KISS / DESTROYER レビュー
代表曲がてんこ盛りのKISS史上最重要アルバム
1976年にリリースのKISS 4枚目のアルバム(邦題:地獄の軍団)です。
既にこのブログでデビューアルバム以降の「突貫工事でリリースされた3枚のアルバム」はレビュー済ですが、本作はKISSが世界的知名度を確立したバンド史上最重要な位置付けとも言える作品です。
デビューアルバムからわずか1年ちょっとの期間で立て続けに3枚のスタジオアルバムを連発したKISSでしたが、セールスは思うように伸ばせないままにイロモノバンドとしてのレッテルに常に付きまとわれる状況でした。
元来、見た目とは裏腹にシンプルで完成度の高い楽曲とライヴパフォーマンスに定評があったバンドは、起死回生となる伝説のライブアルバム「Alive!」をデトロイトで収録。
このライヴアルバムが全米規模でのヒットを記録し、一気にバンドの知名度が拡散することとなりました。
バンドもレーベルも当然「真価を問われることとなる4枚目アルバム」の重要性は認識しており、その制作にあたってはかつてない気合の入れようとなります。
プロデューサーにはアリス・クーパーの「Billion Dollar Babies」のプロデュースでその名を知らしめた「演出の魔術師」ボブ・エズリンを迎え、従来のシンプルで軽めのロックンロール的な音楽性から、サウンドエフェクトも駆使した厚めのサウンドメイクによる「ハードロック」へと大きく舵を切った作品を生み出すことに成功しました。
後のライヴにおいて、バンドとしても思い入れの強いデビューアルバムからの選曲が多いのは既述の通りですが、本作に収録の楽曲はその域を軽く凌駕する「バンドの顔」となる代表曲が目白押しのてんこ盛り状態。
KISSを語る上では避けては通れない「通行手形」的な位置付けのアルバムと言えるでしょう。
(伝説のデビューアルバムのレビューはこちらからどうぞ)
音楽性とサウンド演出がようやく見た目に追いついたアルバム
個人的にはデビューアルバムを筆頭に初期の3枚のアルバムにもお気に入りの楽曲が多いのですが(2枚目はちょっと苦手…)、顔面ペイントという奇抜性ゆえにシンプルなロックンロールとの不つり合いな感覚がどうしても拭えなかったのも正直なところ。
見た目の割には演ってる音楽が渋すぎるというか大人しいというか…。
確かにライブステージでは火を噴くなどのパフォーマンスはあるものの、スピード感や躍動感にという面では今一歩だったのかも知れません。
前述の起死回生のライヴアルバム収録のきっかけにもなった、3枚目アルバムの「Rock and Roll All Nite」のヒットも、ファンが求めていたスピード感や躍動感が具現化された結果だったのかなと思います。
ポール・スタンレー曰く「このアルバムは映画のようなアルバムなんだ」と後のインタビューで語っているように、冒頭のカーラジオから流れてくるのは「Rock and Roll All Nite」やエンディングの激しい車のブレーキ音。
かと思えばオーケストラによるほのぼのとした流麗な音源やSEの導入など、本当に映画を見ているかのような感覚を味わえるドラマティック性に溢れています。
やはり見た目や演出のど派手さだけで勝負ができるのは大晦日の小林幸子だけだったようで、KISSの見た目のインパクトに見合う音楽性は演出効果満載のハードロックぐらいじゃないとつり合いが取れませんね。
メンバー・収録曲
バンドメンバー
- ヴォーカル : ポール・スタンレー
- ギター : エース・フレーリー
- ベース : ジーン・シモンズ
- ドラムス : ピーター・クリス
収録曲
- Detroit Rock City [5:17]
- King Of The Night Time World [3:19]
- God Of Thunder [4:13]
- Great Expectations [4:24]
- Flaming Youth [2:59]
- Sweet Pain [3:20]
- Shout It Out Loud [2:49]
- Beth [2:45]
- Do You Love Me [4:57]
おすすめの楽曲
Detroit Rock City
代表曲を通り越してKISSの代名詞とも言える楽曲ですね。
乗り込んだ車のカーラジオから流れる「Rock and Roll All Nite」を一緒に口ずさむ適当っぷりに思わず笑ってしまいます。
突如始まる伝説の衝撃的なギターリフ。
ギターサウンドはこれまでの3枚のアルバムとは比べ物にならない位にシャープで音伸びが良いですね。
リフの背後で鼓動のように刻まれるベースも不気味な緊張感を醸し出していてとにかく格好良いです。
ピーター・クリスのドラムも楽曲の疾走感を最大限に引き出す奮闘ぶり。
とにかくアグレッシブにこれでもかとスネアを連打して突っ走ります。
そして何と言っても圧巻はギターソロ。
リフもそうですが、これほどまでにシンプル単純な演奏でリスナーのハートを鷲掴みしてしまう印象的なプレイは稀有ですね。
当時のハードロックバンドのギターを志す多くのギター小僧にとっては、これ以上無い有難い練習曲です。
ピロピロと小難しい速弾きなんかよりも何倍も格好良く心に刻まれるソロメロディです。
曲のラストでは急ブレーキの踏まれた車がスピンしながら事故る瞬間の演出音が鳴り響き、まるで車は横転してタイヤだけが惰性で空回りしながら白煙を上げているかのようです。
そのままの流れで2曲目の軽快なロックチューンへと雪崩れ込んでいきますが…。
いや、ちょっと待てよと。
冒頭のいい加減過ぎる運転手の鼻歌はもしかしたらラリってる状態だったのでは?
これはいけませんねー。
ラリった状態で車を運転するなど言語道断!。
現実社会においても何の罪もない歩行者などを巻き込んだ痛ましい事故が起きるたびに、遺族の深い悲しみに心が締め付けられるように痛みます。
突如として真面目な話になってしまいましたが、とかくロックミュージシャンにありがちな酒とドラッグの話題。
他人に迷惑かけなければ自己責任で自爆するのは自由ですが、凶器と化す車の運転だけは絶対にNGですね!。
God Of Thunder
意表を突く子供の叫び声と共に、重々しいリフが展開されていくこれまた代表曲の一角を担う重要曲。
ジーン・シモンズのおどろおどろしいヴォーカルが楽曲の世界観に見事にマッチ。
細かい音響効果を重ね合わせながらややもすると気怠いリズムの楽曲を飽きさせない展開で聴かせてくれます。
雷を意識的に表現したドラミングは、まさに雷太鼓そのものといったところ。
(雷の音は雷神が太鼓を叩く音というのは万国共通?)
Shout It Out Loud
オープニングの「Detroit Rock City」に次ぐ本作の疾走チューンヒット曲。
最早お約束のシンプルなギターイントロから勿体つけることなく切れ込んでくるポール・スタンレーの歌メロが潔いですね。
そして、思わず拳を握って振り上げそうになるBメロでのジーン・シモンズの登場。
このダミ声を通り越して一周して帰ってきたような潰れた声質。
いやぁー、ジーンならではの味がありますね。
渋すぎます。
ライヴでの観客を煽っての掛け合いが容易に想像できるバンド指折りの代表曲です。
Beth
聴く人全ての胸を打つ渾身のラブバラード。
以前、twitterのフォロワーさんから海外青春ドラマでの告白シーンでの採用を教えてもらい、あまりのハマりっぷりに思わずこっちもウルっときてしまったことがありました。
当初は実は曲名は「Beck」だったそうで、後のアルバムで登場する大ヒット曲「Hard Luck Woman」のようなカントリー調の曲だったようですね。
ピアノによるイントロのアイデアが文字通り奏功して、ロマンティックなラブバラードへと方向性を変えていったことが結果として大成功だったようです。
切なくも儚すぎるヴォーカルメロディ。
バックに流れるピアノを軸としたオーケストラの音色。
まさに「映画のワンシーンが瞼に浮かぶ」楽曲とはこのこと。
僅か2分45秒という短い楽曲とは思えない情景と時空の広がりを感じさせます。
本曲や「Hard Luck Woman」のヒットによって、後にピーター・クリスの鼻柱が高くなりバンド内の不協和音の一因にもなってしまいますが、それも致し方なしと思えるほどにセールス的にも楽曲の質的にもバンドのレベルアップに貢献した楽曲と言えるでしょう。
まとめ
デビューアルバム以降の突貫リリースの3枚のアルバムが思うようにセールスに結びつかず苦境に陥っていたKISS。
起死回生のライヴアルバム「Alive!」のヒットによりチャンスの芽を掴んだバンドが勝負を掛けた4枚目の本作は、文字通りKISSを世界的なスーパーバンドへと押し上げた超名盤です。
元来バンドが持ち合わせていたシンプルかつ明快なロックンロールという音楽性の原石は、プロデューサーのボブ・エズリンによる音響的、演出的な効果によりとことん磨き上げられ、ようやく「見た目に追いついた」ハードロックの体をなしたように感じます。
そして本作以降、その音楽性路線は踏襲されKISSというバンドのまさに黄金期に突入していくこととなります。