Y&T / DOWN FOR THE COUNT レビュー
「Y&T」に改名して名盤3連発後の変化予兆
Y&T 「DOWN FOR THE COUNT」は1985年にリリースされた7枚目のアルバムです。
(改名前のYESTERDAY & TODAY時代から通算)
既に当ブログでもレビュー済の1981年リリースの歴史的名盤(3rdアルバム)「EARTHSHAKER」以降、毎年コンスタントに超名盤となる新譜を輩出し続けてくれたY&T。
それらを聴き比べてみると、当時のバンドとしての迷いや葛藤、試行錯誤ぶりが垣間見えて非常に興味深いです。
超名盤!3rdアルバムのレビューはこちらからどうぞ
嫌な予感と言うか、振り返れば確かに予兆はありました…。
本作の前の6枚目のアルバム「IN ROCK WE TRUST」です。
3rdアルバム以降、良い感じで切れ味の鋭いリフに軸足を置いた硬質かつブルージーな楽曲を連発してくれていましたが、6枚目の「IN ROCK WE TRUST」でその軸足にブレが生じてきます。
当時マーケットで隆盛を誇っていたLAメタル(ヘアメタル)への「迎合」とまでは言わないまでも限りなくそれに近い「軟弱化」が楽曲に現れ始めたのです…。
(個人的にはそれらも含めてY&Tの曲は全て好きなのですが…)
ざわ、ざわ… ファンをざわつかせたジャケットデザイン
そして、何より酷評されたのが上記6枚目アルバムのジャケットデザイン。
まるで「赤いびわを奏でるミラーマンの謎のガッツポーズ」ではないですか!。
プロレスで例えて言うならば、まるでジャンボ鶴田が獣神サンダーライガーのマスクを被って「オーッ!」しているかのようです…。
(因みにこの「ミラーマン」はMVにも登場するなど活躍)
わざわざお金かけて自らをB級バンドです!と強烈に世に知らしめているという感じで、思いっきりドン引きしてしまいました…。
しかし、当然のことながらバンドとしては必死にマーケットでの成功を窺う意味での音楽性やヴィジュアル面での「路線変更」「変化」でしたので、それなりの効果はあったようです。
この6枚目のアルバムは過去の作品と比べても最も良いセールスを記録しました。
↓↓↓6枚目アルバム「IN ROCK WE TRUST」の詳細レビューはこちらからどうぞ↓↓↓
Y&T / In Rock We Trust バンド史上最高セールスの名盤
ファンを震撼させた本作のジャケットデザイン
前作6枚目のマーケットでの好調なセールに味をしめたのか、勘違いして調子に乗ってしまったのか、古くからのファンをさらに震撼させたのが本作7枚目です。
先ずは手始めにアルバムジャケットのデザインから見ていきましょう。
はい、全く意味不明ですね…。
ホテルのロビー(部屋の中のようには見えない)のような場所で、ミラーマンの彼女のミラーウーマン(?)がドラキュラに血を吸われています。
普通に考えるとロボット系のミラーウーマンの首筋は超合金か何かで構成されていると思われますが、ドラキュラの鋭い八重歯はものともせずに突き破っているようです。
いや、その前にロボットとおぼしきミラーウーマンの体内にはそもそも「血」が流れているのでしょうか。
色んな意味で恐ろしい絵面です…。
さて、この後の展開はいかに?。
恐らく、ミラーウーマン絶対絶命のカウントダウンが始まる中、闇夜の彼方からきっと赤いびわを「べんべらべんべん♪」と奏でながらミラーマンが救いに駆けつけるというシチュエーションなのでしょう。
か、格好良いですね…。
そして、デザイン左側には縦書きで「Y&T」のロゴをやや斜めにデカデカと配置しています。
やけくそ気味だったのでしょうか、随分と思い切りが良いですね…。
しかも3文字全て同じ大きさなので「&」が一番目立ってしまっていますね…。
見れば見るほど謎だらけ。
私のような凡人には到底理解不能な超越的な世界観のジャケットデザインです。
極めつけは、何と言ってもジャケット裏面のメンバー画像です。
こ、こ、これは….。
どうしたことでしょう。
メンバー全員がメイクを施し、ド派手な衣装をまとい、もっこりタイツを履いているではありませんか!。
本当に申し訳ないけど、4人全員「新宿2丁目界隈の人」にしか見えません…。
痛い、痛すぎる…。
しかも、デビューアルバムでも短パン一丁でジャケット画像に登場して、全てのHR関係者の度肝を抜いたレオナード・ヘイズ先生は、本作でも謎のポージングをかましています。
まるで「詳しくはこちらを見てね」とか言っているように、虚ろ気な目をして足元を指差してますね。
このアルバムを最後にレオナード・ヘイズ先生は「解雇(ルックスが悪いから)」されることとなるわけですが、何となくこの辺りにも理由があるような気がしてなりません。
ルックスで言うなら、レオナード・ヘイズが✖でジョーイ・アルヴィスが〇な基準も良く解りませんが。
ポップ化で物議をかもした音楽性
ジャケットいじりはこの辺にして、肝心な中身、本作の音楽性についてです。
前述した通り、HR史に燦然と輝く超名盤の3rdアルバム以降、人間国宝デイブ・メニケッティの繰り出す哀愁の泣きメロとソリッドかつウェットなテイストが織り交ざった絶妙な楽曲群により、ファンの支持を集めてきたY&T。
前作6枚目にして軟質化の兆候を見せていましたが、本作においてはバンド史上最も「ポップ指向な音楽性」が顕著となりました。
ライナーノーツを記したキャプテン和田氏の言葉を要約します。
「マネジメントのサポートに恵まれなかったが玄人ウケするバンドが、長年の不当評価の屈辱に耐えかねて選択したLAメタル導入の方法論」というもの。
結論から言ってしまえば、本作7枚目は前作をセールスで上回ることはできず、なおかつ必然的に往年のコアなファン層の離反を招く結果となりました。
しかし、和田氏も記している通り、楽曲のバリエーション、間口が広がったのは事実であり、かつてのY&T節もしっかり健在。
今一度、冷静にY&Tの辿ってきた軌跡を正当評価してみるべきだと感じます。
軟弱化、売れ線狙いで片付けてしまうのは簡単ですが、単なる「爽快感あるアメリカン・ハードロック」で終らせない人間国宝デイブ・メニケッティの哀愁のヴォーカルとギターフレーズ。
レオナード・ヘイズのパワフルかつ小気味よいドラミングは、彼らでしか具現化できない独特のオーラとポテンシャルを感じさせますね。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル: デイヴ・メニケッティ(兼ギター)
- ギター : ジョーイ・アルヴィス
- ベース : フィリップ・ケネモア
- ドラムス : レオナード・ヘイズ
収録曲
- In The Name Of Rock 5:30
- All American Boy 2:22
- Anytime At All 4:24
- Anything For Money 3:19
- Face Like An Angel 4:31
- Summertime Girls 3:26
- Looks Like Trouble 4:02
- Your Mama Don’t Dance 2:46
- Don’t Tell Me What To Wear 4:00
- Hands Of Time 5:37
おすすめ楽曲
In The Name Of Rock
ジャケットデザインからは嫌な予感しかしなかった本作ですが、ミディアムテンポのパワーチューンでアルバムは幕を開けます。
おぉっ!良いじゃないですかぁー。
これぞ往年のY&T節を髣髴とさせる力強さと、デイブ・メニケッティのヴォーカルの熱気を感じさせるナンバーですね。
なにより、歌詞に魂が込められています。
「ロック&ロールの名において」ですからね。
毎年6月9日の「ROCKの日」には私は必ずこの曲を聴いています。
All American Boy
オープニング曲でひと安心したのも束の間、「ヴぇ?こうなっちゃいます?」の2曲目。
わざわざ外部ライターに書いてもらったという、思い切り能天気なアメリカン・ポップスが炸裂。
いやいや、外部ライター起用して2分22秒のこの曲作ってどうするって感じですね。
完全に自己を見失い、LAメタルの波に飲み込まれてキリモミ状態に陥っている感が満載です。
初めて聴いた時には思わずホロホロと涙が出てきてしまいました(勿論残念な意味で…)。
Y&Tがやらなくても良い曲でしょう、これは。
餅は餅屋でNIGHT RANGERあたりのこの手のプロにお任せするべき楽曲だと思います。
Anytime At All
続く3曲目は賛否の分かれたキーボード導入の元気が出る(個人的には)名曲。
全体的的なトーンはやや軽い印象を与えてしまうものの、メニケッティの心地よいギターリフと並奏して走るスピード感溢れるキーボードの音色は、素直に爽快なアメリカン・メロディアス・ハードロックと賞賛したい名曲だと思います。
キーボードはDIOやRough Cuttで活躍したクロード・シュネルが担当しています。
そして、本曲のもう一つの大きな魅力はやはりサビメロで被せてくる分厚いコーラスですね。
自らを鼓舞して気合を入れたい時、空いている高速道路でちょっとスピーディに走りたい時などなど、色んなシチュエーションで聴いて頂きたい楽曲です。
Face Like An Angel
5曲目にしていよいよ炸裂する泣きメロ人間国宝メニケッティ節。
前作6枚目のアルバム「IN ROCK WE TRUST」に収録の名曲「I’ll Keep On Belivin'(Do You Know)」に勝るとも劣らない、これまた名曲中の名曲ですね。
まさに「ポップ」と「泣き」の見事な融合は人間国宝のみが成せる業と言えましょう。
当時、来日時には地上波TVの「夜のヒットスタジオ」にも出演していましたね。
思いっ切り「口パク」でしたけど…。
Summertime Girls
スタジオ・ヴァージョンでの再収録。
皮肉にもこの曲がバンド史上最もセールス成績の良かったシングルとなりますが、本作2曲目同様に「Y&Tがやらなくても良い曲では?」と思えてしまいます。
この曲は来日した際のセットリストにもチョイチョイぶっ込んできて、毎回得意気な顔してハモリコーラスをかましてくれていますが、個人的にはあんまり嬉しくないことをこの場でこっそりカミングアウトしときます。
まとめ
情感豊かでブルージーなギターとヴォーカルを聴かせる人間国宝デイブ・メニケッティを支柱として、玄人好みの上質なメロディアス・ハードロックを量産してきたY&T。
所属レコード会社の後押しもなかなか得られない厳しい状況の中でも、愚直に硬質&上質なハードロック・アルバムを輩出し続けてきてくれましたが、マーケットにおいては正当な評価を得られぬ日々が続いていました。
何よりもマーケットでの成功を要求されるバンド・ビジネスにおいては、その頑固なスタンスだけではバンドの存在意義そのものが否定されてしまうため、恐らく断腸の思いでLAメタルへの歩み寄り、マーケットへの迎合という大舵を切ったのではと思料します。
(とか言って、意外と本人たちが好きで選んだ道だったりして…)
挙句の果てには、ルックスを重視して音数豊富なパワフルドラマーであるレオナード・ヘイズ大先生をクビにするなどという暴挙を犯すなど、この時期のY&Tは完全にレコード会社の罠にはまり迷走していた感じがします。
最後に、伊藤政則氏は本作に対してこう語っています。
「どんな時代であれ、バンドの特質を最優先するという、至極当然のことを改めてシーンに問いかけた問題作と言えるだろう。」