Iron Maiden / Killers レビュー
哀悼:2024年10月21日 ポール・ディアノ逝去
遂にこの日が来てしまいました…。
また一人、HR/HM界の象徴的アーティストがこの世を去ってしまいました。
2024年10月22日の X(Twitter)はポール・ディアノの訃報に驚き、悲しみ、哀悼の投稿に溢れています。
まさにハードロックとパンクを融合させた新たなジャンル HEAVY METALの歴史の扉をこじ開けたヴォーカリストと言っても過言ではありませんね。
心より哀悼の意を表します…。
初期IRON MAIDENのエネルギーが大爆発!
「NWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリテッシュ・ヘヴィ・メタル)」
1970年代終わりにイギリスで突如として勃発したヘヴィメタル・ムーブメントは、瞬く間に世界を席捲し数々のバンドがその流れに乗ってシーンで産声を上げました。
その中で間違いなくIRON MAIDENはムーブメントの代表的存在、牽引役として常にその後のHR/HMシーンを引っ張ってきたバンドですね。
1980年の記念すべきデビュー作でシーンに大震災級の衝撃を与え、翌年1981年に更なるエネルギーを大爆発させたのが本作2枚目アルバム「KILLERS」。
プロデューサーにはDEEP PURPLE、RAINBOW、WHITESNAKEらのパープルファミリーを手掛けたマーティン・バーチが担当。
リアルタイムで本作を体感した世代としては、ヴォーカルのポール・ディアノの汗が降りかかってきそうな”生々しいエネルギー”を感じたというのが噓偽りのない感想です。
本作に込められたIRON MAIDENのエネルギーは、40年以上を経過した今でも枯れることなく漲っており、これから聴く若い方達のHR/HM魂にもきっと火をつけること間違いありません。
新メンバーとしてエイドリアン・スミスが加入
このアルバムのトピックとして挙げられるのは、ツインリードのギタリストの一人だったデニス・ストラットンが脱退し、新たにエイドリアン・スミスが加入したことですね。
脱退後にPRAYING MANTISに加入することになるデニス・ストラットン。
2つのバンドの音楽性の違いから想像するに、IRON MAIDENの当時の楽曲は攻撃的、ハード過ぎる一面があったのではと推察できます。
新たに加入したエイドリアン・スミスは1990年に脱退するまでの期間、文字通りバンドの絶頂期の「顔」としてツインリードギターの一翼を担うことに。
若干話はそれますが、当時のJAPANESE HEAVY METAL BAND「EARTHSHAKER」の1983年リリースのデビューアルバムに収録されている楽曲「Dark Angel」を提供してくれていますね。
もともとエイドリアン・スミスという人はソロ志向、曲作りへの意識が高かったのでしょうか。
IRON MAIDENを脱退後は自身のソロプロジェクト「A.S.a.P」での活動で、シーンにそれなりの話題を提供してくれましたが…。
結局、1999年にIRON MAIDENに復帰し、バンドは現在のトリプルギター体制となっています。
ポール・ディアノの熱いヴォーカルの聴き納め作品
デビューアルバムに比べ確実に音質は磨き上げられてはいるものの、IRON MAIDENらしさ、バンドの真骨頂である「荒削りなライブ感」はしっかりと継承されている本作。
本作最大のトピックは何と言っても、ポール・ディアノがIRON MAIDENでヴォーカルを務める最後のアルバムになってしまったことでしょう。
デビューアルバムでのパンクとの融合を表現したかのような荒々しい歌いまわし、アグレッシブなヴォーカルスタイルは、本作でもより円熟味を増しながら踏襲されています。
小中規模のライブハウスで泥臭くライブを演じる光景がこの上なく似合うヴォーカリストとでも言いましょうか。
しかしながら、そんなポール・ディアノのヴォーカルスタイルに鋭く「限界」を感じ取った(?)スティーブ・ハリス。
バンドの音楽性的にもビジネスマネジメント的にも、ポール・ディアノの「限界」=IRON MAIDENの「限界」となることを一早く見抜いていたのかも知れません。
まさかのポール・ディアノ解雇という無情の大ナタを振り下ろすことになります。
あくまでも結果論ですが、確かに数万人を収容した屋外フェスのステージで「Aces High」を熱唱するようなスケール感を、ポール・ディアノには見いだせないのは事実です…。
しかしながら、そんなスティーヴ・ハリスの思い描くバンドの将来性など微塵も知る余地もなく、当時の平凡な一ファンとしてはポール・ディアノが脱退なんて…。
何と残念なことになってしまったんだと嘆くばかりでした。
歴代の中でも評価の高いアルバムジャケットデザイン
本作のジャケットデザインには、今やアイアン メイデンの代名詞ともなっている「エディ」が再び登場。
エディの産みの親であるデザイナーのデレク・リッグスによる渾身の作品が描かれています。
その後も続いていく数々のエディ作品の中でも、この2ndアルバムのデザインは特に評価が高く大人気。
今ではこのデザインのオフィシャルTシャツにはかなりの希少価値がついているとも言われていますね。
エディの近影も物凄い迫力ですね!
【IRON MAIDEN】アルバム一覧(ディスコグラフィ)はこちらから
スコアチャート
メンバー・収録曲
【メンバー】
- ヴォーカル: ポール・ディアノ
- ギター : デイヴ・マーレイ
- ギター : エイドリアン・スミス
- ベース : スティーヴ・ハリス
- ドラムス : クライヴ・バー
【収録曲】
- The Ides Of March – 1:46
- Wrathchild – 2:54
- Murders In The Rue Morgue – 4:18
- Another Life – 3:22
- Genghis Khan – 3:06
- Innocent Exile – 3:53
- Killers – 5:01
- Prodigal Son – 6:11
- Purgatory – 3:20
- Drifter – 4:48
- Twilight Zone – 2:34
おすすめ楽曲
The Ides Of March
オープニング曲の邦題は「3月15日」。
紀元前44年の3月15日は、古代ローマの天才軍事家、政治家であるジュリアス・シーザーが暗殺されたとされる歴史的な日。
ローマ暦の3、5、7、10月の15日のことをラテン語でidusと言うことから、歴史好きのスティーブ ハリスならではの世界観から付けられたと思われる曲名ですね。
この意味を知ると、ドラムが刻む軍隊の行進を思わせるようなリズムや、勇壮ながらも英雄を失った悲しみと慟哭の叫びを表現しているかのようなギターソロが、より深く心中に刻み込まれてきます。
因みに、本曲を含めた胸熱の1980年代「インスト曲」をピックアップした特集記事をご参考までに貼っておきます。
Wrathchild
間髪入れずにベースのイントロで始まる2曲目。
ポール ディアノの吐き捨てるようなラフでアグレッシブなヴォーカルスタイルが、本作でも引き続き健在であることを知らしめてくれます。
スピードに頼らずとも、これほどまでに張りつめたような緊張感とグルーブしながらの攻撃性を表現できるのがアイアン メイデンの凄さですね。
クライブ・バーのドラムとスティーブ ・ハリスのベースが怒涛の荒波のように畳みかけてきます。
Murders In The Rue Morgue
続く3曲目はドラマティックな曲展開と疾走感あふれるIRON MAIDENならではの楽曲。
スローなイントロから急転直下していくようなドラムロールからの曲展開は圧巻の一語に尽きます。
その後も音数の多い忙しいドラミングはもはやクライブ・バーの十八番ですね。
テクニックに走らずに何よりもメロディ重視のギターソロも楽曲のスムーズな展開に貢献。
4分18秒という比較的長い演奏時間を全く感じさせることなく一気呵成に聴かせてくれます。
Killers
アルバムを代表するタイトル曲はLPレコード盤のB面1曲目に収録。
暗闇に潜む不気味な殺し屋を思わせるベースのイントロを聴くだけで、楽曲に対する期待感が一気に増幅してきますね。
そしてそれを見透かしているかのように、同じリフやフレーズを敢えて何度も繰り返すのがIRON MAIDENの楽曲作りの特徴の一つ。
名付けて「おあずけワンちゃん、焦らし戦法」。
わかっちゃいるけど欲しがっちゃうという、リスナーを手玉に取る風格と様式美を感じさせる王者の戦法ですね。
そしてお約束の展開でスピーディに畳みかけてくる攻撃性に、完全にリスナーのテンションはMAX到達。
ライブ会場でのヘッドバンキングの嵐となる光景が目に浮かんできます。
後年に続々と出てくる「ただ速いだけ」「フックの欠片も無い」残念なスピード系?のバンド連中には、爪の垢でも煎じて飲ませてあげたくなりますね。
この曲はやはりポール・ディアノにこそ相応しい楽曲と言えるのではないでしょうか。
Purgatory
デビューアルバムのオープニング曲にしてシングルカットされた「prowler」をほうふつとさせるIRON MAIDEN初期のエネルギーに満ち溢れたスピードチューン。
印象的かつキャッチーなメロディのギターが終始鼻息荒く楽曲を引っ張りまくります。
そしてその土台を相変わらずの音数とグルーブ感で休むことなく支え続ける「忙し過ぎるリズム隊」。
とにかく「忙しい」という表現がぴったりの楽曲です。
各プレイヤーのやることが多い、まるで都心の駅前にあるマクドナルドの厨房の中のような楽曲です。
(いやいや、バイトしたことねーし。イメージだけで言ってます…。)
後に世界的知名度を獲得することになるIRON MAIDENですが、バンドの存在感が大きくなるにつれて当然その楽曲もどんどんスケールアップ。
大仰で長尺な楽曲が多くなっていきました。
ですが、本曲はその対極、真逆に位置する親近感とライブ感が何よりも魅力的な名曲です。
オーディエンスの手が届きそうな、バンドメンバーの飛び散る汗が降りかかってきそうな距離感の小さなライブハウスが似合いそうな楽曲ですよね。
まとめ
デビュー作でシーンに衝撃を与えたIRON MAIDENの魅力は、荒々しい攻撃性と「オペラの怪人」に代表される複雑な展開、ドラマティック性を兼ね備えた楽曲完成度の高さでした。
その後もKISSのオープニングアクト等を務めてライブでの実績を重ね、卓越したテクニックで当時のヘヴィメタルムーブメントの中で存在感を確固たるものとしていきます。
本作までの初期2枚のアルバムは、言い換えれば「バンドが世界的メジャーになる前だからこそ表現できたワイルドな音質、音楽性」であり、今となっては大変貴重な作品と言えるでしょう。
リリース後40年以上を経過した今でもなお、その切れ味は衰えることなくヘヴィメタルファンの魂を鋭くえぐってくるような迫力で溢れています。