KISS / Dressed To Kill レビュー
イロモノバンドのレッテルを打ち消す突貫工事のリリース
KISSの3rdアルバム「Dressed to Kill(邦題:地獄への接吻)」は、1975年3月19日にリリース。
1974年2月にデビューアルバム(邦題:地獄からの使者)をリリース
1974年10月に2ndアルバム(邦題:地獄のさけび)をリリースしたばかり。
デビューしてからのおよそ1年間で3枚のアルバムを輩出という超驚異的なスピードですね。
デビュー当時は完全にイロモノバンドとしてのレッテルを貼られ、シーンの冷ややかな視線にさらされたKISS。
そんな逆風の環境下で立て続けに3枚のアルバムを突貫工事でリリースすることにより、自らの音楽性をシーンに認知させるとともに存在感を明確に示すことに成功した気合の3枚目のアルバムです。
伝説のデビューアルバム「幻想飛行」から3rdアルバムリリースまでおよそ10年の歳月がかかったBOSTONとはまさに真逆で対照的ですね。
(さすがに10年は長すぎ…。渡辺美里さんに「10years」唄われちゃいます…。)
本作は前2作とプロデューサーが代わり、なんとカサブランカレコード社長のニール・ボガートがプロデュース。
(とか言ってもどんな人か知らないけど…。)
日本ではこの3枚目がデビュー作として最初に発売されたようですが?、いつも記していますが私には「どこからそのお金を捻出していたのか謎の兄貴」がおりましたので、我が家のレコードラックにはこの3枚のLP盤もビシッと揃っていました。
1stの完成度に匹敵する出来映え~KISSの名盤~
という訳で、突貫工事の「地獄の初期3部作シリーズ」の3作目となる本作ですが、3枚の中では1stと肩を並べる出来栄えの名盤と言えます。
前作2ndについては、ビッグネームKISSという忖度抜きにして正直に「酷評」「辛口レビュー」させてもらいましたが、この3rdは1st同様に超おすすめですね。
これから聴く方々には是非代表曲だけでもおさえておいて欲しいところです。
その前に先ずはアルバムのジャケットデザインからいきますか。
個人的には「手抜き感、ダサさ」しか感じられなかった2ndとは違い、渋いスーツ姿で4人が並び立つモノクロデザインが格好良いですね。
顔のメイクが無ければ、スーツの着こなし方などはブリテッシュバンドのようなお洒落な感じです。
サウンドメイクは、3作品総じて称賛できるものでは無いにせよ、3枚の中ではさすがにバランスが良くなってきたという印象です。
当時の日本では一般家庭にクーラーがようやく取り付けられ始めた位の頃。
今から50年近くも前の1975年に作られたアルバムとして、敬意を持って聴けば、「チープさ」も「渋さ」に変わるというものです。
2ndで気になった音の籠り感は改善。
本作では特にギターよりもリズム隊がより前面に出てきたように感じます。
デビュー作で早くもセンスを発揮していた「楽曲」の完成度は本作でも踏襲され、初期の代表曲として確固たる存在感を今もキープしている名曲が多数収録されています。
特に、LP盤の宿命~B面がどうしてもおざなりになりがちという悪習を打破するかのように、それらの名曲がB面に集中配置されておりアルバムを通して飽きさせない構成です。
派手なフェイスメイクとライブパフォーマンスで「イロモノ」バンドとして売り出されたKISS。
約1年間の間に3枚のアルバムという例を見ない突貫工事で作られた作品にしては、(2ndを除いて)粗製乱造に陥ることなく楽曲のクオリティが維持されているのではと思います。
「イロモノ」バンドとしての扱いを見事にバンドの優位性に転換して、やがてビジュアル的には地球上で最も認知されているロックバンド(勝手に決めつけてますが)にまでのし上がっていったKISSの楽曲作りの「実力」と「センス」は素直にリスペクトしたいところです。
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ポール・スタンレー
- ギター : エース・フレーリー
- ベース : ジーン・シモンズ
- ドラムス : ピーター・クリス
【収録曲】
- Room Service
- Two Timer
- Ladies in Waiting
- Getaway
- Rock Bottom
- C’mon and Love Me
- Anything for My Baby
- She
- Love Her All I Can
- Rock and Roll All Nite
おすすめ楽曲
Rock Bottom
オープニング曲「Room Service」を筆頭に、アルバム前半はシンプルでノリの良いオーソドックスなロックンロールチューンが並びます。
どれもコンパクトにまとまった良曲ですが、必聴曲でおさえておくべきかという視点では惜しくも次点扱いかなーと。
ここはやはり、後のベスト盤等でも収録されライブでの演奏機会も多い選りすぐりの楽曲に絞ってレビューをさせて頂くことにします。
最初に紹介するのはアルバム5曲目に収録されたアコスティックギターで始まるこの曲。
3分55秒の楽曲でありながら、イントロのアコスティックメロディに2分を費やすという「意外性の山倉」的な構成。(昭和の巨人ファンじゃないとわかりませんね…)
アコスティック部分だけでも十分にインスト曲として成立するような切なく哀愁に満ちたメロディが心に染み入ります。
そして突如始まる力強くストレートなロックンロール。
文字通り「ロックの基本」に忠実に、全てのぜい肉をそぎ落としたかのごとき硬派な潔さが格好良い楽曲です。
C’mon and Love Me
更に続くアルバム6曲目に収録のこの曲は、本作の最高楽曲と評価したい名曲。
シンプル極まりない落ち着き払って気負いの無いギターリフとソロメロディで始まる本曲は、数ある歴代のKISSの楽曲の中でも個人的には屈指の名曲です。
とにかく歌い出しからサビに至るまでのメロディが完璧で非の打ちどころがありません。
この手の楽曲を得意とするピーター・クリスに歌わせていたらという空想も楽しいのですが、やはりポール・スタンレーの声質に見事にマッチした楽曲と言えるでしょう。
そして圧巻はサビに向かってのビルドアップ部分におけるジーン・シモンズとのハモリ。
一体これまでにこの曲を何回聴いたか分からない位聴いていますが、いつ聴いても良い曲だな~と聴き入ってしまいます。
これから楽器、ロックバンドを始めようという未来のロックスターの子達が一番最初にコピー練習して演奏するにも持って来いの楽曲ではないでしょうか。
今はエフェクター等の機材も進歩して音を歪ませちゃえばそれなりに聴こえて、適当に誤魔化せちゃいますが、こういうシンプルでナチュラルな音質の楽曲を表現豊かに聴かせる渋い演奏を目指すやり方もあるような気がします。
(テクニカルな速弾きだけがギターじゃないよ!)
全くの余談ですが、最近は自分の演奏をyoutube等のSNSで堂々とアップする人が増えていますね。
が、せめてチューニングだけはしっかりと合わせておきたいところです。
たまに、本人は完全に悦に入って得意げに弾いているのですが、そもそもチューニングが微妙に狂っちゃってますよという人を見かけ、こちらが赤面してしまいます…。
She
KISSの十八番ともいえるややスローテンポのシンプルなリフから始まる渋さ溢れるロックナンバー。
Hotter than Hell などに近いムードで、無骨なコードリフに印象的な単音弾きのソロメロが被さりながら進行される楽曲は本当に頭にこびりついてくる感覚。
知らず知らず楽曲が脳にインプットされてしまいます。
ギターソロの前ではベースによる「展開」変化があり、ちょっととぼけたメロディのギターソロ、エンディングに向けて何気にトントコ叩きまくっているドラムと、結構やりたい放題に楽し気にやっている感じが好きです。
Rock and Roll All Nite
本作における最大のヒット曲にしてKISSの人気を決定付けたとも言える楽曲。
後にライブには欠かせない必須楽曲として 必ずプレイされるようになるKISSの代表曲。
僅か2分48秒という短い楽曲ではあるものの、ライブではオーディエンスとの掛け合いを結構長い時間やりますので、パリピの弾け具合は半端なく最高の盛り上がりを魅せますよね。
ジーン・シモンズのヴォーカルはライブではワイルド感が倍増し、ここぞとばかりにエンターテナーとしての本領を発揮する一曲です。
まとめ
当時、兄のいぬ間のLPレコードこっそり盗み聴きを常習としていた私にとって、今想えばこのアルバムは「その後の自身の音楽的な嗜好性や感受性を形成」していく上で結構な影響力を持っていたのかなぁと感じます。
この辺のKISSの初期の楽曲を聴きながら、産まれる前の赤ちゃんが胎盤から栄養を摂取するが如く自身の音楽的嗜好のベース、HRの嗜好の琴線として醸成していったのかなぁなどとしみじみ思ってしまいました。
それが故なのか否かは不明ですが、後にシーンに台頭してくる攻撃性の高い種々の「〇〇系(あえて書きませんが)」には、どうしてもちょっとついて行けないんだなと思います。