりじりと距離を詰めていっているかのようです。
これ以上無いくらいの緊張感の中、ヘイズ大先生のスネアのロールが徐々にその出力を高めながら不気味な静寂を切り裂いていきます。
さすがはアルバムタイトル曲、一度聴いたら一生忘れない位のインパクト、キャッチーさではないでしょうか。
前述の来日公演時のライブでも同様、真っ暗に暗転した会場が一閃し、人間国宝のハイキックが炸裂してライブがスタートするというあの演出。
全身鳥肌立てて男泣きしながらの懸命のヘッドバンキング。
カッチョ良過ぎでした~。
それにしてもリズム隊がタイトですね~。
実測ではそれほどスピードは出ていない筈なのに、体感スピードに物凄い疾走感を感じます。
ベースラインとバスドラの妙技なのでしょうか。
そして、本曲では人間国宝にしては珍しくトリッキーなギターソロプレイを魅せてきます。
独特のフレーズを駆使した速弾きや、スイッチノブがもげてしまうのではと心配になる程の激しいスイッチ奏法。
最後はキャッチーで印象的なフレーズで締めくくるというソロの構成が秀逸です。
Winds of Change
アルバムラストを締め括る哀愁のバラード曲。
アコスティック・ギターの音色とじっくりと情感豊かに歌い上げるメニケッティ節により、泣きながら聴き入るしか成す術のない楽曲です。
ヴォーカルで既に泣かせておいて、ギターでも更に輪を掛けて泣かせてきますね。
(どSですね…)