昭和のハードロック情報源「ラジオ」
2月13日は「世界ラジオデー」として制定されている記念日です。
ユネスコが定める国際デーのひとつで、1946年のこの日から国連ラジオ放送が始まったことにちなんでいると言われています。
その昔、現在のようにIT技術が未だ発達していないアナログ時代には、音楽に関する情報ソースは極々限られた媒体からでしか得られず、その主役は概ね「ラジオ」と「専門誌」等が担っていました。
その情報入手手段は今では死語となっている(?)「エアチェック」なる手法であり、FMラジオの番組情報誌を購入しては目ぼしい放送内容をくまなくチェックし、お目当ての番組が始まる前にラジカセの録音をスタンバイしておくというのが当時の方法論でした。
誰もが幾度となく失敗から学んだ経験則に基づき、「エアチェック」という緊張の儀式に対していくつかのキメ細やかな拘りと対応策を講じていたことでしょう。
・カセットテープの最初と最後には透明のクリーニングテープ部分があるので、最初から録音する時は予め小指を使って巻き取っておかないと直ぐには録音できない。
・STOP&GOは一時停止ボタンで行わないと、タイムラグが生じてしまうとともに、ブツッというボタン音が入ってしまう。
などなど。
そんな今では考えられないような地味~な作業を寡黙に積み重ねて初めて、学校で友人と対等に会話の出来る、または一目置かれる音楽情報が入手できる環境だったのでした。
とまあ、昭和昔話をだらだらと書いてしまいましたが、今回の記事ではそんな昔に大変お世話になった「ラジオ」にスポットを当てて、「ラジオにまつわる楽曲」を時系列で記してみました。
アルバム名、曲名や歌詞に「ラジオ」が登場する楽曲、「ラジオ」のSEが入っている楽曲など思いついたものを綴ります。
例によって、主に’80~’90年代の古いものが中心となってしまいますがご容赦を。
あくまで私個人の主観でチョイスしたものですのでご理解頂き共感して頂ける部分が少しでもあれば嬉しいです。
KISS / Detroit Rock City
1976年リリース4枚目のアルバム「Destroyer(邦題:地獄の軍団)」のオープニングに収録。
この曲の題材となっているのは、KISSのコンサートへ車で向かう途中に交通事故で亡くなってしまった実際のファン。
イントロとして流れるSEでは、都会の喧噪を思わせる雰囲気の中で車に乗り込む男性ファンの描写が想起できます。
エンジンスターターをONにして始動すると、いきなりカーラジオからKISSの代表曲「ロックンロール・オールナイト」が流れます。
ご機嫌な感じで鼻歌で一緒に口ずさむ男性ですが、呂律が回ってなくややラリっている感じにも聴こえます。
その後、スピードを上げるエンジン音と共に衝撃的な楽曲のリフがスタートするというドラマティックな展開。
そして、この「ラリってる感」が伏線だったのか、曲のエンディングではいきなりの急ブレーキを踏む音とともに一瞬で何かに衝突し爆発炎上するという、今でこそよくある「閲覧注意」「音量注意」な結末で楽曲は終了します。
楽曲の舞台であるデトロイトと言えば、その昔は自動車産業で目覚ましい発展を遂げた大都市でしたが、1970年代に入ってからの日本車メーカーの進出攻勢により打撃を受け経済的な衰退を余儀なくされた街。
そんな荒廃した時代背景の中での、酒やドラッグに溺れた若者の事故死という痛ましい内容の描写であるため何とも複雑な思いに駆られます。
KISS屈指の代表曲でもある本曲で、更に特筆しておきたいのがベースラインと、ギターソロ。
先ずはジーン・シモンズによるベースですが、これが楽曲のスリル、緊張感を見事なまでに醸成する良い仕事していますね~。
序盤のヴォーカルメロディの合間で不気味に繰り返される短かいベース音は、まるで地獄の悪魔が手招きしながら舌なめずりしているかのようです。
そして、悲しく哀愁を帯びたギターソロはメロディ最重視の超シンプル設計ながら心に染み入るフレーズが展開されてますね~。
ギター初心者も3日も練習すれば弾けるようになる感じの優しいソロは、エースでもポールでもなくプロデューサーのボブ・エズリンによるものだったと後に知ったのでした。
The Buggles / Video Killed the Radio Star
1980年リリースのThe Bugglesのデビューアルバム「The Age of Plastic(邦題:ラジオスターの悲劇)」に収録。
今回の企画を思いついた時にアルバムジャケットのデザインが真っ先頭に浮かんだ楽曲です。
当時、本曲の大ヒットにより「ニュー・ウェイヴ」という新たな音楽ジャンルにおける地位を確立したThe Bugglesですが、そもそも「ニュー・ウェイヴ」とは何ぞや?となりますと、私ごときの浅はかな知見では到底定義付けなどできません。
1970年代後半から1980年代前半にかけてイギリスで流行したポストパンク、ダンサブル、電子系音楽みたいな感じ?と自身では適当にふわっと括っています。
まあ、とにかくあんまり汗かかない、必死にならない、お洒落でスマート、キャッチーでコミカルな感じもあり、ってな感じですかね~。
RC SUCCESSION / 雨上がりの夜空に
1980年リリースの RC SUCCESSION の代名詞ともなっている 9枚目のシングル曲。
当時、私の兄貴の持っていたレコードの中ではライブ音源を収録したアルバム「RHAPSODY」でしか聴けませんでした。
夜のドライブに出掛けようとするも突然のエンジントラブルで愛車が動かず嘆き悲しんでいる様子がコミカルな歌詞とノリの良いメロディラインで展開される名曲ですね。
相棒の愛車についているカーラジオは「感度最高!」「すぐにイイ音させてどこまでも飛んでく♪」。
やっぱり今も昔もドライブしながらお気に入りの楽曲を爆音で聴くというのは、たまらなく幸せな気分になれるものです。
RC SUCCESSION / トランジスタ・ラジオ
1980年リリースの RC SUCCESSION 4枚目のアルバム「PLEASE」に収録。
これまた代表曲に位置付けられる 11枚目のシングルとなった名曲です。
授業をさぼって学校の屋上で寝ころんでタバコを吸いながら、ラジオでのんびりと音楽を聴いているという、音楽好きの誰もが憧れるようなシチュエーション。
内ポケットに入る程の小さなトランジスタ・ラジオさえあれば、世界中の音楽をアンテナがキャッチして届けてくれるという、まさにラジオの素晴らしさが等身大で描写された「ラジオデー」に最も相応しいと言える楽曲ですね。
それにしても、映画やドラマでは学校、病院、ビルの屋上にあんなに頻繁に簡単に出ている場面が多いのに、実際の現実においてはことごとく屋上への扉には鍵が掛かっており出れないのが悔しいです。
QUEEN / RADIO GA GA
1984年リリース QUEEN 11枚目アルバム「ザ・ワークス」に収録。
タイトルの由来は、ドラムのロジャー・テイラーの子供が幼い頃にラジオを聴きながら「ラジオ、カカ」(Radio caca) と口ずさんでいたのがヒントとなったものとの事。
この「カカ(caca)」が「夢中になる」「熱狂する」という意味の「ガガ(ga ga)」 に代わって曲名となりました。
既に音楽シーンにおいてもMTVなどによる映像メディアが対応し始め、ラジオ文化が廃れていく傾向にあった中で、改めてラジオの持つ良さや魅力を回帰するような内容の楽曲であり、これまた「ラジオデー」には欠かすことのできない楽曲と言えるでしょう。
確かに、ラジオって映像が無い分「音」そのものに集中して聴くメディアなので、とりわけ「音楽」との親和性が非常に高いメディアですよね。
因みにあの「レディー・ガガ」も本曲がその名前の由来とされているようです。
AUTOGRAPH / TURN UP THE RADIO
1984年リリース AUTOGRAPHのデビューアルバム「Sign In Please」に収録。
雨後の筍のように次から次へと似たようなバンドがデビューしていたLAメタルの全盛期にデビューしながら、本曲のスマッシュヒットでシーンに克明な爪痕を遺したバンド AUTOGRAPH。
スティーヴ・リンチのテクニカルなギターと、スティーヴ・プランケットの灰汁の強いヴォーカルが前面に出て来るメロディアスハードポップな曲調が持ち味ですが、その他大勢の泣かず飛ばずバンドと一線を画すスパイスとして効いていたのがキーボード。
聴くに堪えない能天気ヘアメタルと違って、楽曲の良さを際立たせる効果的なキーボードの爽快感が心地よい中毒性を生み出していますね。
EARTHSHAKER / RADIO MAGIC
1984年リリース EARTHSHAKER 3枚目アルバム「MIDNIGHT FLIGHT」に収録。
前作2nd「FUGITIVE」の不動の名曲「MORE」で JAPANESE HEAVY METAL の頂点を極めたと言っても過言ではない EARTHSHAKER。
本作3rdアルバムでよりその音楽性と感情移入させられる歌詞の世界観がブラッシュアップされ、日本におけるポジショニングを強固なものとしました。
普通にカラオケで歌謡曲を歌うように口ずさめる楽曲が揃い、いわゆるメタラーならずとも聴きやすい作品でファンの裾野を大きく広げるとともに、バンドとファンの距離感がますます縮まった印象です。
METALバンドであるが故に鼻息荒く肩肘張ったTHE METAL作品を気負って作らずとも、バンドもファンも自然体で良い曲共有できる安心感が得られる数少ないバンドの一つが EARTHSHAKER だと思います。
TESLA / LOVE SONG
1989年リリースの TESLA の2ndアルバム「THE GREAT RADIO CONTROVERSY」。
このバンドを評する形容詞として頻繁に目にするのが「土臭さ」。
メンバーに目立って突出した華が無く、通好みの渋いアメリカン・ハードロック作品をそつなく創出する地力を持ったバンドはいたって地味な印象からですかね。
しかしながら、本作で聴くことのできるバラード、とりわけ本曲はバンド屈指の名曲と言える強力な輝きを放っています。
アコスティックのイントロ~優しく切ないハスキーヴォイスで始まる哀愁まっしぐらの定石通りのバラード楽曲かと思いきや、後半での盛り上げ~起伏に富んだ展開はまさに「おっと、そうきましたか」という感じの素直な感動を覚えます。
BLUE TEARS / ROCKIN’ WITH THE RADIO
1990年リリースの BLUE TEARSのデビューアルバムに収録。
当時、既に働き始めた懐事情の良さで調子に乗って新譜CDを毎週のように大人買いしていた中で、偶然に出会えたアメリカン・メロディアスハードの傑作。
それにしても、このB級どころかC級感さえ感じるジャケットデザインの本作に、勇気をもって手を伸ばし火中の栗を拾いに行った自分の勇敢さと審美眼を本当に誉めてあげたいです。
然程輸入盤も流通していなかったと思われ、ずーっと長い間「自分だけの(知る人ぞ知る)バンド」として優越感に浸っていましたが、最近になって国内盤として復刻され正直チョッと複雑な心境でしたが、この最高のポテンシャルを持った作品がより多くの人々に聴いてもらえる機会が広がったことは、素直に嬉しいです。
↓↓↓BLUE TEARSのデビューアルバム 詳細レビューはこちらから↓↓↓
徳永英明 / 壊れかけのRadio
最後はおまけで+1曲。
純粋に良い曲、良い歌ということで当企画にご参加頂きました。
1990年リリースの徳永英明10枚目シングルですね。
一聴してそれと判る独特の声質、切なくも美しいメロディのこの曲は、メタラーを自負されている方々でも会社の飲み会の2次会カラオケで熱唱されていたのではないでしょうか。
まさに今回の企画「エアチェックにいそしんで新しい音楽に貪欲に触れようとしていたあの時代」の青臭くも純粋だった心が歌い上げられているかのように感じます。
まとめ
かつては洋楽との唯一の接点とも言えた「(FM)ラジオ」。
大晦日には両親がTVで紅白歌合戦を視ている時に、私は自分の部屋でラジオ番組の洋楽を必死に録音していた記憶があります。
そんな手間暇かけて初めて出会える「一曲」に対する思い入れは、サブスクでいつでもどこでも音楽が聴ける現在とはかけ離れた次元で強力なものだったように思います。
時には昔のラジオ時代を思い起こしながら、アーティストへの有難み、感謝の念をもってこれからも新譜を聴き込んでいきたいですね。